万年Eランク冒険者は裏ですべてを支配する~かつて英雄と呼ばれた男は最強であること隠してひそかに生きる~

時野洋輔

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夜営と蝙蝠

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 その日、夜営をする場所は街道沿いの空き家だった。
 護衛が中を確認し、中を整える。
 当然だが、家の中に入るのはミネリスと世話をする男二人の合計三人だけ。
 本来だったら傍仕えのターニャが一緒にいるのだが、今日は不在だ。
 その説明はラークは聞かされていないが、吸血鬼になったことが原因だろう。一応、彼女は現在普通の人間に戻っているはずだが、念のためにトレシアの街に御者とともに置いてきたのだろう。

「パトリック、今日はお疲れ様」

 ラークは魔法で水を生み出して桶いっぱいに満たし、彼に飲ませる。
 それを護衛の男が感心するように言った。

「ラーク、水魔法が使えたのか?」
「ええ。ドブ掃除とか畑の水やりとかに便利なんです。攻撃には向いてませんけどね――あれって金がかかりますし」

 魔法というのは、体内に流れる魔力を使って奇跡を起こす御業のことだ。
 魔力は誰にでもあるが、その訓練にはかなりの時間が必要となる。大人になって魔法が使えるのは五人に一人くらいだ。
 大半の人間は魔法の修行方法を聞いて、実際に訓練してみるが成果が出ずに挫折する。
 そして、実際に魔法が使えるといっても、それが実用レベルになるのはさらに半数以下。
 そして、魔法には得意な属性があり、ラークが得意な魔法は水魔法だった。
 水魔法を攻撃用に転嫁する方法としてあげられるのが、ウォーターカッターという水の刃の魔法だ。
 しかし、ただの水を刃にしても威力が出るわけもなく、研磨剤などを使って放つ。当然、少量の研磨剤で効果はあまり出ない。
 それなら、もう普通に弓矢を飛ばした方が使えるレベルだ。

「いやいや、大したもんだ。馬の扱いも上手だし、姫からの評判もいいからな。どうだ? いっそのこと士官してみないか?」
「宮仕えは勘弁してください。気楽な冒険者が性に合ってます」
「勿体ないねぇ」

 そう言って、ラークは飛び出してきたウサギに向かって解体用のナイフを投げた。
 ナイフは盛大にハズレ、草地に落ちた。

「へたくそ」

 護衛の男が言ったが、ウサギがナイフに驚いて逃げたところで、木にぶつかって気絶した。
 ラークは笑みを浮かべ、気絶したウサギの足を掴む。

「運はいいみたいです。ウサギ、焼いて食べましょう」

 護衛達とラークの食事は携帯食の予定だったがウサギ肉を串に刺して、焼いて食べることにした。
 近くで採った香草と一緒に焼いて、塩を振って食べる。
 シンプルな料理だが、十分にうまい。
 小さなウサギだが、数人の護衛の胃袋を満たすには十分だった。
 そして――

「姫様の食事は別に用意していたんじゃ?」
「冷めたお弁当よりこっちの方が美味しいでしょ?」

 毒見もさせずに串肉を食べる。

(こういうところも、ラミリスに似ているな)

 少し過去を懐かしみ、二本目の串肉を食べたところで――

「――っ!?」

 ラークは突然立ち上がると、草むらの方に向かった。
 突然のことに全員が視線をラークに向ける。

「あんまり遠くに行くなよ」
「ええ、わかってます」

 護衛の一人に声をかけられ、ラークは草むらに入っていく。
 だが、本当の理由はそうではない。
 焚き火の灯りが見えなくなっところで、ラークは森の中からこちらに迫って来る何かに視線を向けた。
 蝙蝠こうもりだ。
 森の中を縦横無尽に飛ぶ蝙蝠に対し、ラークは持っていた二本の串を放った。
 同時に放たれた串は二本とも蝙蝠に突き刺さった。
 そして蝙蝠は地面に落ちずにそのまま消えた。

(魔力で作られた蝙蝠……吸血鬼の眷属。狙っているのはミネリスか。本体はまだいないようだが――)

 ラークは周囲を警戒するが、他の蝙蝠の気配も吸血鬼の眷属の気配もない。
 ただ、いまの彼では完全に探知できるわけではない。
 英雄の亡霊だったら、周囲一キロの範囲内の気配を探知できるのだが、今の彼ではせいぜい数十メートルが限度だ。

(ガウディルになろうにも制約を考えるとな……)

 森の中を警戒に当たろうかと思ったが、実はあの蝙蝠が陽動で別の狙いがあるかもしれない。
 なにより、これ以上森の中にいたら誰かが捜しに来るかもしれない。

(狙って来るとしたら今夜か)

 ラークは森の中から空を見上げる。
 吸血鬼が最も強くなる時間だ。
 だが、それはラークも同じ。
 何故ならラークにとって夜は仕事の時間だから。


 護衛たちは交代で休むことになったが、ラークは御者ということで見張りは免除された。
 馬車の隣で毛布にくるまり、気配を周囲に配る。
 護衛は合計六人。
 家の中に二人。
 外に一人。
 馬車の周囲で寝ているのが三人。
 そして――ミネリスの気配が一つ。

(あの気配……そういうことか)

 彼はその事実に気付き、そっとその姿を闇夜に気配を溶かしていった。
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