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魔法研究家マリン
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お腹を満たしたラークは城の中を歩いて行く。
周囲からは誰も気付かない。
気配を消しているのではない。
下手に気配を消せば気付かれる
気配を消すのではなく、気配を溶け込ませる。
埋没という技能だ。
周囲の人間はラークが見えている。気配も読めるし足音も聞こえる。
ただ、そこにいて当然の背景のように見えるのだ。
それでいて、ラークは周囲の気配を読む。
(なんでこの気配が?)
ある特徴のある魔力に気づく。
その魔力の量が尋常ではない。
ラークはその部屋を目指していく。
城の離れ。
北西の塔から気配は漂っていた。
扉の前には衛兵がいた。吸血鬼でもないし、魅了もされていない。
普通の衛兵のようだ。
さすがに気配を溶け込ませていても、部屋に入ろうとすれば気付かれる。
ラークは一度外に出ると、壁伝いに上っていく。
そして目的の部屋の前に出ると窓を叩いた。
反応はない。
もう一度窓を叩く。
やはり反応がない。
鍵が掛かっているようだが、無理やり鍵をこじ開けようかと思いナイフを取り出したところで、窓が開いた。
窓を開けたのは眼鏡をかけた見た目は幼いピンクブロンドの少女。
しかし、年齢は二十五歳の歴とした大人の女性だ。
「ご飯の時間?」
「窓からご飯を届けるはずがないだろ」
「その声……マスター?」
「久しぶり、マリン」
覚えていなかったらどうしようかと思ったが、ちゃんと思い出してくれてラークは安心した。
彼女の名前はマリン。
魔法研究家だ。
十五年前に奴隷商から保護した少女の一人で、ともに《闇紅竜》と戦った仲間でもある。
「中に入るけれど大きな声は出さないでね」
ラークはそう言って中に入った。
そして、窓を閉じる。
「マリン、どうしてここに? 王都近くの洞窟に引きこもってたはずだろ?」
「お金が無くなった。届いてた手紙の中から一番手当てのいい仕事を選んだらここだった」
マリンは魔法研究のためなら金に糸目を付けずに必要な資材を買いあさる悪い癖がある。
《闇紅竜》討伐の報酬はガウディルの仲間たちが均等割りで割り当てられた。その額は人生数百回は遊んで暮らせる額なのだが、彼女はそのお金を僅か一ヶ月で使い切ったというのはキアナから聞いた話だ。
その後も、彼女は様々な研究をして成果をあげていて、それをキアナが利用することで莫大な富を得ているはずなのだが、やはりそれらも研究のために溶かしている。
マリンに届けられる仕事の依頼の手紙は、信用できる人間に頼んで検閲させている。
犯罪組織から仕事の依頼が届いたとしても、金がよければ研究資金のために引き受けてしまう可能性があるからだ。
吸血鬼騒動がなかったら、国からの、しかもミルファリスの同盟国からの依頼だからその検閲も通過してしまったようだ。
「誰に雇われたんだ?」
「この国に」
「いや、国といっても雇い主はいるだろ? 第一公子とか、国王陛下とか宰相とか」
ラークのの質問にマリンは首をかしげる。
(興味のないことはとことん興味がないのがマリンだった。全然変わってないな)
彼女とこうして会うのは十年ぶり。
少しは成長しているかとラークは少し期待していた。
キアナからの伝聞もあって驚きはしないが、少し残念だ。
しかし、あの時と見た目も中身も変わらないマリンを見て少し安心もしている。
「それで、何の研究をしてたんだ?」
「いまは依頼で《魅了》を解く薬の研究をしてる。興味深い」
「《魅了》を解く薬の研究……ってことはレナルドに雇われてるわけじゃないのか」
レナルドに雇われているのだとしたら、わざわざ国王の《魅了》を解くための薬を作らせたりはしないだろう。
《魅了》を解く方法は三種類ある。
一つ目。
《魅了》を掛けた吸血鬼の意思によって解除する。吸血鬼の眷属にされた場合も同様に解除される。
二つ目。
制限時間が切れる。術者の魔力によって、制限時間は変わる。一般的な吸血鬼による《魅了》の場合、一日程度しか効果はない。だが、公爵レベルの吸血鬼が魅了すれば、数カ月は魅了が解けることはない。
三つ目
《魅了》を上書きする。魅了状態にした吸血鬼よりも数段階上位の吸血鬼にのみ可能。
ちなみに、吸血鬼に魅了されている状態の人間は、下位の吸血鬼によってその眷属にすることはできない。
《魅了》とは、吸血鬼によるマーキングと言われている。
国王陛下が公爵レベルの吸血鬼に魅了されているとすれば、それを上書きして解除できる吸血鬼は伝説級の始祖の吸血鬼のみ。つまり、実質不可能ということになる。
そんな中、マリンは四つ目の方法を生み出そうとしている。
「それで、できたのか?」
難しいだろうと思うが、念のために尋ねた。
「試作品が三本できた」
「できたのかっ!?」
それは驚いた。
「まだ試作品。実際に試して初めて完成する」
「そうか。だったら、ちょうど魅了されている衛兵がいるからそいつに使ってみるか?」
「それは公爵に?」
「いや、新米吸血鬼にだが」
「……実験結果を確かにするにはもっと上位種の吸血鬼に魅了されている人に試したい。マスター、協力してほしい」
「協力って、お前、まさか――」
「ガウディルになって、私を魅了してみて。そして自分で実験する」
周囲からは誰も気付かない。
気配を消しているのではない。
下手に気配を消せば気付かれる
気配を消すのではなく、気配を溶け込ませる。
埋没という技能だ。
周囲の人間はラークが見えている。気配も読めるし足音も聞こえる。
ただ、そこにいて当然の背景のように見えるのだ。
それでいて、ラークは周囲の気配を読む。
(なんでこの気配が?)
ある特徴のある魔力に気づく。
その魔力の量が尋常ではない。
ラークはその部屋を目指していく。
城の離れ。
北西の塔から気配は漂っていた。
扉の前には衛兵がいた。吸血鬼でもないし、魅了もされていない。
普通の衛兵のようだ。
さすがに気配を溶け込ませていても、部屋に入ろうとすれば気付かれる。
ラークは一度外に出ると、壁伝いに上っていく。
そして目的の部屋の前に出ると窓を叩いた。
反応はない。
もう一度窓を叩く。
やはり反応がない。
鍵が掛かっているようだが、無理やり鍵をこじ開けようかと思いナイフを取り出したところで、窓が開いた。
窓を開けたのは眼鏡をかけた見た目は幼いピンクブロンドの少女。
しかし、年齢は二十五歳の歴とした大人の女性だ。
「ご飯の時間?」
「窓からご飯を届けるはずがないだろ」
「その声……マスター?」
「久しぶり、マリン」
覚えていなかったらどうしようかと思ったが、ちゃんと思い出してくれてラークは安心した。
彼女の名前はマリン。
魔法研究家だ。
十五年前に奴隷商から保護した少女の一人で、ともに《闇紅竜》と戦った仲間でもある。
「中に入るけれど大きな声は出さないでね」
ラークはそう言って中に入った。
そして、窓を閉じる。
「マリン、どうしてここに? 王都近くの洞窟に引きこもってたはずだろ?」
「お金が無くなった。届いてた手紙の中から一番手当てのいい仕事を選んだらここだった」
マリンは魔法研究のためなら金に糸目を付けずに必要な資材を買いあさる悪い癖がある。
《闇紅竜》討伐の報酬はガウディルの仲間たちが均等割りで割り当てられた。その額は人生数百回は遊んで暮らせる額なのだが、彼女はそのお金を僅か一ヶ月で使い切ったというのはキアナから聞いた話だ。
その後も、彼女は様々な研究をして成果をあげていて、それをキアナが利用することで莫大な富を得ているはずなのだが、やはりそれらも研究のために溶かしている。
マリンに届けられる仕事の依頼の手紙は、信用できる人間に頼んで検閲させている。
犯罪組織から仕事の依頼が届いたとしても、金がよければ研究資金のために引き受けてしまう可能性があるからだ。
吸血鬼騒動がなかったら、国からの、しかもミルファリスの同盟国からの依頼だからその検閲も通過してしまったようだ。
「誰に雇われたんだ?」
「この国に」
「いや、国といっても雇い主はいるだろ? 第一公子とか、国王陛下とか宰相とか」
ラークのの質問にマリンは首をかしげる。
(興味のないことはとことん興味がないのがマリンだった。全然変わってないな)
彼女とこうして会うのは十年ぶり。
少しは成長しているかとラークは少し期待していた。
キアナからの伝聞もあって驚きはしないが、少し残念だ。
しかし、あの時と見た目も中身も変わらないマリンを見て少し安心もしている。
「それで、何の研究をしてたんだ?」
「いまは依頼で《魅了》を解く薬の研究をしてる。興味深い」
「《魅了》を解く薬の研究……ってことはレナルドに雇われてるわけじゃないのか」
レナルドに雇われているのだとしたら、わざわざ国王の《魅了》を解くための薬を作らせたりはしないだろう。
《魅了》を解く方法は三種類ある。
一つ目。
《魅了》を掛けた吸血鬼の意思によって解除する。吸血鬼の眷属にされた場合も同様に解除される。
二つ目。
制限時間が切れる。術者の魔力によって、制限時間は変わる。一般的な吸血鬼による《魅了》の場合、一日程度しか効果はない。だが、公爵レベルの吸血鬼が魅了すれば、数カ月は魅了が解けることはない。
三つ目
《魅了》を上書きする。魅了状態にした吸血鬼よりも数段階上位の吸血鬼にのみ可能。
ちなみに、吸血鬼に魅了されている状態の人間は、下位の吸血鬼によってその眷属にすることはできない。
《魅了》とは、吸血鬼によるマーキングと言われている。
国王陛下が公爵レベルの吸血鬼に魅了されているとすれば、それを上書きして解除できる吸血鬼は伝説級の始祖の吸血鬼のみ。つまり、実質不可能ということになる。
そんな中、マリンは四つ目の方法を生み出そうとしている。
「それで、できたのか?」
難しいだろうと思うが、念のために尋ねた。
「試作品が三本できた」
「できたのかっ!?」
それは驚いた。
「まだ試作品。実際に試して初めて完成する」
「そうか。だったら、ちょうど魅了されている衛兵がいるからそいつに使ってみるか?」
「それは公爵に?」
「いや、新米吸血鬼にだが」
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