VR世界の双剣少女は初めてのゲームを満喫する

時野洋輔

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運営記録その2※別視点

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 Immersiaの世界は常に変化している。
 独自のAI生成により追加されるダンジョンやクエスト、新しく生み出される強力な魔物、そして画期的なアイテム。
 当然、それらがいきなり世界に生み出されるわけではなく、プレイヤーたちのいるゲームの世界から切り離された別空間で確認作業が行われる。
 それを行うのも最中とスタッフの仕事だ。
 最中を含めた開発室のスタッフ十人がかりでAIが作ったレイドボスに挑んだ。
 装備も一級品、レベルはカンスト、称号によるボーナスもてんこ盛り、魔物の情報や弱点も把握した上で、チートではないがプレイヤーが得られる最高水準の状態で挑んだ戦いだったが――全滅した。

「なんなんだ、あの全体攻撃は! 十回連続の波状攻撃をゼロコンマ一秒のタイミングを外さず全て避けなければ一撃死だと! バランスが悪いにも程がある!」
 
 最中が悪態をつき、下半身も人間の姿でベッドに横になった。
 ずっと仮想現実の中なので肉体的な疲労はない。
 あくまで気分の問題で横になっている。
 昨日のアラクネモードではなく魔術師の姿をしているのは、先ほどまでの戦いの衣装のままだからだ。

「私たちはゲームを作るプロではあるがゲームをするプロではない。しかし、平均より強い。そのメンバーが完璧な対策を講じて攻略できないとか私のImmersiaをクソゲーにするつもりか! 難易度を下げろ!」

 ゲームに強い敵は必要だが、一番強いのは人でなくてはならないと最中は思っている。
 このImmersiaにおいても、最終的な勝負はボス戦ではなくギルド対抗による対人戦が目玉になると最中は考えている。
 あくまでゲームの魔物は強くなるための手段であり、必ず越えられる壁でなくてはならない。平均的なプレイヤー技術を持つ人間が倒せなければ努力を積み、努力をすれば倒せる。
 それがゲームの醍醐味だ。
 例えば、先日宮本ことね以外が倒すことができなかったギルド教官のクレハス。
 彼もまた越えられる壁であると最中は思っている。
 彼に挑む前に雑魚モンスターを倒してレベルを上げ、しっかりステータスを振り分ければ素人でもゴリ押しで勝てる。
 ただ、ステータスの差があり過ぎるので莫大な時間と労力が必要になり効率が悪すぎる上に、得られる称号もギルド評価に影響というゲーム終盤ではあまり意味を為さない称号のため、普通に戦った方が遥かに効率がいいのだが。
 ともかく、対NPCの戦いとはそういうものだ。

 中には戦略が必要な場合もある。
 例えば、初心者ダンジョンのチャレンジボス。
 あれはまさに戦略が必要な初見殺しのボスと言えるだろう。
 通常通り初心者ダンジョンを攻略すればレベル10に到達しているのでボス攻略後は二度と初心者ダンジョンに入れなくなる。つまり、クレハスと同様、基本一度しか挑戦できないのだから質が悪いボスだが。

「鈴木、初心者ダンジョンの攻略状況はどうだ?」
「自分で調べてくださいよ。端末はそっちにあるっすよね?」
「うるさい、調べろ。室長命令だ」
「(ちっ、パワハラで倫理委員会に訴えてやればいいんっす)」
「何か言ったか?」
「何にも言ってないっすよ」

 鈴木はそう言って端末を操作して調べた。

「二十五人全員攻略してるっすね。うち、通常ボスSランククリアが二十人。これは優秀っすね。開発部の連中だとSランククリアは三十人中二十人だったっすから」
「で、チャレンジボスは?」
「Sランクを取った二十人全員が挑んでるっす。完全クリアは……お、三人もいるっすよ」

 鈴木がそう言うと、最中は喜んでベッドから起き上がり、自分の端末をいじり出す。
 現金なものだと鈴木は思った。
 最中はゲームを作るのが好きだが、それと同じくらい自分のゲームを理解し考察し期待に応えるプレイヤーが好きなことを鈴木は知っている。
 きっと全ての動画を見終わったとき、彼女は先ほどまでのイライラはどこへやら、笑顔になっていることだろう。
 そうなったら仕事もしやすくなる。
 そう思っていたら――

「なんだこれはっ!?」

 怖い顔をして最中が叫んだ。

「どうしたっすか?」
「見てみろ! 例の宮本ことねだ! 奴がリザードソルジャー100体を完全撃破した!」

 そう言って最中が端末をいじる。
 すると、虚空に現れたモニターに戦闘シーンが映し出された。
 例のことねがリザードソルジャーと戦っている。
 その姿はまさに一騎当千の武将という感じだ。
 後ろに目があるのではないかというぐあいに敵の攻撃を避けながら数を減らしていく。
 HPが一割未満になる危険なシーンもあったが、ポーションで回復してからは危なげなく敵を確実に討っていった。
 
「確かに凄いっすね。でも、あの子ってクレハスに勝った唯一のプレイヤーっすよね。ことねちゃんより弱いプレイヤーでも勝てる相手なら倒せて当然じゃないっすか?」
「バカを言うな。レベル20にも満たないそこらのプレイヤーが真正面から戦って100体のリザードソルジャーに勝てるわけがないだろ。しかも宮本ことね、奴はスキルも魔法も何一つ装備していないのだぞ!」

 そう言って彼女は勝利した他の二人の戦闘動画を虚空に映した。
 一人は氷属性の広範囲魔法を使って魔物を全滅させている。
 そしてもう一人の薬師は広範囲の状態異常を生み出す薬を撒いてリザードソルジャーを痺れさせてから一体ずつ全滅させている。
 どちらもハメ技と言っていいだろう。

 もちろん、簡単なことではない。
 魔法使いはINT特化の上、魔力増強薬を飲んでいる。もしINTが少しでも足りなければ一撃で倒しきれずにボコボコに殴られて終わっていた。ログを見ると回復の泉を利用してダンジョン最下層で一晩中レベリングしていたらしい。
 INT極振りがたまたま功を奏した、運がよかったプレイヤーである。
 もう一人の薬師の状態異常薬――リザードソルジャーは通常の麻痺毒は効かず、蜥蜴殺しと呼ばれる麻痺毒が必要になる。これを作るには素材採取にかなり手間がかかる上にDEX値とプレイヤーの技術が必要になる。
 恐らく初心者ダンジョンのボスに関する情報を集め(街はずれの薬師のお婆さんに金を渡せば教えてくれる)、必要な素材を集めて薬を調合した。
 慎重で有能。
 最中の好きなプレイヤーの戦い方である。

 だが、宮本ことねは運がよかったわけでもないし、慎重に情報を集めたわけでもない。
 彼女は正面から戦い試練に打ち勝った。

「凄いっすね。背後からの攻撃を避けてるっすよ。気配を読むって奴っすか?」
「バカ言え。現実ならわからないがゲームの中にそんなオカルト技能があってたまるか。あれは敵の行動パターンを把握して避けている。天才だよ、あいつは」

 だが、最中には理解できない。
 クレハスとの戦いは、まだ剣道の成果だと言われたら納得できる。
 だが、背後からの攻撃を避けたり、一度に百体を相手にする戦いは剣道には存在しない。
 一体、剣道とあの動きにどのような関連があるのか?
 まさか、父親の謎訓練の成果だとは思いもせず、最中はことねの戦いを観察し、無駄な考察を重ねる。
 そして、鈴木はというと、管理者権限を使い、ことねが得た宝箱の中身をそっと覗き見た。

「へぇ、ことねちゃん。あのアイテムを手に入れたっすか。これは面白いことになりそうっす」
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