【完結】チートスキル『早着替え』で異世界無双 ~脱衣も着衣もお手の物~

戸部家尊

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第四章 赤い着物を着る者よ

第31話 柚の木に裸で登る 上

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第31話 柚の木に裸で登る 上

 沈み行く夕陽はイースティルムの空を黄昏色に染め上げていた。西からの淡い日差しは建ち並ぶ家屋や教会、学院、そして領主の館を包み込み、夜へと静かに塗り替えていく。

 ローズマリーは館を見上げる。気味の悪い静寂に包まれていた。いつもなら巡回している兵士の姿もなく、夕餉の支度で追われている使用人や侍女らの忙しない足音も聞こえない。

 ローズマリーは訪問も告げず、無言で門を押した。仮に誰何の声を掛けられても返答するつもりはなかった。
 この忌まわしき『冥王の鎧』もどきを装着しているなら尚更だろう。

 今日の昼過ぎ、校舎の壁に巨大な文字が書かれていた。報告を受けたローズマリーが駆けつけると、鉄錆の臭いがした。

  『鬼剣オーガ・ソード』のニセモノへ。
  今夜、鍵を持って扉の前に来い。
  来なければ町中の人間を皆殺しにする。

 赤く乱雑な文字が人間の血で書かれたのは明らかだった。

 壁の下にボロぞうきんのようになって倒れている女生徒の死体を見れば、誰にでもわかることだ。
 そして『リターナー』からの挑戦状であることも。
 
 ローズマリーは震えた。陛下の仇の名を初めて知ったことや、皆殺しというありふれたおどし文句よりも、扉の前に来いという文字に。

 間違いない。『リターナー』は『扉』の位置を探り当てたのだ。

 そうと知ったローズマリーは例のレプリカを身に纏い、連中の誘いに乗ることにした。『リターナー』相手に数を揃えたところで亡骸を増やすだけだ。

 援軍を頼もうにも間に合わない。せいぜい町の人間を避難させるのが精一杯だろう。

 一番効果覿面なのは、『鍵』を破壊することだが、アースクロフト家の末裔たる矜持がそれをためらわせた。何より『鍵』は勝機にも繋がる。文言から察するに連中は扉の付近にいる。ならばうまく出し抜き、封印の中に押し込めることが出来れば、町もローズマリーも生き残る道はある。

 問題は『扉』の位置を知らないことだったが、それはあっさりと解決した。夕暮れ、ローズマリーの机の上に地図が置かれていた。イースティルムの町のある場所に印が付けられていた。わざわざ案内状まで用意してくれるとはご苦労なことだ。

 まさか、『扉』がこんな近くにあったとは。ことわざでいうところの「石像悪魔ガーゴイルは頭の泥を払わない」というやつか。

 見咎められるのを警戒して体が入るぎりぎりの隙間から滑り込むが、その必要はなかった。
 足下に兵士が死体となって倒れていた。

 館の中に入ると、死体の数は次々と増えていった。首のない者、両腕のもがれた者、上半身と下半身を断たれた者、身分の上下を問わず、無残な姿を晒していた。その中には、イースティルム領主クリフトン・クィントン伯爵も含まれていた。

 抵抗しようとしたらしく、手には剣が握られている。力ずくで指を外し、剣を手に取る。

 かつて『リターナー』退治のために鍛えられた宝剣『聖イヴァンの剣』だ。再生能力を封じる力があるという。クィントン伯爵家の秘宝だが、たった今絶えたところだ。借りたところで問題あるまい。

 三百年前の骨董品がどこまで通用するかは疑問だが、ないよりはマシだろう。あの『ロストナンバー』という『リターナー』は前回より確実に強くなっている。同じようにはいくまい。こちらとしても少しでも強化しておきたい。

 ほかにもいくつか『リターナー』対策の武器を失敬すると、ローズマリーはベランダに出る。波もなく穏やかな湖面を見下ろしながら桟に足を掛ける。

 振り返り、静まりかえった館に向かって呪文を唱える。手のひらから放たれた炎の玉は領主にぶち当たり、火柱を上げる。高温の火は領主を黒焦げにするのみに留まらず、撒いておいた油・・・・・・・をつたって館の奥へと蛇のように這い回る。全焼は時間の問題だろう。

 いちいち死体を移動させて弔う時間はないし、これ以上、敵は増やしたくない。

 赤い炎は屋根まで広がった。燃えさかる館を背にして、ローズマリーは桟を踏みしめ、夜空へと飛び込んだ。

 見上げると黒い煙が立ち上っているのが見えた。崩れ落ちる音とともに館の屋根が抜け落ちる。熱で基礎が弱くなったのだろう。明日には瓦礫と変わっているはずだ。

「ずいぶんと思い切ったマネをするじゃねえか」
「問題ない」

 冷やかすような声にもローズマリーは平然と応じる。声を変える必要はもうない。わずかではあるが魔力を消耗する。今日、この場においては命取りになりかねない。

 振り返ると、静まりかえった湖畔に狼の顔をした男が立っている。

「今夜起こった惨劇は全て貴様らのせいだからな」
「臆面もなく責任転嫁かよ」

 『ロストナンバー』が口笛を吹く。

「やってらんねえな」
「残念なのはこちらも同じだよ」
 ローズマリーは手に入れたばかりの『聖イヴァンの剣』の先端を突きつける。

「貴様の転生先もすでにお見通しだ。優秀な生徒だったのにな。ブライアン六年生」
「こいつはアンタのこと嫌ってたみたいだがな。校長先生」

 正体が見抜かれたことに驚きはしたが、動揺はしなかった。すでにユキチに知られている身だ。あるいはユキチが漏らしたのかも知れない。

「『鍵』は持って来たか」
「ああ」と鎧の下から『鍵』を取り出す。

 『ロストナンバー』は目を細めてしきりに頭を動かす。目線を固定したまま、本物かどうか確かめているようだ。
「どうやらニセモノじゃあなさそうだな」
 用意することも考えたが、下手な小細工はやはり通用しないようだ。

「このままお礼参りとしゃれこみたいところだが、その前に本題に入ろうか」
 『ロストナンバー』は殺意の籠もった目を光らせる。

「『鬼剣オーガ・ソード』はどこにいる」

 先程までの人を食ったような態度とは打って変わって、真剣な態度にローズマリーは兜の下で面食らった。

「『鬼剣オーガ・ソード』というのは、貴様らの仲間ではないのか?」
「とぼけんなよ」
 狼男は語気を強める。

「あいつが俺たちを裏切って人間の味方をしているのは知っているんだ。テメエもそうと知っているからそんな格好しているんだろ。それともコスプレか」

 ローズマリーはますます混乱した。長い戦いの歴史で、味方になった『リターナー』などただの一人もいない。何より『鬼剣オーガ・ソード』はダニエル陛下の仇でもある。そんな奴が今更、人間の味方をするなどあり得るだろうか。

「まあいいや」
 返答は得られないと悟ったらしく、『ロストナンバー』は自ら会話を打ち切った。

「テメエからブチ殺してやればそのうち現れるだろ」
「やれるものならやってみるがいい」

 『聖イヴァンの剣』を高々と掲げる。『リターナー』の体力は無尽蔵。長期戦は不利だ。短期決戦で行くしかない。油断している今がチャンスだ。

 ローズマリーは雄叫びとともに距離を詰め、銀色の宝剣を振り下ろす。『ロストナンバー』が不敵な笑みを浮かべる。

 『リターナー』殺しの宝剣は、狼男の頭上で静止する。左手の人差し指と中指に挟まれて。
「余興はもう終わりか?」

 ぴしり、と指の隙間からいびつなヒビが入るのが見えた。

「そう急くな」ここまでは想定の範囲内だ。「本番はこれからだ」

 ローズマリーは左手を剣の柄から離し、自身の兜を無造作に放り投げた。これはさすがに予想外だったのだろう。一瞬、狼男の目に戸惑いが生まれる。

 そこを待っていた。空いた左手で『ロストナンバー』の右手首をつかむ。勢いを付けるべく、わずかに首を反らすと、舌先を動かし、口の中に仕込んだ『鍵』を口の中から取り出した。

 そこから亀のように首を伸ばし、衝撃に備えて奥歯でしっかりとくわえ、幾重にもわかれた先端をがら空きの胸に打ち込んだ。

 『ロストナンバー』の絶叫が上がる。

「なんだと……? いつの間に……」
「手に持ったのでは、貴様は気づいただろうからな」
「クソッタレ!」

 罵詈雑言とともに力任せに腕を振り回す。当たれば人間の頭など果実のように砕かれるだろう。その風圧を肌で感じながらローズマリーはしゃがみこんでかわすと、立ち上がる勢いとともに腕を伸ばす。そして、胸に突き刺さったままの『鍵』を更に奥深くへと押し込む。

「楽しんでいただけたかな」

 あとはこのまま『ロストナンバー』を封印する。『鍵』の使い方はとうに調査済みだ。『扉』を開けるだけではなく、『鍵』単体でも封印は可能なのだ。その代わりに膨大な魔力を必要とする。ローズマリーでも一度使えばしばらくは魔法が使えなくなるだろう。が、この怪物を倒せるなら安いものだ。準備は整っている。口の中に仕込んだときから魔力を注ぎ込んでおいた。


 手甲越しに触れた『鍵』に力を吸い取られる感覚に、めまいを感じるが必死に歯を食いしばって耐える。
 魔力を受けた『鍵』の先端に黒い渦が生まれる。小さな渦は『ロストナンバー』の胸を中心として、段々と広がっていく。

 狼男の悲鳴が上がる。胸に大穴が空いているのだ。いかに死なない存在だとしても苦痛だろう。膝を突き、咆哮を上げて全身を身悶えさせている。狼男なりに抵抗を試みているようだが、『鍵』は『リターナー』の力を弱体化させる。いかに『上位種トップランカー』といえど、簡単に破れるシロモノではない。とどめとばかりに残りの魔力を注ぎ込む。

「終わりだ」

 その時、強い衝撃とともに目の前に黒い影が横切った。それが宙を飛ぶ自身の右腕と知った時、ローズマリーは蹴り飛ばされ湖の波打ち際に飛沫を上げて倒れ伏した。目の前を黒い霧が包み込む。そのまま気絶しそうになるが、頭を振ってかろうじて意識を保つ。

 右腕を失ったダメージよりもまず何が起こったかを知るべく、顔を上げる。

 白い狼男の横にもう一つの人影が立っていた。目も口もないのっぺらぼうの白い仮面に、赤い双角のような帽子、右腕と左足を紅く染め、左腕と右足を黒く塗った上下つなぎの服、靴は左足だけが極端に大きく、つま先の辺りが丸まっており、そこに人の顔が描いてある。
 まるで道化師のような姿をしていた。

「まだ仲間がいたのか……」
 ローズマリーは歯がみする。迂闊だった。本来なら予想して然るべきなのに。

「やあ、ケガはない……よね。よかったね、もう少しで君まで封印されるところだった」
「よく言うぜ。テメエの余興に付き合わされる身にもなれってんだよ」
「まあまあ。おかげで面白い見世物も見られたじゃないか」

 道化師は肩をすくめると、切り飛ばされたローズマリーの右腕とじゃんけんを始めた。
「君を封印しようと必死になって戦うのは見ていて楽しかったよ。こんなもので君を封印できると信じて一生懸命なところとかさ。おもちゃの刃物で強盗をくわだてるなんて、むしろ微笑ましいじゃないか」

 『ロストナンバー』の胸から『鍵』を引き抜くと、自身の頭にずぶりと音立てて差し込んだ。

「旧式の封印で封じられるのは、前時代の『リターナー』までだよ。作り事態は悪くはないけど、まあ時代遅れだね」

 ぽとり、と仮面をわずかに外すとあごの下から『鍵』が落ちてきた。

「ご苦労様」

 ローズマリーは全身の力が抜けていくのを感じた。
 認めたくはないが、どうやら、最初から『リターナー』の、あの道化師の手のひらの上だったらしい。
 なるほど、通じもしない武器を後生大事に振り回す姿は、さぞ滑稽だっただろう。
 おかげで右腕を失い、今も血が止まらない。あと数分もすれば失血死するだろう。

 だがそれでも、ここで座して死を待つつもりはない。『鍵』が『ロストナンバー』たちに通用しなくても、封印を解くアイテムに変わりはない。

 何としても奪い取り、奴らの手の届かない場所に。膝をつきながらもどうにかして立ち上がる。

「おや、まだ。戦うつもりみたいだね」
 道化師はむしろ感心したような口調で言った。

「どうせ勝てないまでもせめて、『鍵』だけでも奪い返してやろうってところかな。相変わらず生真面目だね」

 その言葉にローズマリーは眉をひそめた。この道化師は……いや、『リターナー』の転生先となった死者は、知り合いだったというのか。

「ご褒美に見せてあげるよ」

 道化師は仮面を外した。すると奇抜な衣服は一瞬で消え去り、仮面の下に現れたのはまだ少年といっていい男性だった。

 ローズマリーは気が狂いそうになった。

「久し振りだね、姉さん」
 亡き弟・チェスターとの再会であった。
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