鬼畜ゲーとして有名な世界に転生してしまったのだが~ゲームの知識を活かして、家族や悪役令嬢を守りたい!~

ガクーン

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エルテラ その2

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「オルトスさん。あなたはゼルフィー商会をもっと大きくしたいと思ってないんですか?」

 突然アルスはオルトスに問いかける。

「……何を」

「だから、貴方はゼルフィー商会をもっと大きくしたいと思っていないのかと聞いているんです」

 オルトスは一体何を言っているんだという顔をしながらアルスを見るが、アルスは真剣な表情でオルトスへ言葉を投げかける。

「もちろん、大きくたいと思っていますが……」

「なら、この商談を受けておいた方がいいですよ」

 オルトスは聞いて損したと言わんばかりにため息をつく。

「突然何を言い出すのかと思いましたが、そんなことですか。……もう一度言いますが、エルテラは通常時で銀貨11枚。この金額でも我々の利益は雀の涙ほどです。それなのに、銀貨10枚で取引をしたとなれば、利益どころか大赤字。アルス様、……こちらの事情も考慮してください」

 オルトスはいい加減うんざりだとアルスへ答える。そしてお帰り下さいと言って、オルトスが席を立ちあがった時。

「近々、王国全土を巻き込んで、。その時、私はあなたの商会にある物を優先して流したいと考えています。他の商会ではなく、あなたの商会に……、ゼルフィー商会にです」

「一体何を……」

 オルトスは動きを止める。

「今はこれ以上は言えませんが、今日提示した案を飲んでくだされば、今後、確実にゼルフィー商会の利益に繋がると言ってもいいでしょう。これでも貴方が私を信じてくれないなら……」

 アルスは動きを停止させていたオルトスを脇目に帰る準備を済ませ。

「縁がなかったという事で、他の商会にこの話を持っていこうと思います」

 アルスは残念そうな表情を浮かべ、席を立とうとする。

「っ、待ってください!」

 オルトスがハッとした様子で、慌てて声をかける。

「……どうしたんですか?」

 そんなオルトスに背中を見せながら、かかったな。と言わんばかりの笑みを浮かべ、もう貴方に興味ないと言った声音で尋ねる。

「その話……、本当なんですね?」

「はい?」

「その話! 本当なんですね?」

 先ほどのオルトスからは感じられなかった気迫が感じられる。

「オルトスさんが信じるのであれば」

 すると、オルトスは黙り、静かに座る。そして、一枚の用紙を取り出し、ものすごい勢いでペンを走らせる。

「ほんとなら受けたくありませんよ……、こんな話。ですが、私の直感。商人の勘が訴えかけてくるのです。この商談に乗れ……、と。乗ればゼルフィー商会の今後の大きな一歩になると」

「へぇ……」

 アルスはここで声に出して教えてあげたかった。貴方の勘は正しい……、と。

 しかし、簡単に答えを教えてくれるほど、この世はそこまで優しくはない。


 何より、人に貴方の勘は正しい……、と言われるより、数年後、または数十年後に。

『あぁ、あの時の決断は間違っていなかった』と自分で実感する方が何倍もいいものだろう?


 オルトスはペンを走らせながらも、言葉を続ける。

「……ははっ、私はいつから利益を優先する男になっていたのでしょう。ゼルフィー商会を立ち上げた時は、自分の商人の勘だけを頼りにして、ここまで大きくしたというのに。いつの間にか、この私が利益という、つまらないモノにとらわれていたとは」

 オルトスは憑き物が落ちたかの様に、大きな笑い声を部屋中に響かせる。

 さっきよりも何倍もいい男になったな。

「分かりました。乗りましょう。アルス様。その、時、ゼルフィー商会をどうぞよろしくお願いします」

 オルトスは契約書を作り終え、アルスへと手渡す。

 そして、その契約書をアルスが受け取り、自身のサインをすると。

「もちろんです。こちらこそ、今後ともよろしくお願いします。」

 二人はテーブルを挟み、熱い握手を交わした。



 今はまだ、小さな商会であるゼルフィー商会。そんなゼルフィー商会は遠くない未来、王国随一の商会として名を馳せるのだが、その一歩を歩み始めたのは、アルスとの商談だったということは言うまでもないだろう。
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