鬼畜ゲーとして有名な世界に転生してしまったのだが~ゲームの知識を活かして、家族や悪役令嬢を守りたい!~

ガクーン

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繋げた希望

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~サリアナと白銀の戦士の決着直前~

『……ス』


 ……なんだ?

 突然聞こえた声に反応するアルス。

 横になるように寝そべっていたアルスはゆっくりと目を開け、不自然に靄がかかった空間で左右を見渡す。

 
 ……気のせいか。

 しかし、靄のせいもあり何も捉えられず、思考を停止させるかのように目を閉じる。



『……ルス』


 まただ。

 だが、謎の声が再度聞こえると、無性にその声が気になり、重い体を無理やり起こす。


 近くから聞こえたようにも感じた。

 アルスは周りをもう一度注意深く見る。


 ……周りには誰もいないし何もない。

 アルスの目の前に広がるのは濃い霧が展開しているかのような、先が何も見えない世界。


 はぁ……無性に眠い。

 やっぱり周囲に何もない事を再確認し、自分が今、何処にいるかも分からず、ただ、自身を襲う急激な眠気によって、もう一度眠ろうと体を倒したその時。


 待て……何もないだと?

 この環境の異常性に気が付く。


 そこからのアルスの行動は早く、更にもう一度、警戒を強めながら周囲に注意を配る。


 辺り一面、白い霧がかかっているかのように先が見えない。

 眠気に抗いながら、その場で立ち上がり、体を伸ばし、白い霧を掴むかのように手を伸ばす。


 ……これは霧じゃないな。

 水滴が体に纏わりつく様子もない。どちらかと言うと、煙に近いか?

 一つ一つ現象を確認しながら、あてもなく適当な方向へと歩いてゆく。


 どういう事だ?

 歩いても歩いても先が見えない。

 アルスの視界に映るのは同じ光景ばかり。


 一体ここは何処なんだ……

 まるで、別世界に自分一人が取り残されたかのような気分。

 不思議な空間に一人佇み、さっきまで何をしていたのかも思い出せないと心の中で自問自答するアルスの元に。



『アルス』

 っ!

 先ほどから定期的に聞こえる声が届く。


 今度ははっきりと聞こえた。

 確か、アルスって……っ!


 ……そうだ。

 俺は……アルス。アルス・ゼン・アルザニクス。

 その瞬間、記憶がよみがえるかの様に、自分が呼ばれていたことに気が付く。

 そして、今までの事……出来事が次々と頭の中で再生される。


 そうか。ここは夢か。

 その過程で、この場所が夢だという事を理解する。


 つまり俺は……

 そうして、これまで起こった事。つまり、襲撃の一部始終を思い出し。


 早く戻らなければ!

 軽く目をつぶり、念じる。

 少しでも早くあの場に。意識を戻せ……と。


~~~

「ん……ううん……」


 アルスは意識を取り戻し、徐々に目を開けていく。


 ま、眩しい。

 そして、目に入る光の眩しさにやられながらも、薄目で開ける事に成功する。


「アルス?」


 この声は……

 その時、夢で聞いたあの声と、今かけられた声が丁度、アルスの中で重なる。


 そうか。君が声をかけ続けていてくれたのか。

「キルク……か」

「うぅ……、よ、よかった。もう、目を覚まさないんじゃないかって思った……」

「……ちょ、大袈裟な。な、泣くなって……」

 アルスが反応した事に感極まって、ウルウルと涙を溜め始めるキルク。

 泣きそうになるキルクをなだめようとした時、自分が意識を取り戻した意味を思い出す。


「そうだ! キルク、お父様たちは……」

「うぅ……。それなら……」

 そして、キルクがアルスが意識を失っていた時の話をしようとした時。

 キルクの足に頭を預けるような形で寝ころんでいたアルスの視線が、2階のある地点へ視線が吸い寄せられる。


 あれはっ!

 フード付きコートを深くかぶった不審者。


 お父様たちが気づいていないという事は……認識阻害の魔道具を使っているに違いない。

 その瞬間、思い出す。


 相手の狙い……そうか!

 そこからは衝動的にであった。


 何かがアルスを突き動かす。

 自然と体を起こし、慌てた様子でキルクの手を引っ張りながら覆いかぶさる。

 頭や胸。人間としての致命傷を相手から隠すように。


「ど、どうしたの……」

 突然の事に戸惑うキルクの声。


 キルクだけはっ!

 そして、後から襲いかかる凄まじい激痛。


「ぐあっ……」


 敵からの攻撃であろうモノが、アルスの背中に深々とダメージを与える。


「あ、アルス……?」

 突然の事に、状況を理解できていないキルク。

 
 キルクを不安がらせるな。大丈夫、別に死ぬわけじゃないんだから……

 アルスは自分は大丈夫だと言い聞かせながら、ある言葉をキルクに託す。


「……キルク」


 段々と感覚がなくなってきた。毒でも塗られてるのか……


「え、あ……これって。血……?」

 キルクはアルスの背中に手を伸ばし、ヌメッとした感触の赤色の液体を発見する。



「あぁ……アルス。アルスが……」

 気が動転するキルク。

 フルフルと手を震わせ、血の気が引いたような表情を浮かべる中。


「キルク!」

 有無を言わせない、切羽詰まったアルスの声。


「 一度しか言わない。良く聞いてくれ」

 その声にビクつきながらも自分を取り戻したのか、黙って何度も頷くキルク。


「俺は……ゴホッ。もうすぐ気を失うだろう」


 キルクを強く抱きしめながら、一言一言意志を込めて話す。


「……その時、君はアルザニクス家。俺の家に保護されてほしい」

 
 王子を保護。それは、その王子の勢力に加わるという意味にも捉えかねない行動だが、今回は緊急性がある為、言い訳はつく。

 しかし、第一王子と第二王子。そのどちらからもいい目はされないだろう。

 
 だが、手段は選んでられない。ここでキルクを手放したらどうなるか分からないからな。

 計算外の負傷。

 想定していなかったここでの退場に帳尻を合わせるかのように、キルクに言いたかったことを伝える。


「うん。分かった。分かったから早く……」


 あぁ、だから泣くなって……

 意識が薄れゆく中、涙を流すキルクを心配しながらも、アルスは家族や仲間の事を思う。


 お父様とお母様が心配するな。

 エバンは……自分の事を責めるだろうし、ミネルヴァさんは悲しむ。それにニーナだって……

 段々と思考に靄がかかっていく。


 アメリアさん。無事に逃げ切れただろうか……

 一瞬の間に次々と大切な人達が脳裏に現れ、消えてゆく。


「気を失ったら駄目だ。しっかり……」

 もうすでにキルクの言葉はアルスに届いていない。


 瞼は閉じ、大切な人達を一通り思い出したあと、何故かキルクを説得した時の事が蘇った。


 あの時、どうして兵たちは私を守ってくれたんだと言わんばかりの表情をしてたな。

 
 キルクが流す涙が地面へと滴る。


「あの時言おうとしていた言葉……」

「もういいから! 話さないで……」

 既にアルスの言葉からは力は感じられない。

 その事を感じ取ったキルクはもう無理するなと言わんばかりにアルスに声をかける。


 伝え忘れていた大事な言葉。

「……希望。あの者たちは希望を繋げようとしていたんだ」

 アルスは静かに呟く。


 これで……あの兵たちも浮かばれるだろう。


「……希望」

 キルクはそこで理解する。あの兵たちにとって、アルスにとって自分は希望だったのだと。


「……希望は繋げた」


 満足そうなアルスの表情。

 まるで自分がすべきことはもうこの場に無いかのように体の力を抜いていき。


「あ、アルス! アルス!」



 あとは皆に……まかせ……

 キルクに覆いかぶさった状態で、後の者に希望を託し、意識を失ったのだった。
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