除夜の鐘を聞きながら

ヤン

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第7話 プラン

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 朝まで何度も目が覚めてしまった。体を起こして大きく伸びをすると、ベッドからゆっくりと立ち上がった。ゆっくり動かないと、昨日の夜のようになってしまうと思ったからだ。

 カーテンを開けて、窓越しに外を見る。今日もよく晴れている。空は、こんなにも気持ちよく澄み渡っているのに、どうして僕の心はざわざわしているのだろう。

 顔を洗って食事をしてから、ピアノの前に座った。蓋を開けて鍵盤を見る。そうしていると、昨夜の先生の言葉がよみがえってきた。僕は首を振って、ピアノの蓋を閉じた。

 夕方近くになってから、レストラン・ファルファッラに電話をした。すぐに受話器が上がり、長田ながた店長の声が聞こえて来た。

「店長。僕、やっぱりやろうと思います」
「え? やってくれるんだ。嬉しいな」
「それで、今からそちらに行ってもいいですか? 打ち合わせをしましょう」
「いいよ。ついでに、ピアノ弾いてよ。日給払うよ」

 また始まった、と思った。が、変わらない店長にホッとしていることにも気が付いていた。

「店長。僕、打ち合わせに行くって言いましたよ。それに、右足首が痛いんで無理です。ピアノを弾くのは、大晦日まで待ってください」
「わかったよ。じゃ、待ってるね」

 電話を切った。

「さ、準備をしよう」

 一人呟くと、支度を始めた。

 十分後、僕はファルファッラの前に立っていた。ドアを開けて中に入ると、店長がこちらに振り向いた。そして、にっこり笑うと、

「いらっしゃい」
「こんばんは、店長」
「昨日の席に行こうか」

 僕が返事をする前に、店長は歩き出した。僕もゆっくりと後についていく。

「座って」
「あ。はい」

 僕は、指差された席に着いた。店長も、正面の席に着き、

「それにしても、引き受けてくれて良かったよ。ありがとう」

 店長の笑顔を見れば、本当に嬉しがってくれているのがわかる。僕も嬉しくなってくる。僕は、テーブルに両手をのせて身を乗り出すようにしながら、

「店長。僕、当日どういうコンサートにするか考えてみたんですけど、聞いてもらえますか?」

 僕の言葉に店長は頷き、

「聞くよ。で? どんな感じにするの?」
「チケット代は、頂きません」
「それ、どういうこと? コンサートだよ?」
「コンサートですけど、僕、遊びのつもりで弾きます。ですから、チケットは発行しません。代わりに、必ず食事を一品頼むこと。飲み物を一杯頼むこと。デザートを一品頼むこと。これを条件にしようと思います。人数は、テーブル席に着ける数だけ。どうですか?」

 店長が、テーブルに肘をついて手で頭を支えると、

「それ、君が損をしちゃうんじゃないかな」

 心配そうな口調で言う。僕は、首を振り、

「そんなこと、ないです。僕は、そういう感じでやってみたいんです」
「でも、君はプロのピアニストだよ」
「知ってます。僕は、プロのピアニストで、昨夜は有名なオケとコンチェルトを弾きました」
「だよね。それなのに……」

 僕は、真剣な表情で、

「お願いします。それでやらせてください」

 全く折れる気のない僕に負けたのか、店長は、「わかったよ。お願いします」と僕の提案を受け入れてくれた。

「店長。ありがとうございます」
「それはそうと、吉隅よしずみくん。何かあったのかい?」

 ありました、と素直に伝えるべきだろうか。

「何だか昨日とちょっと違う。何だろう。よくわからないけど、何か違うよ?」
「そうかもしれません」

 言わない方がいいのでは? そう思いつつも、僕は店長の言ったことを肯定してしまった。

「まさか、先生と喧嘩したとか?」
「いえ、逆です」
「逆?」

 店長が首を傾げる。僕は頷き、

「喧嘩じゃないんです。僕、先生に……」

 僕がそこまで言った時、店長が目を見開いて、「え? じゃあ、もしかして……」と呟くように言った。その言葉の先を聞きたくて、

「もしかして、とは?」
宝生ほうしょうくん。君のこと、好きだって言ったとか?」
「えっと……はい。そうです」

 つい正直に返事してしまい、慌てて目を伏せた。そして、そのままの姿勢で店長に疑問をぶつけてみた。

「店長は、先生の気持ちを知っていたんですか?」
「君以外の人間なら、わかるんじゃないかな? 少なくとも、僕はわかってたよ。宝生くんが、誰を好きか」

 改めて口にされると、恥ずかしくなってくる。

 店長が、長めの息を吐き出した。僕は、少し顔を上げて店長を見た。店長は、さっきまでとは違い、真顔になっていた。何を言われるのか、何となくわかった。店長は、口を開くと普段よりも低めの声で、

「君は油利木ゆりきくんに夢中だったから、わからなかったよね」
「あの……」
「でも、まさか告白しちゃうとは思ってもみなかったけど。どうしちゃったんだろう、宝生くん」

 心臓をドキドキさせながら、店長の話を聞いていた。
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