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3話
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結婚式から半年間は、外に出ることができなかった。
お母様は、決められた時間に、三食を届けてくれる。
お姉様は、暇な時間を埋めるために、雑誌や本を置いて行ってくれる。
お父様は、何も言わないが、優しい目で、見守ってくれているのがわかる。
こんなに家族に愛されている私。これ以上、心配はかけられない。
それに、雑誌も本も読み尽くし、やることがなくなってきた。これからどうしていこうかと、頭を使って考え始める。
カールと結婚する前は、高等学校を卒業したら、大学に進学し、エネルギーの研究をしていきたいと考え、勉強に励んでいた。
今回のことで、男に頼っていては、痛い目にあうのだと、身に染みて学んだ。
これからは、女も立身出世をする時代だ。もう一度、大学への進学して、研究者として功績をあげ、あの二人を見返してやらないと。
もう部屋にこもっているだけなんて、時間が勿体無いわ。試験を受けるために、予備校にも通わないといけない。
いや、その前に、お父様に許可をとって、援助をしてもらう約束を取り付けるのが先だわ。
そう考え、半年ぶりに、部屋の扉を開けようとした、その時だった。
「やあ、アルル、久しぶりだね。元気にしてた?」
窓の方から、男の声がした。
(あれ?この声、聞き覚えがある?)
もしかしてと、振り向くと、やはりカールが窓の外で手を振っている。
「なに?ここは、2階よ。どうしてそんなところから?」
「いいから、開けておくれ。これ以上この姿勢でいられない、落ちてしまう」
カールは、壁をつたって登ってきたようだった。窓に10センチ程ある隙間に、かろうじて足を爪先立ちにして立っていた。
確かに、少しでもバランスを崩せば、落ちてしまうだろう。2階とはいえ、かなりの高さがある。殺人の疑いまでかけられたら、たまったものではない。
言われるままに窓を開けて、カールを招き入れた。
カールは安堵の溜め息を吐いて、身なりを整える。
「いやぁ、正面口から行っても、すぐに追い返されからさ、窓から侵入するしかなったんだよ」
カールは、恥じるような笑みを浮かべて、言い訳するように言った。
「なによ?!今更、何の用よ?あなたとは、一切の縁を切ったわ」
そうは言っても、もしかしたら、カールが心変わりをして、私のところに戻ってきてくれたのかもしれないと、期待が疼いてしまう。
「いや。あのときは、本当に悪かった。言い訳も言い逃れもできない。。わかっていながら、君にお願いがあって来たんだ」
「お願い?」
「実は、俺の父親に、君から勘当を解消するように言って欲しいんだ」
「はあ?何よ?図々しい」
「わかっているが、もうこれ以上、生活が貧窮して限界なんだ。君から言ってもらえたら、父親も勘当を解消して、また月々の援助金を払ってくれると思うんだ」
「何を言ってるの?」
あまりの侮辱に、私はカールの頬を引っ叩いてしまった。
「痛え」
カールは、赤くなった頬を抑えながら、涙ぐんだ。
(え?涙?泣きたいのは私よ)
「本当にすまない。当然の痛みだよ。でも、お願いだ、助けてくれ。俺もミンティアも、親から勘当されて、金がないんだ。恥ずかしい話しだけど、俺は親の跡を継ぐ予定で、就職とか何も準備してなくて、金を稼ぐことができない」
何度も頭を下げながら、カールは弁解するように、必死に私を説得しようとする。
二人がひもじく死んでしまったとしても、私には、二人を許すことは、少なくとも今は出来なかった。
それよりも、一瞬でもカールが戻ってきてくれたのだと期待をした、自分にはまだ未練があるのだと思うと悔しかった。
そう、確かに、二人はただ、純粋な愛を貫いているだけなのだ。
誰かを傷つけようとか、騙してやろうとか、そういう悪意はない。一生懸命、生きている善良な人なのかもしれない。
だけど、悪意がないからといって、許されるのだろうか?
いつまでも許さずに虐めているように見える、私のほうが、悪役令嬢のようだった。
お母様は、決められた時間に、三食を届けてくれる。
お姉様は、暇な時間を埋めるために、雑誌や本を置いて行ってくれる。
お父様は、何も言わないが、優しい目で、見守ってくれているのがわかる。
こんなに家族に愛されている私。これ以上、心配はかけられない。
それに、雑誌も本も読み尽くし、やることがなくなってきた。これからどうしていこうかと、頭を使って考え始める。
カールと結婚する前は、高等学校を卒業したら、大学に進学し、エネルギーの研究をしていきたいと考え、勉強に励んでいた。
今回のことで、男に頼っていては、痛い目にあうのだと、身に染みて学んだ。
これからは、女も立身出世をする時代だ。もう一度、大学への進学して、研究者として功績をあげ、あの二人を見返してやらないと。
もう部屋にこもっているだけなんて、時間が勿体無いわ。試験を受けるために、予備校にも通わないといけない。
いや、その前に、お父様に許可をとって、援助をしてもらう約束を取り付けるのが先だわ。
そう考え、半年ぶりに、部屋の扉を開けようとした、その時だった。
「やあ、アルル、久しぶりだね。元気にしてた?」
窓の方から、男の声がした。
(あれ?この声、聞き覚えがある?)
もしかしてと、振り向くと、やはりカールが窓の外で手を振っている。
「なに?ここは、2階よ。どうしてそんなところから?」
「いいから、開けておくれ。これ以上この姿勢でいられない、落ちてしまう」
カールは、壁をつたって登ってきたようだった。窓に10センチ程ある隙間に、かろうじて足を爪先立ちにして立っていた。
確かに、少しでもバランスを崩せば、落ちてしまうだろう。2階とはいえ、かなりの高さがある。殺人の疑いまでかけられたら、たまったものではない。
言われるままに窓を開けて、カールを招き入れた。
カールは安堵の溜め息を吐いて、身なりを整える。
「いやぁ、正面口から行っても、すぐに追い返されからさ、窓から侵入するしかなったんだよ」
カールは、恥じるような笑みを浮かべて、言い訳するように言った。
「なによ?!今更、何の用よ?あなたとは、一切の縁を切ったわ」
そうは言っても、もしかしたら、カールが心変わりをして、私のところに戻ってきてくれたのかもしれないと、期待が疼いてしまう。
「いや。あのときは、本当に悪かった。言い訳も言い逃れもできない。。わかっていながら、君にお願いがあって来たんだ」
「お願い?」
「実は、俺の父親に、君から勘当を解消するように言って欲しいんだ」
「はあ?何よ?図々しい」
「わかっているが、もうこれ以上、生活が貧窮して限界なんだ。君から言ってもらえたら、父親も勘当を解消して、また月々の援助金を払ってくれると思うんだ」
「何を言ってるの?」
あまりの侮辱に、私はカールの頬を引っ叩いてしまった。
「痛え」
カールは、赤くなった頬を抑えながら、涙ぐんだ。
(え?涙?泣きたいのは私よ)
「本当にすまない。当然の痛みだよ。でも、お願いだ、助けてくれ。俺もミンティアも、親から勘当されて、金がないんだ。恥ずかしい話しだけど、俺は親の跡を継ぐ予定で、就職とか何も準備してなくて、金を稼ぐことができない」
何度も頭を下げながら、カールは弁解するように、必死に私を説得しようとする。
二人がひもじく死んでしまったとしても、私には、二人を許すことは、少なくとも今は出来なかった。
それよりも、一瞬でもカールが戻ってきてくれたのだと期待をした、自分にはまだ未練があるのだと思うと悔しかった。
そう、確かに、二人はただ、純粋な愛を貫いているだけなのだ。
誰かを傷つけようとか、騙してやろうとか、そういう悪意はない。一生懸命、生きている善良な人なのかもしれない。
だけど、悪意がないからといって、許されるのだろうか?
いつまでも許さずに虐めているように見える、私のほうが、悪役令嬢のようだった。
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