【完結】結婚式当日、花婿に逃げられました。許すことはできるのでしょうか。

酒酔拳

文字の大きさ
14 / 17

14話

しおりを挟む
 相部屋のシスターは、ミリアンという名だった。笑うとえくぼができて、ふくよかな体型は、おおらかな雰囲気を感じた。

「アルルさんね、よろしくね。わからないことは、なんでも聞いてちょうだいね」

 ミリアンは、人の良さそうな笑みを浮かべ、手を握って親愛の情を伝えてくれる。

「わからないことだらけだわ」

 私は、ミリアンを前に安堵感が胸に広がった。思わず、涙ぐんでくる。

「あらあら、不安だったのね。もう、大丈夫よ!」

 ミリアンは、私を抱きしめてくれる。

 昨日から様々な変化があったので、気を張り詰めていたのだ。

 ミリアンは、私に笑いかけ、頭を撫でてくれた。

 気持ちが落ち着くと、夕食をとりに食堂に案内してくれる。パンとポタージュスープだけの、質素な夕食だった。

 アーメンと神に拝み、祈りを捧げてから、やっと夕食にありつくことができる。

 ミリアンに会い、安心したのか食欲もでてきたようだ。ぺろっとたいらげ、お変わりが欲しいくらいだった。

 部屋に戻り、就寝時間になる。

 コンクリートの地べたに、薄い布を敷き、一枚の毛布にくるまる。

「大丈夫よ、だんだん慣れてくるから」

 ミリアンはそう言ってくれるが、温かくふわふわの布団が恋しかった。

(恵まれた生活を与えられていたんだわ)

 私は、お母様やお父様、お姉様が懐かしく思い出された。

 たとえ辛くとも、すぐに泣き帰るなんて、できない。

 ミリアンの寝息が聞こえてくる。

 いつの間にか、眠りに入っていく。



 翌日は、4時にミリアンに叩き起こされ、まだ暗い中ミサに参加し、5時から朝食を食べる。

(パンと牛乳だけだわ。こんな生活じゃあ、栄養不足になってしまうわ)

 しかし周りを見渡せば、栄養失調者は見られず、皆健康な身体をしていた。

 ミリアンは、むしろ太っていた。

 それにミリアンは、頬を赤らめ、満面な笑みで、すこぶる美味しそうに食べる。

 彼女を見ていると、粗食なのに食事が楽しくなってくる。

「さあ、奉仕の時間よ!今日は、私に着いて来てね!」

 ミリアンは、るんるんと軽い足取りで、街に出かけていく。

「どこに行くの?」

 ミリアンに習い、スキップ調で歩き始める。なぜか心が軽くなっていく。

「ボランティアでスープをもらいに行くのよ。そのスープを、みんなに配るの!」

 ミリアンは、″ららら~″と鼻歌を口ずさみながら言った。

 歩いて20分、古いレンガ調の大衆食堂に入っていく。

「おお!シスター、待ってたよ。そこのスープ、持っていきな!」

 気前の良さそうな店主だった。調理場にある鍋いっぱいに煮込まれたスープを指差して言ってくる。

「いつもありがとうね!」

 ミリアンは、にこにこと店主に笑いかけ、両手で鍋を掴むと、店を出てまた歩き出す。

「アルル!体が資本よ!それにしても、美味しそうなスープだこと!私たちも、あとで一杯いただきましょう」

 ミリアンは、陽気な口調で言うと、重くて熱い鍋を軽々と持って歩き続ける。

(体が資本かあ。。熱い鍋を持ちながら歩くなんて、できるかしら)

 繁華街には、何十人もの浮浪者が溜まっていた。地べたで眠る者もいれば、物乞いをする者もいた。

 ミリアンは、あらかじめ設置されたテーブルに鍋を置いた。

「そこの葉っぱ、お皿のかわりなの。そこにスープを入れて、配るわよ!アルルも手伝ってね」

 ミリアンは、葉っぱを差して、ウインクをする。

 テーブルに山盛りに積まれた葉っぱは、しっかりとしていて、皿のかわりになりそうだった。

 ミリアンがスープを葉っぱに注ぎ、私がくる者に配っていく。

 列は長蛇になり、何人もの人が、ありがたそうにスープを受け取っていく。

「!カール!」

 次々に手渡していくと、カールの順番になっていた。

「やあ、アルル、また会ったね。慈善活動なんてして、偉いじゃないか」 

 カールは嬉しそうにスープを受け取りながら、珍しく褒め言葉を言ってくる。

「そうかしら?私、自立したからね」

 褒められて、悪い気はしなかった。

「お互い、貧困街か。半年前まで、社交会にいたのにな。人生わからないもんだな」

 カールは、しみじみと呟きながら、スープを2つ持って去っていく。

(ミンティアとカールの分ね。半年前は、アルルとカールだったのに)

 無精髭を伸ばし、よれよれの布服を着る彼を見て、今は何の違和感もなかった。

 人生は、一寸先にはどうなっているか、わからないわね。


 

 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

婚約破棄されたのに、王太子殿下がバルコニーの下にいます

ちよこ
恋愛
「リリス・フォン・アイゼンシュタイン。君との婚約を破棄する」 王子による公開断罪。 悪役令嬢として破滅ルートを迎えたリリスは、ようやく自由を手に入れた……はずだった。 だが翌朝、屋敷のバルコニーの下に立っていたのは、断罪したはずの王太子。 花束を抱え、「おはよう」と微笑む彼は、毎朝訪れるようになり—— 「リリス、僕は君の全てが好きなんだ。」 そう語る彼は、狂愛をリリスに注ぎはじめる。 婚約破棄×悪役令嬢×ヤンデレ王子による、 テンプレから逸脱しまくるダークサイド・ラブコメディ!

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」  その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。  王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。  ――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。  学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。 「殿下、どういうことでしょう?」  私の声は驚くほど落ち着いていた。 「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」  この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。  けれど、今日も受け入れてもらえることはない。  私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。  本当なら私が幸せにしたかった。  けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。  既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。  アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。  その時のためにも、私と離縁する必要がある。  アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!  推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。 全4話+番外編が1話となっております。 ※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。

私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?

あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。 理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。 レイアは妹への処罰を伝える。 「あなたも婚約解消しなさい」

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

処理中です...