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episode1.
しおりを挟む3日前から、アカネに連絡がとれない。
メールは既読にもならず、何度も電話しているが、留守番電話につながってしまう。
練馬区の彼女の自宅に行ったが、チャイムを何度も押したが出てこない。
買い物帰りの40代の中年男性にアカネのことを聞いてみたが、
「いや、見てないね。隣の人にはずっと会ったことないから。」
と、面倒臭そうに答えて、部屋に入ってしまう。
一体どうなっているんだ。
僕とアカネは、S大学文学部の2年生だ。アカネとは、1年生のとき、「食べ歩きサークル」で出会った。新入生歓迎会は、15人程参加しており、神田の飲み屋で行われた。初めてアカネを見た時から、惹かれていた。僕とアカネの席は離れていたけど、僕はずっとアカネだけを見ていた。
アカネはストレートヘアの黒髪で、色白、目鼻立ちは整っており、一見すると美少女の部類だった。だから、1年生の男どもは、大体アカネ目当てで入部している奴らであり、僕もその一人だった。
だけど、僕が惹かれたのは、勿論アカネの顔が良いというのもあったけど、それ以上に雰囲気に惹かれた。
アカネは笑うことがあまりなく、相槌を打ち、頷き、微笑をする、その1連の表情以外に、感情らしいものは見られなかった。月のように静かで、ミステリアスな雰囲気に、僕は完全に虜になっていた。
その日のうちに、アカネに告白をした。
「酔った勢いだから。」
と、最初はとりあってくれなかったけど、毎日毎日告白を繰り返して、半年目。大学の授業が終わった頃を見計らって、バラの花束を渡して告白をしたら、アカネは少し困ったように頬を染めて、
「うん、いいよ。」
と、頷いてくれた。
信じられないが、僕は半年で180回、ほぼ毎日(メールも含む)告白をしていた。
自分にそんな熱情があることを、それまで知らなかった。
それほど僕は、アカネに心を奪われていた。
アカネが付き合うことを承知してくれたとき、僕はあまりの嬉しさに大声で叫んでしまったほどだ。
それから7か月の間、時々僕が嫉妬などで怒ることはあっても、アカネはいつも頷き、受け入れてくれた。毎月、「付き合った記念1か月目」、「2か月目記念」、「3か月目記念」、とお祝いをした。僕はアカネに毎月プレゼントを贈るために、アルバイトに精を出した。
そんなに高いものは買ってあげられないけど、ブレスレッドやイアリング、ネックレスなど、アカネはいつも嬉しそうに受け取ってくれた。
アカネは僕がプレゼントした物はいつも身に着けて、時々嬉しそうに笑うこともあった。
アカネが感情を見せることは珍しいので、僕はすごく嬉しかったんだ。
それなのに、なんで、突然、アカネは消えてしまった。
確か3日前、5月に入ってのゴールデンウイーク明け、僕たちの「7か月目記念」をするために、いつものように、渋谷駅のハチ公前に約束をした。
その日は僕は、美味しいというイタリアンの店を予約していた。
約束の時間、PM5時になってもアカネは来なかった。電話をしてもつながらない。メールに返信もない。
アカネが今まで約束を破ることはなかった。いつでも15分前には律儀にやって来る。そんなアカネだから、約束の時間に遅れるというのは、よっぽどのことがあったのだ。僕はそう思ってAM0時まで待った。
終電が終わってしまい、渋谷駅の電気が消え、シャッターが閉じられても、僕は待ち続けた。
AM5時になっても来なかったので、彼女の家に行ってみたが不在だった。その日の講義にも来なかった。
翌日も大学には来ないかったので、彼女の部屋の前で待った。1日待ち続けたが彼女は帰ってこない。部屋にいる様子もなかった。挙句の果てに、隣人が通報したのか、警察がやって来て取り調べを受けた。
僕は彼女が3日前からいなくなってしまったことを、警察官に訴えた。
「君はストーカーかい?君が嫌で、逃げているのではないの?」
眉をピクピクと動かし、神経質そうな警察官は、僕をストーカーの疑いで見た。
「僕と彼女はずっと仲良く付き合っていた、いや、今も付き合ってるんです!」
「ストーカーする人はね、みんなそう言うんだよね。」
警察官は僕を始終怪しく見て、留置所に入れた。うす暗い留置所の中で背を丸める僕を見て、その警察官は少し哀れに思ったのか、バナナを1本くれた。
僕は貰ったバナナを齧りながら、アカネが一体どこに行ってしまったのかを考え続けた。
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