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21.村に慣れ始める
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霧が完全に分散して、散っていくと、人々も少しずつ解散をして、帰り始めていく。
「リサも来ていたのね!」
不意に後ろから肩を叩かれ、振り返るとミサトだった。
「ええ、偶然散歩をしていたら、知ったのよ。すごい霧だったわね」
私は曖昧に頷き、ミサトの笑みに、笑い返す。
「昨日、伝えるの忘れた!って気づいたのよ。良かった、偶然でも来てくれて。すごい霧だったでしょ?あの霧に、この村は守られているの。あの霧があるから、誰もがこの村に入ってこれないのよ」
ミサトは、頬を赤く染め、興奮して言った。
「そうだね、私もこの村に登ってくるとき、あの霧に迷子になって、抜けられないかと思った」
「そう、選ばれた人しか、霧からは抜けられないのよ」
「でも、どうやってあの霧を作るの?」
霧は、人々の祈りとともに、沸き出てきたように見えた。
「それは、神の力よ。紗羅さんは、神の力を使えるのよ!」
ミサトは一厘の不信も抱かす、自然に言い放った。
「神の力なんて、あるわけないだろ!」
静かに聞いていたアキヲが、急に割って入ってくる。ミサトは、キョトンとした顔で、アキヲを見た。
「神の力なんて、非科学なもの、信じられるわけがない。この村はおかしな力を操っているんだ」
アキヲはミサトに向かって、感情的になっていた。冷静沈着なアキヲが感情的になるのを見たのは初めてだった。
「確かに、非科学なのかもしれない。でも、科学では説明がつかない、見えない力はあるのよ。あなたも見たでしょ?あの霧は、どう説明するの?」
ミサトは挑戦するように、アキヲを上目遣いで見る。
「何か仕掛けがあるはずだ。みな、目を閉じていたから、その間に何かを合成したとしたか考えられない」
アキヲはきっぱりとした口調で言うが、目の奥には自信のなさそうな影があった。
「だったら、そう思っておけばいい。私の考えとは違うけど、あなたの考えはあなたの考えで尊重するわ」
ミサトは冷静な光を目に宿らせ
「じゃあ、リサ、私は先に仕事場に行ってるから。待ってるわね」
と、にこりと笑い、くるりと踵を返して行ってしまう。
私は、アキヲに何を言えば良いのかわからなかった。ミサトはアキヲの意見を尊重したが、アキヲは一方的にミサトを否定するだけだった。
「じゃあ、私も、お仕事に行くね」
やっと口から出た言葉は、それだけだった。私はアキヲを振り返らず、草原の家に向かった。
その日から、アキヲは少しずつおかしな言動が増えていった。
「麻薬の栽培を阻止しないと」
「この村はあやしい信仰宗教で、人々を洗脳している」
そんなことをボソボソと独り言のように呟き、日が出る前、朝早くに出てから、夜遅くまで宿には帰ってこなかった。
アキヲが何をしているのかわからなかったが、私は少しずつこの村に慣れ始めてきていた。
日中は草原の家で、ミクちゃんやケイジさんのお世話をして、宿に帰るとナミや両親とともに食事を作り、共に食卓についた。
ミサトやアイリの他の3人の世話する人とも挨拶をした。1人は、ヨウコさんといって、医師だった。頭の良さそうな切れ長の瞳が印象的だった。あとの2人は、ミチコさんとアケミさんといった。
2人は今、うつ病で体調が悪いから、礼拝の時間以外は部屋に篭っていた。
「うつ病は、治らない病気だからね。鬱の状態になると、何もやる気がおこらない。死にたくなるのをなんとか我慢するの。私もね、去年の冬は、ずっと部屋に篭っていた。いつそれがくるかもわからないの」
アイリは悲しそうな目をして言った。私は頷くことしかできなかった。
「そうなのよ。一見明るく見えても、次の日には死んでいる。うつ病の人の心の闇は深いわ」
ヨウコさんは、ため息ついて言う。
「私たちはみんな、死にたくてここに呼ばれてきたのよ。リサと同じ。今を生きるために、辛くても、一緒に生きましょう」
ミサトの目から、暗い闇が見えた。
その暗い闇は、精神疾患をもつ人にしか見えない闇だった。私も同じように、闇を目に宿らせている。
私は闇にのまれることが、心地よかった。決して今まで理解されなかった闇を、共有することができた。草原の家で働く皆に、だんだんと心を許すようになっていた。
「リサも来ていたのね!」
不意に後ろから肩を叩かれ、振り返るとミサトだった。
「ええ、偶然散歩をしていたら、知ったのよ。すごい霧だったわね」
私は曖昧に頷き、ミサトの笑みに、笑い返す。
「昨日、伝えるの忘れた!って気づいたのよ。良かった、偶然でも来てくれて。すごい霧だったでしょ?あの霧に、この村は守られているの。あの霧があるから、誰もがこの村に入ってこれないのよ」
ミサトは、頬を赤く染め、興奮して言った。
「そうだね、私もこの村に登ってくるとき、あの霧に迷子になって、抜けられないかと思った」
「そう、選ばれた人しか、霧からは抜けられないのよ」
「でも、どうやってあの霧を作るの?」
霧は、人々の祈りとともに、沸き出てきたように見えた。
「それは、神の力よ。紗羅さんは、神の力を使えるのよ!」
ミサトは一厘の不信も抱かす、自然に言い放った。
「神の力なんて、あるわけないだろ!」
静かに聞いていたアキヲが、急に割って入ってくる。ミサトは、キョトンとした顔で、アキヲを見た。
「神の力なんて、非科学なもの、信じられるわけがない。この村はおかしな力を操っているんだ」
アキヲはミサトに向かって、感情的になっていた。冷静沈着なアキヲが感情的になるのを見たのは初めてだった。
「確かに、非科学なのかもしれない。でも、科学では説明がつかない、見えない力はあるのよ。あなたも見たでしょ?あの霧は、どう説明するの?」
ミサトは挑戦するように、アキヲを上目遣いで見る。
「何か仕掛けがあるはずだ。みな、目を閉じていたから、その間に何かを合成したとしたか考えられない」
アキヲはきっぱりとした口調で言うが、目の奥には自信のなさそうな影があった。
「だったら、そう思っておけばいい。私の考えとは違うけど、あなたの考えはあなたの考えで尊重するわ」
ミサトは冷静な光を目に宿らせ
「じゃあ、リサ、私は先に仕事場に行ってるから。待ってるわね」
と、にこりと笑い、くるりと踵を返して行ってしまう。
私は、アキヲに何を言えば良いのかわからなかった。ミサトはアキヲの意見を尊重したが、アキヲは一方的にミサトを否定するだけだった。
「じゃあ、私も、お仕事に行くね」
やっと口から出た言葉は、それだけだった。私はアキヲを振り返らず、草原の家に向かった。
その日から、アキヲは少しずつおかしな言動が増えていった。
「麻薬の栽培を阻止しないと」
「この村はあやしい信仰宗教で、人々を洗脳している」
そんなことをボソボソと独り言のように呟き、日が出る前、朝早くに出てから、夜遅くまで宿には帰ってこなかった。
アキヲが何をしているのかわからなかったが、私は少しずつこの村に慣れ始めてきていた。
日中は草原の家で、ミクちゃんやケイジさんのお世話をして、宿に帰るとナミや両親とともに食事を作り、共に食卓についた。
ミサトやアイリの他の3人の世話する人とも挨拶をした。1人は、ヨウコさんといって、医師だった。頭の良さそうな切れ長の瞳が印象的だった。あとの2人は、ミチコさんとアケミさんといった。
2人は今、うつ病で体調が悪いから、礼拝の時間以外は部屋に篭っていた。
「うつ病は、治らない病気だからね。鬱の状態になると、何もやる気がおこらない。死にたくなるのをなんとか我慢するの。私もね、去年の冬は、ずっと部屋に篭っていた。いつそれがくるかもわからないの」
アイリは悲しそうな目をして言った。私は頷くことしかできなかった。
「そうなのよ。一見明るく見えても、次の日には死んでいる。うつ病の人の心の闇は深いわ」
ヨウコさんは、ため息ついて言う。
「私たちはみんな、死にたくてここに呼ばれてきたのよ。リサと同じ。今を生きるために、辛くても、一緒に生きましょう」
ミサトの目から、暗い闇が見えた。
その暗い闇は、精神疾患をもつ人にしか見えない闇だった。私も同じように、闇を目に宿らせている。
私は闇にのまれることが、心地よかった。決して今まで理解されなかった闇を、共有することができた。草原の家で働く皆に、だんだんと心を許すようになっていた。
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