【完結】癒しの村

酒酔拳

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26.新聞の記事

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 子どもたちは、クッキーを食べ終わると、嬉しそうに笑って、次々と椅子から立ち上がり始める。

「ケイコさんや、ミクちゃんたちに、ご飯をあげてくれるの」

 ミサトは、私が準備をした、経管栄養やミキサー食をお盆にのせて、子どもたちに渡し始める。

「おしゃべりもしながらね。みんな、もう言葉を超えて、以心伝心で会話できるのよ」

「以心伝心?」

「そう。この仕草をしたら、嬉しいとか、声のトーンで悲しいとか。リョウくんなんて、照れたようにいつも笑い始めるの!」

 ミサトは、愛おしそうに子どもたちに視線を送る。

「でも、チョロちゃんはまだ小さいから、ファイトやミチルちゃんについてるだけ。でも、小さな手で、みんなの頭をなでなでしてくれるのよ」

 アイリは、ミチルちゃんがケイジさんの胃瘻から注入している間、チョロちゃんがケイジさんの頭を撫でているのを微笑ましく見守る。

「アイーン!」

 ケイジさんは、嬉しそうに笑って、いつもより高い声で発声をする。

「アオオオ!」

 いつもはあまり発声をしない、ケイコさんも、チョロちゃんに撫でられると嬉しそうに声をあげた。

 言葉にならない言葉。

 でも、言葉になっている言葉より、嬉しいという感情が伝わってくる。

「おうーん!」

「アウウウ!」

 ミクちゃんリョウ君たちまで、声を合わせ始める。

「あら、賑やかね」

 二階からヨウコさんが降りてきて、

「私も仲間にいれてほしいわ」

 そう言って、クッキーをつまみながら、チョロちゃんの手をとった。

 チョロちゃんは、嬉しそうに、キャッキャと笑って、ヨウコさんの腰に抱きついた。

 ヨウコさんは、チョロちゃんの手を引きながら、人工呼吸器の説明を、ファイトやミチルちゃんに始めた。

「ヨウコさんから、医療のことを、色々なことを学んでいるのよ」

 アイリは、残ったクッキーを子どもたちに渡しながら言った。

「それだけでないわ、数学や国語とか、下の世界では学校で習うことは、ヨウコさんや紗羅さんが教えているのよ」

 ミサトは、テーブルの上を拭きながら、言った。

 二人とも、私がわからないことは、いつも説明をしてくれる。それが、私にとっては仲間に迎えられているように感じられる。


 草原の家から帰ると、珍しくアキヲが早くから宿に帰っており、囲炉裏で鍋を食べていた。

「すぐに来て!」

 私を見ると、待ち構えたように、アキヲは私の手を握って、部屋に連れて行く。私は、いつもアキヲのこういう、強引だけどリーダーシップをとって引っ張ってくれるところは好きだった。

「これを見てくれ」

 部屋に入るなり、アキヲは私に一枚の新聞記事を見せた。

「新聞記事?どうしたの?」

 私は、渡された記事を見る。新聞を手に取るなど、どれくらいぶりだろうか。そもそも、癒しの村に来てから、どれくらいの日々が経ったのか、よくわからなくなっている。

「今日、田村さんが来て、鞄に何が入っているのかを、こっそり探ったんだ。そしたら、この新聞記事を見つけた」

 アキヲは、廊下や庭に、ナミやナミの両親がいないかを再度確認してから、声を潜めて言った。

「勝手に鞄からとってきたの?」

 私は、アキヲの行動を聞いて戸惑って言う。

「仕方ないだろう。そうしないと、先に進まない。とにかく見てくれて、その記事は俺たちのことが載ってるんだ」

 アキヲは、眉をひそめ、苛々としたように私を見て、記事の部分を人差し指で示した。

 私は、アキヲに誘導されるまま、アキヲが指した部分の記事に目を向けた。

「東京の大学生が二人、謎の行方不明!

 9月12日、東京の○○区に住む、大学2年生のAさん(女性)が、自宅を出てから失踪している。母親の話によると、それまでにいつもと変わったところはなかったと証言があるため、何らかの事件に巻き込まれた可能性がある。同じく、9月11日に、東京の△△区に住む、大学3年生のBさん(男性)も、朝に大学に行くために自宅から出てから、家に帰ってこないため、捜索願が出されている。母親は、Bさんは大学受験失敗から、最近鬱気味であったと心配していたが、自殺をするようなタイプではないと言っており、やはりAさんと同じ事件に巻き込まれているのではないかと警察では捜査にのりだしている」

「何これ、私とアキヲのこと?事件に巻き込まれているって、一体どういうこと?」

 私は、記事を読んで、頭に嵐が巻き起こったように、混乱を生じながら聞いた。

「まだ続きがある。この記事も読んでくれ」

 アキヲは、深刻な影を眉根に潜ませて、私にもう一枚、記事を渡してくる。

 

 











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