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石化の少女
カグヤ四天王 1
しおりを挟む「で?
こんなところで、何してんのよ?
あんたは?」
今日は、人が入れ替わったかのようにテキパキと教室の掃除を終えたカグヤとチヨを見送り、学校からの帰途についたジュン。
その帰宅路の途中、そいつは、ジュンの前に立ちはだかった。
「コウ。
あんたの家、こっちとは反対方向でしょ?」
「ふっ。
我こそは、カグヤ四天王のひとり、コウ。
ここを通りたくば、我を倒してからいくがいい!」
「は?」
「ここを通りたくば、我を倒してからいくがいい、と言っている!」
コウは、カグヤやジュンと同じ4年生のクラスメートの一人。
白いシャツに白い学生ズボン、道傍の樹に寄りかかるようにポーズを決める姿は、ひとことで言って、『チャラい』。
「ほう・・・・。
ここを通りたくば、俺の屍を越えていけ・・・・と」
「や・・・・、命のやり取りをしようとまでは・・・・」
そもそも、ジュンにとって、コウは、好きな部類の人間ではない。
金銭関係にうるさいし、女子にもだらしがないところがある。
今日も、きっとカグヤたちに買収されたかなんかして、ここにいるに違いない。
「ほかのクラスから、コウにセクハラ受けたって相談が、何件かあって・・・・、ちょうど、どうにかしなきゃと思ってたところなの」
「そ、それは、きっと、ご、誤解・・・・で・・・・」
ポキポキと指を鳴らしながら、ジュンは、一歩一歩、コウに向かって歩みを進める。
その迫力にたじろぐコウ。
「勝負、するんでしょう?」
こぶしを突き出し、ニイッと笑みを浮かべるジュン。
「ひいっ・・・・」
背中を向け、逃げだそうとするコウに、ジュンは襲い掛かる。
「是非もなしっ!」
”タコなぐりっ!”
「安心しな、『峰打ち』だ」
タコ殴りに峰打ちもなにもないかと思うが、ジュンは、かってコウだったものを背にその場を立ち去る。
なんだか、ちょっぴりスッキリしたジュンである。
しばらく進むと第二の刺客が現れた。
「いぇ~い!のってるか~い!」
常夜灯をバックに、ギターを抱えた一人の男子がポーズを決める。
「なによ、キンちゃん。
あんたまで、引っ張り出されたの?」
ギター少年、キンも、コウと同じく4年生のクラスメート。
音楽をこよなく愛する男の子だ。
明るいノリの割に、暗く重い歌を奏でた方が、なぜだか周りにウケがいい。
「お嬢さん、一曲、いかがかな~?」
「きょ、今日は、遠慮させていただくわ・・・・・」
「そんな、つれないこといわずにさぁ。
ミュージックスタート!」
ちゃ~ん、じゃ~ん。
じゃっじゃかじゃ、じゃっじゃかじゃ、じゃっじゃかじゃ、じゃかじゃ、じゃかじゃ・・・・。
こ、これは、エチゴのちりめんどんやのテーマーソング!!
ジュンは、あのご隠居の大ファンであった。
ジュンは、マイクをとると、コブシを振り振り、歌いだす。
ど~んぶりごろごろ、ど~んぶりこ~
お味噌を切らして、さ~あたいへん~
こ~ぞう~が、で~てぇき~て、こ~んに~ち~は~
とっつあん、一緒に、踊り~ましょ~
「いいね、いいね!二番もいってみよ~!」
ど~んぶりごろごろ、ど~んぶりこ~
醤油も切れてて、さ~あたいへん~
こ~ねこ~も、で~てぇき~て、こ~んに~ち~は~
とっつあん、一緒に、踊り~ましょ~
じゃっじゃかじゃ、じゃっじゃかじゃ、じゃっじゃかじゃ、じゃかじゃ、じゃかじゃ、ジャン!
きまった~!
って、おもわず絶唱してしまったわ・・・・。
まったく、付き合いの良いジュンである。
「キンちゃん、ありがと。今日は、もう、帰るわね・・・・」
我に返ると、急に恥ずかしさがこみ上げてきたジュンは、そそくさとその場を後にする。
「それじゃ~、委員長~。
また、明日~」
そんなジュンの背を、キンちゃんは、見送りながら、手を振った。
森の麓の小道の脇に第三の刺客は、佇んでいた。
「やあ、やあ、われこそは、カグヤしてんのうがひとり、シワ~。
いざ、じんじょ~に、しょ~ぶだぁ。」
赤い鞄をしょった小柄な女の子が、ノートの切れ端にかかれた文字を一生懸命朗読している。
はい、かわいい棒読みセリフ、いただきました。
「シワちゃんまで・・・・。
なんか、ごめんね。あの、シワちゃんも、カグヤに言われて?」
「うん。
なんかね、ジュンちゃんが、ここに来たら、この紙に書いてあることを読んであげてねって、カグヤちゃんに頼まれたの~。」
シワは、2年生。
カグヤやジュンの2学年下の女の子で、カグヤやジュンのクラスメートの妹だ。
「そ、それはそうと、シワちゃん。
これは、どういう状況なのかな?」
シワは、キツネ、ネコ、コウシ、シカ、カラス、スズメ、メジロ・・・と、それだけで、しりとりができてしまうくらいの動物たちに囲まれていた。
ん?と首をかしげるシワ。
「えっとね~。
ここで、ジュンちゃん、待ってる間にね、なんか仲良くなっちゃったの~。
ほら、このウサギさん、モフモフで可愛いんだよ~」
とニッコリ微笑みながら、腕に抱えていた白ウサギをジュンに差し出す。
「大丈夫・・・・?
噛んだりしない?」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
ジュンは、恐る恐る白ウサギを受け取り、抱きかかえてみる。
それは、思ったよりも軽く、モフモフしていて、か、かわいい!
頭をなでてあげると、耳を伏せて、気持ちよさそうに目を閉じる。
なでている手を止めると、もっと・・・・とせがむように、赤い瞳が見上げてくる。
お、おおお、と・・・・尊い!
「それでね~、このネコちゃん。
このネコジャラシで遊んであげるととっても喜ぶの~」
シワは、手の持ったブラシのような長い穂がついた雑草をふりふりする。
いつの間にか、薄いオレンジがかった毛色に赤褐色の縞模様の茶トラのネコが、ジュンの足元に擦り寄り、期待に満ちた瞳で見上げている。
ジュンは、シワから、ネコジャラシ(エノコログサ)を受け取ると茶トラの前でふりふりしてみた。
茶トラは、ネコジャラシに戯れつき、前足で懸命に猫パンチを見舞ったり、両前足でネコジャラシの穂を掴むとごろんと寝転がって猫キックをおみまいしたりする。
お、おおお。
こ、これも・・・・、めっちゃ、かわええ!
「それからね~、この子はね~」
と、シワから、次から次へと紹介される動物たちを、ジュンは、モフモフしたり、ギュッと抱きしめたり、それはもう存分に堪能しつくした。
ジュンは、モフモフ十分、かわいさの成分充填100%だ。
いつの間にか、結構な時間が過ぎていた。
「シワちゃん、ほんと名残惜しいけど、私、そろそろ帰らなきゃ・・・・」
「そっか~。残念~。
あ、そうだ・・・・!」
なにか思い出したシワは、ポケットから、さっきとは別のノートの切れ端を取り出すと朗読を始めた。
棒読みなのは相変わらずだが、名乗りを上げた時よりは、ずいぶんましである。
さっきは、緊張してたのかしら。
「『くっ、おのれジュン。
しかし、我は四天王の中では最弱、これで、勝った気にならぬことだ。
つぎの関門では、四天王最強の男が貴様を待っている。
貴様の命運もそこまでよ・・・。』っと、以上~。
ジュンちゃんが帰るときにこれを読んでねって、カグヤちゃんに頼まれたの~。
次は、お兄ちゃんが待ってるから~、よろしくね~」
しばらく進むと、いた、第四の刺客。
「よう」
「どうも」
「・・・・ん?
なんだ?」
「・・・・ジン、あんたまで、こんな悪ふざけに付き合うとは思ってなかったわ」
白のシャツに黒の学生ズボンをビシッときめている男子にジュンは、呆れたように声をかける。
「ま、俺は、ジュンが帰るのを邪魔するつもりはないぞ。
行きたきゃ、勝手に通っていけ。ただ・・・・」
「ただ?」
「俺は、カグヤから、スイーツを預かっている。
これが、要らないと言うのならば・・・、だが」
ジンは、右手にもった藍色の巾着袋をぶらぶらさせる。
巾着袋は、結構な膨らみ具合で、これは逃してはいけない獲物だとジュンの本能が告げる。
「ス、スィーツ?
し、しかたないわね~。
ちょ、ちょっとぐらいなら、時間、大丈夫だし・・・・」
「いや、別に、無理しなくてもいいぞ。
さっき、巾着袋の中を覗いてみたんだが、結構うまそうなやつでな。
後で俺が、全部食べておくから」
「大丈夫って、いってるでしょ!」
ジンから、巾着袋を奪うと、その中身を確認してみる。
「お~~~!」
私の本能の直感は正しかった!
巾着袋の中には、イチゴやオレンジなどのドライフルーツがのったもの、紅茶風味や抹茶風味など、個包装されたいろいろなパウンドケーキがぎっしりと詰まっていた。
「突っ立てないで、そこに座って食べたらどうだ?」
促されるまま、近くのベンチに腰掛け、さっそく1個目のパウンドケーキにパクつく。
抹茶風味がジュンのお気に入りだ。
「ほれ、もう生温いかもしれんが、ほうじ茶だ」
同じベンチに腰掛けたジンが、ほうじ茶の入った水筒を差し出す。
2個目の抹茶パウンドケーキを食べ終え、何か飲むものがほしいな~と思い始めていたジュンは、ありがたいとばかりに水筒をうけとり、ほうじ茶を一気にあおる。
冷めたおかげでおかげでごくりとのめるほうじ茶。喉を潤す感じが快い。
さて、3個目~。
「無理にここで食べんでも、残りは、家に持って帰ってたべりゃいい・・・・」
ずいぶん日も長くなってきた初夏の夕暮れ。
昼間は熱いくらいでも、日が西に沈むこの時間に吹く風は、まだ少し冷たく、半袖では少し寒い。
「で・・・・?」
「なによ?」
「少しは、すっきりしたか?」
「え?」
「気に入らないヤツやつ飛ばして、お気に入りの曲を大声で歌って、ウサギをモフって、子猫とじゃれあって、好物のお菓子パクつて・・・・。
少しはストレス発散できたのかってきいてるんだ」
「お、大きなお世話よ」
一生吹(いっしょぶき)池で、パシャッと魚が跳ねる音がする。
池を渡る風に雑木林の木々が、ザァツと鳴る。
「帰る・・・・」
「おう」
また、池で魚が跳ねたようだ。
赤く染まる空をカラスが鳴いて行き過ぎる。
道に伸びる長い影。
ジュンが、家にたどり着くころには、西の空に細くかけた月と一番星が輝き始めていた。
「ただいま、母さん」
「おかえりなさい、ジュン。
今日は、遅かったのね」
「うん。
ちょっと・・・・」
母は、台所で夕食の準備を進めている。
「さっきまで、カグヤちゃんとチヨちゃんが来てくれてたのよ」
「そう」
「いつも、ありがたいわね」
「そうね・・・・」
ジュンは背負っていたスクールバックを下ろして、右手に下げる。
「カバン、おいてらっしゃい。
すぐ、ごはんよ」
「わかった・・・・」
コン、コン。
いつものように2つノックをして、姉の部屋に入る。
扉を入って、すぐ右側にカバンを置く。
ベッドの横の小さな机の上に姉の好きだったフルーツパウンドケーキが4個雑然と置かれている。
3歩進んで、ゆっくりとカーテンを閉めた。
夕暮れですでに薄暗かった部屋内に、さらに濃い影がさす。
「ただいま。
姉さん。」
返事は、ない。
部屋の片隅のベットの上、深みを増した闇の中で、石化し横たわる姉が淡い光りをはなっていた。
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