嘘つきな君と、本当の僕

柚槙ゆみ

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 直人は走っていた。待ち合わせの時間に間に合うように会社を出たのに、途中で財布を拾い交番に届けて書類を書いているうちに遅くなってしまった。電車を降りて駅から走る。待ち合わせの場所までもう少しというところで、道路を挟んだ向こう側に春樹が立っているのが見えた。

(あっ、春樹だ!)

 どうやら向こうも少し遅れているようだった。交差点の信号が青になって、春樹の方へと歩いていたとき、彼の向こう側に女性が寄り添っているのが見えた。友人だと思えばそう思えなくもないが、彼女は春樹の腕に自分の腕を絡ませて楽しそうにしているのだ。

(どういうこと……?)

 信号を渡るはずの直人の足は止まってしまった。だが横断歩道の真ん中では邪魔になるばかりで、流されるように元来た方へと足先が向いた。
 なぜ春樹が女性と一緒にいるのか。いや一緒にいるくらいならまだいい。楽しそうにしている女性は春樹と腕を組んでいる。あれはどういうことなのか。
 直人は元の場所に戻り道の脇に移動した。スマホを取り出し、メッセージをしようかと悩む。

(いや、きっとなにか理由があるはずだ。春樹がそんな不誠実なことをするはずがない)

 思いが通じて初めてのデートなのに、そんなことをするはずがないと思った。きっとなにか理由がある、そう思うことにした。直人は気を取り直して信号が変わるのを待つ。道路を渡り、春樹が歩いて行った方へと歩いて行く。待ち合わせ場所で春樹の姿を見たときには、自然に駆け足になっていた。
 もしかしたらあの光景は直人の見間違いだったのかもしれない。それならそれでもよかった。しかし春樹の様子が少しおかしい。そわそわしているし、同じ方向を何度も見て気にしている。直人もそちらが気になって見てみるが、しかしそこには誰もいない。

(どうしたんだろう?)

 そう思っているうちに、不意打ちで春樹にキスをされる。周囲の人の視線が一斉にこちらに向けられたのがわかった。春樹の行動がさっぱりわからない。キスをした理由を聞けば誤魔化された。でもすぐに思い直したような顔で「御苑に向かいながら話すよ」と言ってくれた。不安はあったが、隠されたり嘘をつかれたりされなかったことがうれしい。あの日のカフェでの約束を守ってくれている。
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