聖女のわたしは呪われた勇者(幼馴染)を性交で浄化していたはずですが、彼の中身が違うかもしれない

天草つづみ

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本編

35.咄嗟の口付け

 入ってきた時の洞窟を抜けると、森の中を馬が走り出す。

 人間は獣に襲われる可能性があるので森を迂回していくのだが、獣も瘴気を恐れるので、魔族は避ける必要がないのだ。
 馬は扉の方角に一直線に走っていて、水場も魔王と同じように瘴気を使って突っ切っていく。

 途中で馬を止めてまた木の実などを与えられつつ走っていき、今度は他の魔族の里に寄ることもなかった。
 時折魔王に話しかけられるが、ルーチェがそっけない態度をとると、困ったような顔をされる。
 そういう表情はわりとレオに近くて、胸が痛んでしまうのでやめて欲しかった。


 そして出発して三日ほどで、ルーチェたちは魔の扉に辿り着いてしまった。


 森を抜けて広い草原にでると、遠くにひとつだけぽつんとそびえる巨大な扉が見えて、息を飲んだ。

「あ、あれ……」
「ああ、あれが魔の扉だよ。間に合ってよかった」

――な、なにも良くない! もう着いちゃうなんて……!

 レオたちは、旅立ってから扉閉めて帰ってくるのに、三年かかったのだ。
 それを、七日間の移動で来てしまうなんて。

 扉に行こうという人などほぼほぼ存在しないので、その正確な距離や日数はあまり知られておらず、ルーチェも気にしたことはなかった。
 ただ森や山、湖など迂回しなければいけない場所がたくさんあって、地図で見る距離よりも時間がかかるというのは知っている。

 そしてレオたちは、ただ移動するだけでなくて、扉から人間界に侵入し続ける魔族を倒しながら進んでいく。
 だからそれだけ時間がかかるのは分かっているのだが、いくら直線移動とはいえ七日と三年では、あまりにも差がありすぎる。
 それだけ、レオたちの旅が過酷だったということなのだが……てっきり、扉に着くまでにもっと猶予があると思っていた。


 あたりを見渡すが、もちろん他に人影はない。
 レオの仲間たちも、魔族の妨害がなかったとしても、こんなに早くは来られないだろう。
 このままでは扉を開けられて、鍵もレオもルーチェも魔界に連れていかれ、人間界は終わってしまう。

――考えて! なにか、なにか、できること……なんでも良いから、とにかく何か、行動を……!

 慌てたルーチェは魔王の首に回している腕を思いっきり引いて一緒に落馬しようとしたが、その体はびくともしなかった。

「ほら、危ないから大人しくして」

 腰を支える手が撫でてきて、その余裕っぷりにルーチェは更に焦る。
 しかしルーチェごときの力で鍛え上がれたレオの体をどうこうしようというのが不可能なのは、当たり前なのだ。

 今度は自由な足をばたつかせて馬を蹴るが、安定した走りを続ける。
 魔族だから、馬だろうと知性がある。ルーチェのことなど、歯牙にもかけていないのだろう。

「と、止まって! やだ、扉なんて開けさせないから! 戻って!! だめ!」

 とうとう、ルーチェは喚き散らすことしかできなくなった。
 魔王は痛ましそうに眉を寄せて、ルーチェを強く抱き締める。

「大丈夫だから。君に悪いことは何もないよ。住む場所が変わるだけ。向こうで何不自由なく生活させてあげるから」
「ふざけないで! 人を拉致しといて何言ってるのよ!! 本当に悪いことしないって言うのなら、鍵も、レオも、わたしも帰して!!」
「…………ごめん、それだけは我慢して。そしたら、あとは向こうで何でもしてあげるから。お願いだから、俺のになってよ……」
「いや!! う゛う゛~~~っ!!」

 子供をなだめるように言われて、ルーチェは話の通じなさに泣きながら首を振った。
 そんなこと言って、何をされるか分かったものではない。
 こうやってこちらの意思をまったく尊重しない相手のことを、信じられるわけがないのだ。
 そして、それが分かっていないのもまた怖い。

 必死に縛られた腕で背中を叩いたり足を蹴ったりしたが、やはり魔王はびくともしなかった。
 ただルーチェを片手で強く抱き締めながら馬を走らせ、そして扉のそばで足を止る。

 ルーチェは、魔王に片腕で抱かれたまま馬を下ろされた。
 そしてそのまま、扉の方に連れて行かれる。

「や、やだ! レオ、レオ~~!!」

 このままでは、ルーチェも、レオも、人間界も魔族の好きにされてしまう。

 顔をぐしゃぐしゃにして泣くルーチェに、魔王は顔を歪めた。
 しかしルーチェの足を引き摺りながらも、扉の前まで行く。
 そして、背中に担いでいた鍵を構えた。鍵が、強い輝きを放ち始める。

「っ……!」

 ルーチェは咄嗟に、腕に力を入れて魔王の顔を引き寄せた。

 穢れた精を受け入れることでの浄化。
『毎日、自分が起きてルーチェと過ごした記憶は確かにあるんだ』という、レオの言葉。
『こいつ、君がいるとき守りが堅いし……』そう言った魔王。

 今までの様々な事柄が走馬灯のようにルーチェの脳内を駆け巡る。
 そして、頭で考える前に、動いていた。

「お願い、レオ……」

 ルーチェは潤んだ瞳で魔王が入ったレオを見上げ、その唇にキスをした。
 魔王が、目を見開く。

 舌で唇をこじ開けると、唾液が流れ込んでくる。
 口内から喉までカァッと熱くなって、しゅわしゅわとしたあの独特な感覚がした。

 ルーチェがこくりと唾液を飲み込むと、今までルーチェを抱いていた手が動き、後頭部を掴む。
 頭部を固定され、魔王の舌が入り込んできた。

 ルーチェの舌はあっけなく絡め取られ、扱くように動かされて腰が震える。
 舌が痺れてぴくぴく震えはじめると解放されて、歯列から上顎まで、隅々まで舌を這わされた。
 今まで唯一無垢だった、大好きなレオのために取っておいた口内を魔王に荒らされて、ルーチェはぽろぽろと涙を流した。
 それでも、ちゅう、と吸い付いて唾液を招き入れる。

 どのくらい、そうしていたのか分からない。
 ルーチェの視界がぼんやりして、とっくに下腹部が熱を持っていた。

 そして、とうとう足が震えて力が抜けそうになったところで、そっと唇が離れた。
 ルーチェの後頭部を掴んでいた手が、菫色の髪を優しく撫でる。

「ごめん。お待たせ、ルーチェ。……間に合わなかったか」
「ぇ、……あ……?」

 ルーチェが見上げると、レオがいた。
 魔王が中にいるのではなくて、本物のレオだ。ルーチェはすぐに分かった。
 その表情には一切の違和感がなく、まだ紅い瞳には彼らしい、真っ直ぐで強い意志が宿っている。

 そんなレオの左手にはもう鍵はなく……扉の鍵穴に、刺さっていた。
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