45 / 49
番外編
ルーチェは俺の全て(2)
そんなことがあったなあと、レオはフェルディナンドからの祝いの手紙を読みながら思った。
今日は、レオとルーチェの結婚式だったのだ。
もちろん仲間の三人にも招待状を送ったのだが、残念ながらフェルディナンドは家の方の用事があり、来られなかった。
公爵家だから、しょうがないだろう。
そして代わりにと、祝いの手紙が送られてきたのだ。
この世界では十六で成人し、結婚することを認められる。
レオとルーチェは花冠の祭りのあとすぐに結婚の準備を初めて、あれから二ヶ月後の今日、ついに式を挙げたのだ。
そう。
やっと、ルーチェが、レオの妻になった。
もう夫婦として村の空き家に引っ越していて、先ほど荷解きが終わったところだ。
レオは既に風呂を済ませていて、今はルーチェが入浴している。
今晩から、二人きりの生活が始まるのだ。
手紙にある結婚おめでとうの字を指でなぞり、レオは微笑んだ。
ルーチェが名実ともに人生の伴侶となったこの喜びを真に理解する人は、きっといないだろう。
自分の魂の欠けた部分をやっと手に入れたような、そんな感覚。
今でもレオにとってのルーチェをどう表現するのか、最適な言葉は見つかっていない。
けれどあの日仲間たちに言った、ルーチェはレオの全てだという言葉は、やはり間違っていないと思う。
あのときの彼らは、子供が大袈裟に言っていると受け取ったのだろうが……そんなことはない。
もう成人して、世界を救って、それでも胸を張って言える。
レオは物心ついたときからルーチェと一緒だったし、彼女のことが好きだった。
唯一の同い年だからと親同士がよく遊ばせていたし、村の行事でもセットにされた。
産まれた時からそんな感じだった。
そして、あんなに可愛い女の子がそばにいれば、それは好きにならない方がおかしいだろう。
レオにとってルーチェと一緒にいることは当たり前で、心が安らぐ時間でもあり、心がそわそわするような時間でもあった。
成長とともに他の子供とも関わるようになると、レオは年上の男の子にちょっかいを出されるようになった。
あの頃、体の成長が遅かったレオにとって彼らは怖い存在で、それから守ってくれたのがルーチェだった。
レオが彼らにいじめられていると必ずルーチェがやってきて、追い払う。
それが嬉しい気持ちももちろんあったが――正直なところ、疎ましくもあった。
女の子に助けられる弱い自分を惨めだと思うところがあったし、そうやってルーチェが来るから、彼らのいじめも過激になっていった部分があるのだ。
かわいいルーチェを独り占めするレオ。
女の子に守られる弱虫レオ。
彼らのレオに対する当たりは、そうして強くなっていった。
すると、ルーチェがすっ飛んでくる。
そんな悪循環がずっと続いていて、あの頃のレオは疲弊していた。
ルーチェと離れた方がいいのかな、と思って一人でいても、ルーチェがそれを許さない。
それが嬉しくもあり、鬱陶しくもあり。
いじめられているところをルーチェに助けられると、嬉しくもあり、惨めでもあり。
『大丈夫? レオ』
『う、うん……ありがとルーチェ……』
年上の男の子に立ち向かうルーチェはかっこよくて、憧れと同時に、劣等感を刺激された。
体の大きなルーチェに嫉妬して、哀しくなって。
『もうっ、だからわたしがお家まで迎えに行くって言ったのに!』
『ごめん……』
『いいわよ。さ、気を取り直して遊びましょ!』
ルーチェがそうやって来るからいじめられるんだよ、と腹立たしくて、でも一緒にいると楽しくて。
ルーチェが来るのが遅いときは、不安になって、寂しくて。
あの頃のレオは小さい体の内に様々な感情が渦巻いていて、嵐のようだった。
そうやって、レオの中にはルーチェの存在が刻まれていった。
レオは、おおよそ人が経験する他人への感情のほぼ全てを、ルーチェに対して抱いて生きてきた。
狼に立ち向かおうという勇気も、ルーチェが危なかったから湧いてきた。
そこから生き残って大人たちに褒められた時の高揚も、ルーチェがいたから、味わうことができた。
レオが割った皿をルーチェが片付けて怪我をして、感染症になったとき。
あれほど後悔と、罪悪感と、恐怖や絶望を感じたことはなかった。
精通も、ルーチェと裸で寝る夢を見て迎えた。
レオにとってルーチェと一緒にいることは当たり前で、彼女から多くのことを与えられて。
レオは何をしていても、脳裏にルーチェがちらつくのだ。
あのときルーチェといる時もこんなこと思ったなとか、こんなことしたな、とか。
ルーチェなしの自分など想像もつかなかったし、これからもずっと一緒なんだと思っていた。
けれど、レオは勇者に、ルーチェは聖女に選ばれた。
レオは扉を閉める旅に出て、ルーチェは聖教会で結界を張り続けることになる。
離ればなれになることは嫌だったけれど、どちらかが選ばれたのではなくて、一緒に選ばれたので、まだ受け入れられた。
勇者と聖女という対のような存在になった嬉しさも少しあった。
自分とルーチェの強い結び付きを、鍵と浄化の女神が保証しているように思えたからだ。
それに、ルーチェが一人で村に残っていたら、彼女を口説こうとする男は後を絶たないだろう。
けれど聖女ならば、他の男と親睦を深める余裕なんてないはずだ。
それに、扉を閉めるという役割は、人間界の命運を――つまりは、ルーチェの命運を握っているとも言える。
それが他の男でなくて自分だというのも、堪らなかった。
扉を閉めて帰ってきたら、ルーチェに告白しよう。
魔の扉を閉める旅は過酷で、年単位かかるという。
もし成人していたら、プロポーズもする。
そして、ルーチェと、名実ともに一緒になるのだ。
そう決意して、レオは村を去った。
それから、色々……本当に色々あって、やっとここまできた。
レオはルーチェのものになったし、ルーチェはレオのものだ。
ずっと不完全だった自分が、やっと、完全な人になったような気分だった。
今日は、レオとルーチェの結婚式だったのだ。
もちろん仲間の三人にも招待状を送ったのだが、残念ながらフェルディナンドは家の方の用事があり、来られなかった。
公爵家だから、しょうがないだろう。
そして代わりにと、祝いの手紙が送られてきたのだ。
この世界では十六で成人し、結婚することを認められる。
レオとルーチェは花冠の祭りのあとすぐに結婚の準備を初めて、あれから二ヶ月後の今日、ついに式を挙げたのだ。
そう。
やっと、ルーチェが、レオの妻になった。
もう夫婦として村の空き家に引っ越していて、先ほど荷解きが終わったところだ。
レオは既に風呂を済ませていて、今はルーチェが入浴している。
今晩から、二人きりの生活が始まるのだ。
手紙にある結婚おめでとうの字を指でなぞり、レオは微笑んだ。
ルーチェが名実ともに人生の伴侶となったこの喜びを真に理解する人は、きっといないだろう。
自分の魂の欠けた部分をやっと手に入れたような、そんな感覚。
今でもレオにとってのルーチェをどう表現するのか、最適な言葉は見つかっていない。
けれどあの日仲間たちに言った、ルーチェはレオの全てだという言葉は、やはり間違っていないと思う。
あのときの彼らは、子供が大袈裟に言っていると受け取ったのだろうが……そんなことはない。
もう成人して、世界を救って、それでも胸を張って言える。
レオは物心ついたときからルーチェと一緒だったし、彼女のことが好きだった。
唯一の同い年だからと親同士がよく遊ばせていたし、村の行事でもセットにされた。
産まれた時からそんな感じだった。
そして、あんなに可愛い女の子がそばにいれば、それは好きにならない方がおかしいだろう。
レオにとってルーチェと一緒にいることは当たり前で、心が安らぐ時間でもあり、心がそわそわするような時間でもあった。
成長とともに他の子供とも関わるようになると、レオは年上の男の子にちょっかいを出されるようになった。
あの頃、体の成長が遅かったレオにとって彼らは怖い存在で、それから守ってくれたのがルーチェだった。
レオが彼らにいじめられていると必ずルーチェがやってきて、追い払う。
それが嬉しい気持ちももちろんあったが――正直なところ、疎ましくもあった。
女の子に助けられる弱い自分を惨めだと思うところがあったし、そうやってルーチェが来るから、彼らのいじめも過激になっていった部分があるのだ。
かわいいルーチェを独り占めするレオ。
女の子に守られる弱虫レオ。
彼らのレオに対する当たりは、そうして強くなっていった。
すると、ルーチェがすっ飛んでくる。
そんな悪循環がずっと続いていて、あの頃のレオは疲弊していた。
ルーチェと離れた方がいいのかな、と思って一人でいても、ルーチェがそれを許さない。
それが嬉しくもあり、鬱陶しくもあり。
いじめられているところをルーチェに助けられると、嬉しくもあり、惨めでもあり。
『大丈夫? レオ』
『う、うん……ありがとルーチェ……』
年上の男の子に立ち向かうルーチェはかっこよくて、憧れと同時に、劣等感を刺激された。
体の大きなルーチェに嫉妬して、哀しくなって。
『もうっ、だからわたしがお家まで迎えに行くって言ったのに!』
『ごめん……』
『いいわよ。さ、気を取り直して遊びましょ!』
ルーチェがそうやって来るからいじめられるんだよ、と腹立たしくて、でも一緒にいると楽しくて。
ルーチェが来るのが遅いときは、不安になって、寂しくて。
あの頃のレオは小さい体の内に様々な感情が渦巻いていて、嵐のようだった。
そうやって、レオの中にはルーチェの存在が刻まれていった。
レオは、おおよそ人が経験する他人への感情のほぼ全てを、ルーチェに対して抱いて生きてきた。
狼に立ち向かおうという勇気も、ルーチェが危なかったから湧いてきた。
そこから生き残って大人たちに褒められた時の高揚も、ルーチェがいたから、味わうことができた。
レオが割った皿をルーチェが片付けて怪我をして、感染症になったとき。
あれほど後悔と、罪悪感と、恐怖や絶望を感じたことはなかった。
精通も、ルーチェと裸で寝る夢を見て迎えた。
レオにとってルーチェと一緒にいることは当たり前で、彼女から多くのことを与えられて。
レオは何をしていても、脳裏にルーチェがちらつくのだ。
あのときルーチェといる時もこんなこと思ったなとか、こんなことしたな、とか。
ルーチェなしの自分など想像もつかなかったし、これからもずっと一緒なんだと思っていた。
けれど、レオは勇者に、ルーチェは聖女に選ばれた。
レオは扉を閉める旅に出て、ルーチェは聖教会で結界を張り続けることになる。
離ればなれになることは嫌だったけれど、どちらかが選ばれたのではなくて、一緒に選ばれたので、まだ受け入れられた。
勇者と聖女という対のような存在になった嬉しさも少しあった。
自分とルーチェの強い結び付きを、鍵と浄化の女神が保証しているように思えたからだ。
それに、ルーチェが一人で村に残っていたら、彼女を口説こうとする男は後を絶たないだろう。
けれど聖女ならば、他の男と親睦を深める余裕なんてないはずだ。
それに、扉を閉めるという役割は、人間界の命運を――つまりは、ルーチェの命運を握っているとも言える。
それが他の男でなくて自分だというのも、堪らなかった。
扉を閉めて帰ってきたら、ルーチェに告白しよう。
魔の扉を閉める旅は過酷で、年単位かかるという。
もし成人していたら、プロポーズもする。
そして、ルーチェと、名実ともに一緒になるのだ。
そう決意して、レオは村を去った。
それから、色々……本当に色々あって、やっとここまできた。
レオはルーチェのものになったし、ルーチェはレオのものだ。
ずっと不完全だった自分が、やっと、完全な人になったような気分だった。
あなたにおすすめの小説
【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました
恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」
交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。
でも、彼は悲しむどころか、見たこともない
暗い瞳で私を追い詰めた。
「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」
私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、
隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
落ちて拾われて売られて買われた私
ざっく
恋愛
この世界に来た日のことは、もうあまり覚えていない。ある日突然、知らない場所にいて、拾われて売られて遊女になった。そんな私を望んでくれた人がいた。勇者だと讃えられている彼が、私の特殊能力を見初め、身請けしてくれることになった。
最終的には溺愛になる予定です。
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。
豆丸
恋愛
竜神都市アーガストに三人の聖女が召喚されました。バツイチ社会人が竜神のお手当てをしてさっくり日本に帰るつもりだったのに、竜の神官二人に溺愛されて帰れなくなっちゃう話。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。