聖女のわたしは呪われた勇者(幼馴染)を性交で浄化していたはずですが、彼の中身が違うかもしれない

天草つづみ

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番外編

ルーチェは俺の全て(2)

 そんなことがあったなあと、レオはフェルディナンドからの祝いの手紙を読みながら思った。

 今日は、レオとルーチェの結婚式だったのだ。

 もちろん仲間の三人にも招待状を送ったのだが、残念ながらフェルディナンドは家の方の用事があり、来られなかった。
 公爵家だから、しょうがないだろう。
 そして代わりにと、祝いの手紙が送られてきたのだ。


 この世界では十六で成人し、結婚することを認められる。
 レオとルーチェは花冠の祭りのあとすぐに結婚の準備を初めて、あれから二ヶ月後の今日、ついに式を挙げたのだ。

 そう。
 やっと、ルーチェが、レオの妻になった。

 もう夫婦として村の空き家に引っ越していて、先ほど荷解きが終わったところだ。
 レオは既に風呂を済ませていて、今はルーチェが入浴している。
 今晩から、二人きりの生活が始まるのだ。

 手紙にある結婚おめでとうの字を指でなぞり、レオは微笑んだ。
 ルーチェが名実ともに人生の伴侶となったこの喜びを真に理解する人は、きっといないだろう。
 自分の魂の欠けた部分をやっと手に入れたような、そんな感覚。

 今でもレオにとってのルーチェをどう表現するのか、最適な言葉は見つかっていない。
 けれどあの日仲間たちに言った、ルーチェはレオの全てだという言葉は、やはり間違っていないと思う。
 あのときの彼らは、子供が大袈裟に言っていると受け取ったのだろうが……そんなことはない。
 もう成人して、世界を救って、それでも胸を張って言える。


 レオは物心ついたときからルーチェと一緒だったし、彼女のことが好きだった。
 唯一の同い年だからと親同士がよく遊ばせていたし、村の行事でもセットにされた。
 産まれた時からそんな感じだった。

 そして、あんなに可愛い女の子がそばにいれば、それは好きにならない方がおかしいだろう。
 レオにとってルーチェと一緒にいることは当たり前で、心が安らぐ時間でもあり、心がそわそわするような時間でもあった。

 成長とともに他の子供とも関わるようになると、レオは年上の男の子にちょっかいを出されるようになった。
 あの頃、体の成長が遅かったレオにとって彼らは怖い存在で、それから守ってくれたのがルーチェだった。
 レオが彼らにいじめられていると必ずルーチェがやってきて、追い払う。
 それが嬉しい気持ちももちろんあったが――正直なところ、疎ましくもあった。

 女の子に助けられる弱い自分を惨めだと思うところがあったし、そうやってルーチェが来るから、彼らのいじめも過激になっていった部分があるのだ。
 かわいいルーチェを独り占めするレオ。
 女の子に守られる弱虫レオ。
 彼らのレオに対する当たりは、そうして強くなっていった。
 すると、ルーチェがすっ飛んでくる。

 そんな悪循環がずっと続いていて、あの頃のレオは疲弊していた。

 ルーチェと離れた方がいいのかな、と思って一人でいても、ルーチェがそれを許さない。
 それが嬉しくもあり、鬱陶しくもあり。
 いじめられているところをルーチェに助けられると、嬉しくもあり、惨めでもあり。

『大丈夫? レオ』
『う、うん……ありがとルーチェ……』

 年上の男の子に立ち向かうルーチェはかっこよくて、憧れと同時に、劣等感を刺激された。
 体の大きなルーチェに嫉妬して、哀しくなって。

『もうっ、だからわたしがお家まで迎えに行くって言ったのに!』
『ごめん……』
『いいわよ。さ、気を取り直して遊びましょ!』

 ルーチェがそうやって来るからいじめられるんだよ、と腹立たしくて、でも一緒にいると楽しくて。
 ルーチェが来るのが遅いときは、不安になって、寂しくて。

 あの頃のレオは小さい体の内に様々な感情が渦巻いていて、嵐のようだった。
 そうやって、レオの中にはルーチェの存在が刻まれていった。
 レオは、おおよそ人が経験する他人への感情のほぼ全てを、ルーチェに対して抱いて生きてきた。

 狼に立ち向かおうという勇気も、ルーチェが危なかったから湧いてきた。
 そこから生き残って大人たちに褒められた時の高揚も、ルーチェがいたから、味わうことができた。
 レオが割った皿をルーチェが片付けて怪我をして、感染症になったとき。
 あれほど後悔と、罪悪感と、恐怖や絶望を感じたことはなかった。
 精通も、ルーチェと裸で寝る夢を見て迎えた。

 レオにとってルーチェと一緒にいることは当たり前で、彼女から多くのことを与えられて。
 レオは何をしていても、脳裏にルーチェがちらつくのだ。
 あのときルーチェといる時もこんなこと思ったなとか、こんなことしたな、とか。
 ルーチェなしの自分など想像もつかなかったし、これからもずっと一緒なんだと思っていた。

 けれど、レオは勇者に、ルーチェは聖女に選ばれた。
 レオは扉を閉める旅に出て、ルーチェは聖教会で結界を張り続けることになる。

 離ればなれになることは嫌だったけれど、どちらかが選ばれたのではなくて、一緒に選ばれたので、まだ受け入れられた。
 勇者と聖女という対のような存在になった嬉しさも少しあった。
 自分とルーチェの強い結び付きを、鍵と浄化の女神が保証しているように思えたからだ。

 それに、ルーチェが一人で村に残っていたら、彼女を口説こうとする男は後を絶たないだろう。
 けれど聖女ならば、他の男と親睦を深める余裕なんてないはずだ。
 それに、扉を閉めるという役割は、人間界の命運を――つまりは、ルーチェの命運を握っているとも言える。
 それが他の男でなくて自分だというのも、堪らなかった。


 扉を閉めて帰ってきたら、ルーチェに告白しよう。
 魔の扉を閉める旅は過酷で、年単位かかるという。
 もし成人していたら、プロポーズもする。
 そして、ルーチェと、名実ともに一緒になるのだ。
 そう決意して、レオは村を去った。

 それから、色々……本当に色々あって、やっとここまできた。
 レオはルーチェのものになったし、ルーチェはレオのものだ。
 ずっと不完全だった自分が、やっと、完全な人になったような気分だった。
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