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第12回 勘
しおりを挟む「「「「「――っ!?」」」」」
ボスがいるコンビニルームに、俺たち全員が足を踏み入れた瞬間だった。
前後の通路が壁と同化するようにして閉ざされ、あっという間に完全に封鎖されてしまった。
「ほう、本当にボスが出てきたか。佐嶋、お前の勘が当たったようだなぁ」
「……あぁ、そうだな」
俺に対する羽田の言葉には、探りを入れるような意味合いもあったように思うが、これくらいだと勘がいいレベルだから、スキルのおかげだとバレることはまずないだろう。
しかし、ここにはボスがいるはずなのにそれらしき姿が一向に見えない。上半身のみのゾンビが横たわっていて、目だけを動かしてキョロキョロしてるが、もちろんあれは違う。
ボスは一体どこにいるんだ……? ん、視界に上方向の矢印が出てきたので仰ぎ見ると、天井に幾つもの赤い目が浮かび上がってきた。
まもなく黒坂たちもそれに気付いたらしく、いずれも興奮した様子で天井を見上げながら後退りしていた。
「ボ、ボ、ボスだっ……! もうすぐダンジョンのボスが来るぜ……!」
「う、うむっ、ま、まさかわしらのような一般人がボスと戦うことになろうとはな……」
「い、いよいよ、ですね……」
「チッ……本当に俺たちはボスと戦わなきゃいけないのか……」
色んな声が上がる中、天井の複数の目がどんどん一つに集まり、雫のように落ちたあと、それが徐々に大きく膨らんでいった。
「――オオオォッ……」
「「「「「……」」」」」
俺たちの前に現れたのは、バケツよりも一回り大きいプリン型モンスターで、真っ黒な体に複数の赤い目がついた異様な風貌をしていた。
まもなくウィンドウが出てきて詳細が明らかになる。デッドリーゼリーという名称の、レベル53のボスだ。
見た目は気持ち悪いものの、そこまで強そうには見えないというところが、より不気味さを助長させていた。
「佐嶋ぁ、私は後方で高みの見物とさせてもらうぞ」
虐殺者の凄みのある笑みがまぶしい。
「ただし、逃げ回ったり、こっちに来て助けを求めてきたりするようなら、私がこの手で即座に死体に変えてやるから、覚えておくことだ。まあ、お前は自分をなるべく痛めつけたいようだから大丈夫だろうが……」
「…………」
俺たちは一般人パーティーだというのに、前方にはダンジョンのボス、後方には殺人鬼のスレイヤーがいるという、まさに絶体絶命、背水の陣だと断言できる苦境。
こんな絶望的な状況下で戦うしかないんだから当然重圧や不安だらけだが、ここまで来たからにはやるしかないし、希望がまったくないわけじゃない。
なんせこっちには超レアスキルの【クエスト簡略化】があるんだからな。これを最大限に活用できれば、一般人の集団でもなんとか打開できると思いたい。
お……まもなく視界に新たなウィンドウが出てきた。そこに表示されていたのは、ボスが10秒後に攻撃をしてくるという警告メッセージだった。こんなことまでわかるなんて便利すぎる。
さらに、少なすぎる青いひし形のセーフゾーンと、多数の赤いウォーニングゾーンが表示された……って、既にカウントダウンは進んでいて、残り3秒だ。
「みんなっ! 死にたくないなら俺の側に寄れっ!」
俺は青いセーフゾーンの中心に立つとともに、力の限り叫ぶ。みんな乗ったか確認するべく周りを見渡すも、野球帽だけが怪訝そうな顔で離れていた。
「おい、早くしろ、藤賀、死ぬぞ!」
「っ!?」
俺が名前で呼んだことが大きかったのか、やつはすぐに駆け寄ってきた。そこそこ勘のいいやつだ。
「ブオオォッ……」
その直後だった。デッドリーゼリーの頭部が大きく凹んだかと思うと、そこから大きなガムのような塊を吐き出し、赤いウォーニングゾーンを埋め尽くしていった。
「「「「「……」」」」」
ウォーニングゾーンにいた上半身のみのゾンビがたちまち骨まで溶かされるのを見て、その凄まじい威力に対して俺は背筋に冷たいものが流れた。きっとみんなもそうだろう。
それに加え、なんでこの場所が平気だったのか、そもそもどうして俺がこの場所なら安全だとわかったのか、頭の中で整理すらもできてないはず。
一方、虐殺者の羽田もウォーニングゾーンにいたが、念力によって容易く酸の塊を弾いていた。予想はしていたが、やはりこんなものじゃ死ぬはずもないか……。
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