ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第38回 旅立ち

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「…………」

 本来の静けさを取り戻した音楽室にて、一人の女性――鬼木龍奈の杖を突く音がコツコツと響く。

 そのグロテスクな状態がすっかり元の姿まで回復した頃、彼女がおもむろに歩み寄ったのは、壊れたピアノの近くで座り込んでいる一人の少女であった。

「あら……あなたは確か、最近テレビで有名になっている黒坂さんですね。羽田と一緒にいたようですけれど、もしかして彼の味方なのですか……?」

「……あ、あ、あっ、あたしは……」

 一度倒れそうになりつつも、なんとか立ち上がる黒坂優菜。

 その足は声に比例してビブラートしており、鬼木を見上げる顔は死体のように生気がまったく感じられなかった。

「……お、お、お願いだからさ、み、見逃してくれよ――」

「――さっさとわたくしの質問に答えるのです。あなたは虐殺者の羽田京志郎の味方なのですか?」

「……そ、そそっ、それは、断じて違うっ! あ、あたしはあいつに脅されて仕方なく、色々手伝ってやっただけで……」

「……仕方なく? でも、結局協力したということですね――?」

「――う、うおおおおぉっ!」

「ごっ!?」

 黒坂が豪快に、鬼木の首に命中したかと思うと、ぐにゃっと折れ曲がるとともに倒れた。

「……や、や、やった……!? よっしゃああぁっ! こ、このあたしがあの羽田のライバルの破壊者を倒したんだ――!」

「――あのぉ……今、わたくしに何かなさいましたか?」

 何事もなかったかのように起き上がり、人差し指で頬を掻く鬼木。

「……へ? うっ……うわあああああぁぁっ!」

 何度も転びながら猛然と逃げる黒坂の背中を見て、鬼木がいかにも可笑しそうに口に手を当てる。

(ふふっ……中々元気のいい子ですわね。まあいいでしょう。今は羽田を痛い目に遭わせることができてすこぶる機嫌がいいですので、特別に許してあげます。さて、わたくしもそろそろここを発つといたしましょうか……)

 鼻歌交じりに音楽室を出ようとした鬼木だったが、の存在に気付いて立ち止まることになる。

 それは、床を這いながらも懸命に前へと進もうとする短髪の少女だった。

(あの子は……見たところ一般人ではありませんね。もしかして、あの生意気な工事帽の男が探していた子でしょうか。野球帽は被っていませんけれど……)

 鬼木が杖を突きつつ、おもむろに少女の元へ歩み寄っていくと、彼女は露骨に警戒したような表情を見せた。

「……お、お前は、誰だ……?」

「わたくしですか? たまたまここを通りがかっただけです」

「……そ、そんなの、誰が信じられるものか……こほっ、こほっ……ど、どうせ、お前の黒坂や羽田の味方だろう。俺はなんにも知らないし、いくら拷問しても無駄だ。殺したいなら、とっとと殺せ……」

「あらあら、とても根性がありそうな割りには死にたがりですのねえ……」

 観念した表情を見せる女子生徒に対し、鬼木が杖の先端を向ける。

「……な、なんのつもりだ……?」

「強がるのはおやめなさい。内心怯えているのは丸わかりですよ。腕が折れていますし、ヒーラーのわたくしに回復してほしいのでしょう?」

「……い、いらない。これくらい、なんともない……」

「……中々強情な子ですわねえ。それに、かなり運もあると思いますわ」

「……運だと? ひ、皮肉か? 俺はいきなり学校ダンジョンに巻き込まれて黒坂たちに拷問された挙句、腕を折られて、おまけにお前みたいな正体不明のヒーラーに絡まれてるってのに……」

「あなた、どうやらスレイヤーの中でも相当に新参の方のようですわね。破壊者っていう異名をご存知ですこと……?」

「……そ、そんなの知らない。俺は最近スレイヤーになるまで、それ自体に興味すらなかったし……」

「なるほど……では、その破壊者にこうして遭遇できたことに感謝しなさい」

「えっ……? ぐ、ぐあああぁぁっ……!」

 叫び声を上げる短髪の少女を尻目に、その場から離れていく鬼木。

(ふふっ、随分と苦しそうで、初々しい悲鳴ですわねえ。手加減したとはいえ、もしあなたが運よくわたくしのヒール量に耐えられるのであれば、助かってからもこの先ずっと生き延びることでしょう。ただ、ここであっけなく死ぬようなら……どうせすぐくたばりますので、ご自身の持ってなさを呪いながらとっととあの世へと旅立ってくださいな……)
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