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第46回 板挟み

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 俺とスレイヤーの風間は、想像を絶するような、まさに最悪の事態に見舞われていた。

 それもそのはずだろう。ここまで苦労してボスの攻撃に耐え続けた結果、ようやく倒せる道筋が出来上がったというのに、どうあがいたって倒せないが現れたようなものだからな。

「やはり、片足も回復していたか。佐嶋ぁ、お前に聞きたいことがある……」

「……は、羽田、今は戦闘中だぞ? そんな余裕があるわけ――」

「――お前、俺を舐めているのかぁ?」

「う……?」

 ん、俺の首筋に微風が吹くのを感じたが、違う。何か手のようなものが纏わりつくような感触だ。こ、これは、なんだ……?

「佐嶋、これが何かわかるかぁ……?」

「……ま、まさか、これも念力なのか?」

「その通りだ。さすが、勘の鋭い佐嶋だなぁ……」

「…………」

 そうか、これはやつの念力によるものなのか。なのに、本物の指先で撫でられたような感覚がした。

 確か念力といえば、とにかく制御が難しくて大雑把の代名詞みたいなものだといわれているのに、指先まで再現できるなんて化け物にもほどがある。やつの念力はここまで進化しているというのか……。

 虐殺者クエストは完了しているものの、一つでも選択肢を間違えば死ぬ状況に変わりはなかった。俺たちの命はもう、やつに握られているようなものなのだ。

 だが、逆に考えれば、いつでも死体に変えられると思っているのに、それができないということ。つまり、やつは俺からを引き出そうと考えているということだ。

 それは、この場面だと逆にこちらにとっては有利かもしれない。ボスが攻撃を行うカウントダウンが既に始まっていたからだ。こんな化け物相手に望みは薄いかもしれないが、今はそれに賭けるしかなかった。

「自分の立場がわかったなら、私の質問に答え――」

「――フシュウウゥゥゥッ……」

「風間さんっ! 俺と同じタイミングでジャンプしつつ、ボスを攻撃してください!」

「っ!?」

 俺は叫んだあと、デスマスクに向かってできる限り高く跳び上がる。ギリギリまで風間に言わなかったのは、敵を騙すなら味方からというし仕方ない。

「オ゙オ゙オ゙ッ!」

 攻撃するタイミング――ボスの顔が輝く瞬間――を狙ったものの、跳ぶのが遅れてしまったために輝きが消えて三回しかヒットさせられなかったが、それでもこれは次に繋がるはず。

「ぬっ、ぬううぅっ!」

 ちなみに風間はというと、俺より跳ぶのが遅れたにもかかわらず抜群の瞬発力で追い抜いてきたわけだが、大剣は弧を描いてあえなく空振りしてしまった。的が大きいんだから突けばいいのに斬ろうとするから……。

 ただ、コンビニダンジョンのボス――デッドリーゼリー――との戦いを見ればわかるように、メンバーはボスの輝きとかは見えないはずで、そこは大振りになっても仕方ないのかもしれない。

「…………」

 俺はボスの手が引っ込んだ屋上に着地したあと、あまり期待せずに羽田のいる方向を確認したわけだが、案の定、やつは高く浮かび上がることで難なく攻撃を避けていた。

 そういえば、デッドリーゼリーとの戦いでも攻撃を読んでいたことから、羽田はなんらかの察知スキルでも持っているのかもしれない。

「……佐嶋、お前はそのまま戦闘を続けろ。戦いつつ私の質問に答えればいい」

「…………」

 さすがは虐殺者。一般人に対して随分と無茶な要求をするもんだ。死神に見守られながらボスと戦えって言うようなものだぞ……。

「あの野球帽やその爺は、エリート種でない、ただの一般人であるにもかかわらず、スレイヤーになった。それはつまり、佐嶋、一般人の中でもお前の恩恵を受けたからではないのかぁ……?」

「…………」

 さすがは化け物の羽田京志郎、察しがいい。

 この質問に素直に答えてしまえば、俺は危険人物とみなされて殺されるだろう。一体どうしたものか……。

「……質問に答えないつもりか? 佐嶋ぁ……」

「ぐっ……?」

 首にかかる圧力が、ほんの少しだけ強くなるのがわかる。あと僅かでも力を入れれば首が飛ぶぞでも言いたげだ。それは風間も同じなのか、死人のような顔で俺のほうを見ていた。だから、あんたはスレイヤーなんだからそんなに懇願するように見ないでくれ……。

「佐嶋ぁ、私の質問に答えれば、その回答次第では殺さないかもしれない。しかし、答えなければ確実に殺すことになる。さあ、それがわかったならとっとと答えろおおぉ……」

「…………」

 畜生……どうすりゃいいんだ。俺が超レアスキルの【クエスト簡略化】を持っているなんて言えば、芽を摘む意味合いで殺されるのは目に見えているものの、このまま答えなくても確実に殺されることになる。

 それでも、どっちみち殺されるのなら、答えないほうがやつの思うつぼにならないだけマシに思えるが……。

 しかも今は戦闘中で余裕なんてほとんどない状況。俺はこんな無茶すぎる試練をどう乗り越えればいいっていうんだ……って、待てよ?

 板挟みの状況で苦悩する中、俺の脳裏でがあった。そうだ、このやり方を試してみるか……。
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