76 / 91
第76回 歪
しおりを挟む「――さぁ、どうする? あと10秒ほどしかないぞ……」
「「「「「とっととボスに従えっ!」」」」」
「くっ……」
「チッ……」
俺たちは館野とかいう中年のスレイヤーを前にして、蛇に睨まれた蛙状態になっていた。
悔しいがやつの言う通りで、もう残りあと数秒しか猶予がない。【クエスト簡略化】スキルが通用しない分、羽田や杜崎教授のような異名持ちやボスよりも厄介といえる。
一体どうすりゃいいんだ……。このままじゃ二本の矢を放たれて俺たちは終わりだ。
一か八か、矢が外れることを期待して先制攻撃を試みるか? それとも、手を上げて武器を手放すことで、ここは一旦やつらと合流してから離れる機会を待つか?
どちらの選択肢もそれなりにリスクがあるが、もう考えている時間はほとんどないし、たった数秒じゃデスサイズの即死効果にも期待できない。早くどちらにするか決めなければ……。
「…………」
よし、腹は決まった。前者のやり方でいこう。急所さえ外れればチャンスがある。おそらく、藤賀も俺をチキン扱いしてきたし同じ考えのはずだ。こいつは慎重な面もあるものの、俺が考えているよりガッツがある。
「3,2,1――」
「――面白そうなことをやっているなぁ……」
「「「「「っ!?」」」」」
突如、周囲に響き渡った耳障りな声によって、俺たちは全ての計画を中断せざるを得なくなった。それもそのはずだろう。
その声の持ち主というのが、あのスーツ姿の忌まわしい虐殺者だったからだ……。
やつは宙に浮いた状態で、後ろに黒坂優菜を従えてこちらへやってきた。
そういえば学校ダンジョンでもそうだったが、例の虐殺者クエストが表示されないのはもう攻略したからなんだろう。それゆえ、相手に俺たちを殺す気があるかどうかすら読めないという、なんとも不気味な空気が蔓延していた。
今までのことを考えたら俺なんてすぐ殺されてもおかしくないが、なんせ相手は芸術家肌の死体クリエイター。常識が通用するような相手じゃない。
「久し振りだなあ、ネクロフィリアの佐嶋ぁ……」
「あぁ、羽田、久し振りだな、元気にしてたか?」
「見ればわかるだろう、阿呆……」
「阿呆だって? 俺に騙されてボスに笑われたバカに言われたくないな」
「フンッ、相変わらず口の減らない男だ……」
すっかり火傷も治っていて耳も聞こえるようだし、どうやらレベルを上げて全回復してしまった様子。
それにしても、普通に会話している俺たちがいかにその場から浮いているかは、周りを見れば一目瞭然だった。弓を構えている館野の表情は一層険しくなり、その取り巻きたちの顔が一様に死体の如く青ざめていたからだ。
「黒坂ぁ、お前も佐嶋に挨拶してやれ。久々の再会だろう」
「あ、お、おう、佐嶋、元気にしてたかよ?」
「ん、ああ、お前も元気にしてたか? 裏切り者の黒坂」
「裏切り者って、まーだそんなこと言ってんのかよ、みみっちいぜ……って、野球帽もいるじゃん。元気だったか?」
「チッ……こいつ、裏切って佐嶋を植物状態にした上に俺を拷問しておいて、よくそんなことが言えるなぁっ……!」
「お、おいやめろ、野球帽!」
俺は寸前のところで野球帽を制止してみせたが、危うく黒坂に殴りかかるところだった。
「フンッ、つまらん争いはそこまでにしておけぇ。そこの、弓を構えた男にも言っていることだぁ」
「……は、羽田京志郎、これは俺たちの争いであって、あなたは関係ないのでは……」
「何ぃ……?」
後ろにいる連中が声も出せずに置物化している中、館野がああして堂々と自分の考えを主張しているのを見ればわかるが、相当な胆力を持っていることが窺える。
「お前の名前はなんだ」
「……あ、これは失敬。俺は館野良治っていう名前でね。できたら、この二人と決着をつけさせてほしいなあって……」
「館野か。よく聞け。もし今矢を放てば、その時点でお前とその仲間たちの内臓を全て抉り出し、剥製に変えてやる……」
「…………」
「「「「「ひっ……」」」」」
館野は口元を僅かに引き攣らせるだけだったが、その仲間たちの中には、具合が悪くなった様子で座り込んだりガクガクと震えたりする者が続出した。それだけ目も眩むような物凄い殺気を羽田が放っているから仕方ない。
「佐嶋を死体に変える権利があるのは、この私だけだぁ。それに相応しい時と場所は私が決める……」
「……ハハッ。こりゃ、引くしかないみたいだねぇ」
館野は苦笑いを浮かべながら弓を下ろしたが、耳まで赤くなっていた。どうやら結構な負けず嫌いらしい。
「さあ、佐嶋ぁ、病院ダンジョンのボスがどこにいるのか、私よりも勘の鋭いお前ならわかるだろうから、早速案内してもらうぞぉ……」
「…………」
羽田の台詞によって、全員の視線が自分に集まってくるのがわかる。なるほど、さすがは勘のいい虐殺者。学校ダンジョンの屋上でやってきたような例の質問もしてこないし、もう俺の持っているスキルについて察しがついているってわけか……。
12
あなたにおすすめの小説
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる