貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す

名無し

文字の大きさ
16 / 20

十六話 呼び水

しおりを挟む
 あれから、目が回るほどのスピードで20日が過ぎた。

 今日になって、いよいよマウス島への定期船が寄港するということで、俺を含めたベルシュタイン家は数時間かけて馬車で隣町ルーアンにある港までやって来ていた。

 船は既に港に停泊しており、夕方頃に出発するということだった。

「…………」

 この辺は特に風が強い影響もあってか、とてもひんやりとした、それでいて沁みるような空気を感じる。

 それだけじゃなく、ここを離れることの不安や寂しさも感じる一方で、これからの期待感で胸が高まり、体が内側からじんわりと熱くなってくるのも事実だ。

 俺がこれから七日ほどかけて船で向かう予定の、マウス島に一つだけ存在するという学校には、自分のようなユニークスキル持ちが集まるみたいで、そこでは一体どんな学校生活になるのか想像もつかない。

 ユニークスキルを開花させることで有名な教師がいるっていうなら、無限の可能性に満ち溢れた【迷宮】スキルの飛躍や、謎の解明にも期待が持てそうだ。

 正直なところ、今までの生活環境や人間関係(イレイドを除く)には凄く馴染んでいたし、愛着もあるので後ろ髪を引かれる思いだが、絶対に今日発たないといけない理由があった。

 マウス島への航路は半年に一回しかないってことで、およそ一年の修行のあとにアリエス学園へ行くことを考えたら、これが最後のチャンスだから思い切って乗り込むしかないんだ。

 もうすぐ離れ離れになってしまうっていうのもあり、俺は父さんたちとしばしの間別れを惜しむことに。

「ルーフよ……向こうでの暮らしは大変かもしれないが、元気でやるんだぞ。私たちがお前のことを考えない日は、一日たりともないのだからな……」

「うん、ありがとう。元気でやるよ、父さん……」

「ルーフ、達者でね……。たまには弱音を吐いてもいいけど、折れてしまわないようにね」

「うん、母さん……。最後の最後まで折れないようにするよ」

「ルーフお兄様、どうか行かないでほしいです。寂しいです……」

「エリス……」

 涙ぐんだエリスの言葉に、俺は思わず貰い泣きしそうだった。彼女は賢くて滅多に弱い面を見せないだけに、こんなにも弱々しい姿を見るのは初めてだ。

「ルーフ兄さん、僕も行っていい⁉」

「……ダメだ、アレン。これからはお前が父さんが留守の間、母さんやエリスを守るんだ」

 俺は泣きじゃくるアレンを抱きしめながら言葉をかける。エリスもそうだが、アレンもまだまだ子供だな。

「アデリータさんもお元気で」

「……あ、は、はい。ルーフ様、どうかご無事で……!」

 アデリータさんは後ろのほうでハンカチで目元を拭っていて、俺が挨拶すると慌てた様子で返してきた。

 ――あ……マストに赤い旗が上がってるし、およそ、あと1時間もしたらここから出発するんだと思うと感慨深い。

「…………」

 俺は無意識のうちにハンカチを握りしめていた。どうやらリリアンは来ないみたいだな。できれば直接これをあいつに渡したかったが……。

 実は、七日間の失神状態から立ち直ったあと、俺はリリアンに手紙を出したんだ。マウス島へ行く理由と日時を伝えた上で、それまでにハンカチを返したいという内容だ。

 そしたら三日ほどで手紙が返ってきて、『調子に乗らないで。あなたなんか大嫌い』という内容で、あいつが家に来ることはとうとうなかった。一体何が気に入らなかったのやら。

「もう来ないみたいだな……」

 駆け込みで乗船する人たちを見ればわかるが、出航までいよいよ時間がなくなってきた。

 こうなったら仕方ない。アデリータさんに頼んでリリアンに返してもらおうか――

「――ん……?」

 そのときだった。どこからともなく馬車の音が聞こえてきたんだ。

 これは……間違いない。リリアンのものだ。俺は目を瞑って【異次元の洞窟】で修行したことで耳を鍛えたから馬車の種類まで手に取るようにわかるんだ。

 馬車が停止してからリリアンはすぐ降りてきたかと思うと、ずかずかとこっちへ歩いてくるのがわかった。

 表情は変わらないが、あの足取りだけでもう機嫌が凄く悪いっていうのがわかってしまって、俺は思わず苦笑してしまった。でもよかった。これでようやくあいつにハンカチを返すことができる。

「よかった。リリアン、来てくれたんだな。もう会えないとばかり思ってたよ。本当に、久しぶり――」

「――久しぶり……じゃありませんわ!」

「え……?」

「伯爵令嬢であるわたくしに対して一方的にこんなところへ呼び出すなんて、いくらなんでも失礼ではありませんこと? いくら幼馴染とはいえ、身分が違うのですから礼は尽くすものですわよ?」

「なんだ、まだ怒ってるのか、リリアン。悪かったとは思ってるよ。なんせ急だったから、こんな別れ方になってしまって……」

「言い訳はもう結構ですわ! 大した用事もないということでしょうか? それなら、わたくしはすぐにでも帰らせてもらいますわよ……⁉」

「おいおい……」

 リリアンの物凄い剣幕に、俺の家族も引き気味かと思いきや、父さんと母さんが引き攣ったような笑みを見せる一方で、エリスとアレンはむっとした顔で彼女を睨みつけてる。

「まあ確かに大した用事ってほどじゃないかもしれないけど、リリアンに返しておきたいものがあるんだ」

「返しておきたいもの……?」

「ほら、これのことだよ」

 俺がリリアンに例のハンカチを返そうとすると、寸前で振り払われてしまった。

「おいおい、なんだよ。そりゃないだろ」

 予想はしてたが、地面に落ちそうになったので慌てて拾う恰好になる。ここは風も強いんだし海のほうに飛ばされたらどうするんだか。

「それはわたくしがあなたに渡したもので間違いありませんけれど、もうそんなものは必要ありませんわ。ですので、あなたが持っていらしてください」

「いや、そういうわけにもいかない。こんな高級なものを……」

「あなたもいらないというのですね。だったらお売りにでもなってください。それか、捨ててしまうか。ルーフ、あなたとは今日でお別れです。さようなら」

「……なんだよ、つれないなあ。今日でもう、しばらく会えなくなるのに」

「ルーフ、があったからといって、どうか勘違いなさらないでください。わたくしは、あなたがいなくなってむしろせいせいしておりますわ!」

「……おいおい、そこまでいうか……」

「これでも、言い足りないくらいですことよ……⁉」

「…………」

 リリアンに思いっきり顔を逸らされてしまった。あーあ、振られてしまったんだろうか?

 まあ、本心はわからないものの、これくらい強気でいてくれるほうが彼女らしいし、別れ際に悲しまなくてもいいのかもしれない。

 っと、いよいよだな。船員が太鼓の音で出航の合図を出してきたこともあり、あと数分ほどで船が離岸しそうだ。

 俺はタラップを駆け上がって乗り込んだ。リリアンは実に素っ気ないもんだったが、こうして最後に挨拶できただけでもよかった。

 動き出した船の中から俺が手を振ると、みんなも笑顔で手を振り返してくれた。背けた顔を両手で押さえたリリアン一人を除いて。

 なんだよ、あいつ、悲しみを堪えてただけなのか。あんな姿を見たらこっちまで込み上げてきそうになるだろ。本当に素直じゃないやつ……。

 っていうか、あいつがこんなにも落胆するなんて思いもしなかった。なんか凄く悪いことをしちゃったような気分だ。でも、もしかしたら別れを惜しむことで俺の決意が揺らがないようにと、終始ああいう強気な態度を取っていたのかもしれない。

「リリアン……」

 あいつの名前を口にした途端、俺は胸の奥が疼くように痛くなった。

 灯台下暗しっていうか、人間っていうのは失って初めて大切なものに気づくんだと、またしても痛感させられた格好だった。

――『【迷宮スキル・異次元の森】を発見しました』

「なっ……⁉」

 突如、そんなメッセージが頭の中で流れてきて、俺は一気に目が覚める思いだった。こんなタイミングで発見するのか……。

 ということは、リリアンの涙が呼び水になって、【異次元の洞窟】内のあの青白い光の先にあるものが見つかったのかもしれない。

「…………」

 そういえば、以前手を滑らせてハンカチを落としたことがあったのは、この別離と発見を暗示していた可能性もあるんだな。

 この先、どんな試練が待ち受けているのかわからないが、俺は最後まで折れずに頑張ろうと思う。前世での過ちを二度と繰り返さないためにも……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...