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十八話 素性

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 あれから、俺は兄弟の部屋で自分の素性を打ち明けることになった。

「ええぇっ? あ、あなたって、貴族なの⁉」

「ああ。俺はベルシュタイン男爵令息で、ルーフ=ベルシュタインっていうんだ」

「ルーフは貴族様だったのかあ……。道理で風格があるわけだね。僕、君を見た瞬間に足が震えちゃったし」

「はぁぁ~、貴族だなんて憧れちゃう。ねえねえ、ルーフ。彼女とかいる? もしいないなら……私なんてどう⁉ あっは~ん」

「…………」

 なんか色っぽい感じのポーズ取ってる、このエミルっていう子。年齢的には俺の妹のエリスと変わらないくらいなのに面白いな。

「エミル、お前なあ、いくらなんでも馴れ馴れしいし、それじゃ尻軽すぎだろー?」

「もー、お兄ちゃんは黙ってて! これはね、庶民として産まれてしまった不幸な乙女にとっては、願ってもないチャンスなんだからっ……! あ、私はエミル=ギフっていうの! ほら、お兄ちゃんもちゃっちゃと自己紹介して!」

「あ、そ、そうだった! ぼ、僕はビリー=ギフっていうんだ。よろしく……!」

「ああ、よろしく。エミル、ビリー」

 とても愉快な姉妹だし、仲良くなれそうな気がする。この船に同乗してるってことは彼らもマウス島へ向かうわけで、その間だけでも話し相手ができるのは本当に助かる。

「ねえねえ、ダーリン?」

「こらエミル、いきなりダーリン呼ばわりは失礼だろ!」

「だから、お兄ちゃんは黙ってて! このー!」

「ひっ、こ、こそばゆいからやめろって! ヒャ、ヒャハッ……!」

「…………」

 エミルにくすぐられて悶絶する兄。なるほど、普段はこうして黙らせてるのか。

「ねえねえ、ルーフってぇ、マウス島のどこへ行くつもり? 貴族なら観光とかあ?」

「いや、俺はマウス島の学校へ行くつもりだよ。そこから招待されたんだ」

「「えっ⁉」」

「…………」

 なんだ、ギフ兄妹の様子がおかしい。

「ルーフ。それってさ、もしかして、マウス島のリトアス学園のこと?」

 リトアス学園? ビリーからそういわれたあと、俺はハッとなって招待状を確認することに。すると、そこには同じ学園名が書かれていた。

「ああ、今確認したらリトアス学園だったよ。じゃあ、ビリーもエミルもそこへ?」

「うんっ! まさか、同じところに行くなんて思わなかったぁー。これも運命だね。んちゅっ」

「子供が投げキッスなんかするな! エミルはすぐ調子に乗るんだからなー。あ、そうだ。お互いのスキルについて自己紹介してなかったね。えっと、僕のスキルは、言うのも恥ずかしいくらい微妙なんだけど……」

「お兄ちゃんったら、しょうもないスキルなんだからけちけちしないの! 私のスキルはねえ、【蛙化】っていうの。どう?」

「あ……」

 気付いたら目の前に大きなカエルがいて、俺を見下ろしていた。

「お、おいおい、エミル、船の中で変身するなってあれほど言っただろ⁉」

「ゲコゲコッ!」

 兄のビリーに向かって長い舌を出すエミル。ビリーが顔を真っ赤にして捕まえようとするが、ピョンピョンと身軽に飛び跳ねて逃げ回り中々捕まらない。

「こうなりゃ、来いっ!」

「ゲコォッ⁉」

 なんか落ちてきたと思ったらヤカンで、エミルの頭頂部に命中して彼女の変身が解けてしまった。

「……いったぁーい! んもう、お兄ちゃん、妹をなんだと思ってるのぉー⁉」

「お前が調子に乗るからだよ! この人の肝が据わってなかったら、今頃気絶してるかもしれないんだぞ⁉」

「…………」

 まあビリーの言うことも一理ある。カエルって人間並みに大きいとこれほど迫力があるんだな。あれだけ船内が騒動になったのもわかる気がする……。

「っと、そうそう。僕のスキルは【ドロップ】っていって、何かを落とす効果なんだ。鍋やヤカンが落ちてくるときもあれば、飴や果物が落ちることもあるよ」

「へえ。それって結構便利なスキルなんじゃ?」

「それが、そうでもないんだよ。落ちる場所は指定できるけど、何が落ちてくるか自分じゃ決められないこともあるし、何も落ちないことのほうが多いから結構疲れるんだ」

「なるほど……」

【無明剣】ほどじゃなくても、消耗がきつくてスキルを繰り返し使えないのはよくわかる。

「しかもね、お兄ちゃんったら、【ドロップ】スキルでお菓子が落ちてきたときね、独り占めして絶対に譲らないの。私をお仕置きしようとして出したんだから私のものなのに。最低っ!」

「あのなー、エミル。それは元々お前が悪いんだから僕のものだろ、エミル⁉」

「この欲張りっ、バーカバーカ!」

「こ、こいつうぅー!」

「…………」

 またしてもギフ兄妹の喧嘩が始まり、俺の周りをグルグルと周り始めた。

「あの、俺のスキルについてなんだけど――」

 あれ、俺がそう口にした途端、ピタッと二人とも止まってしまった。阿吽の呼吸というか、そこはさすが兄妹といったところか。

「【迷宮】スキルっていうんだ」

「え、何それ……⁉ もしかして、ダンジョンとか出てくるのっ?」

「わおっ! もしそうなら凄いスキルだ!」

 ギフ兄妹が目を輝かせて食いついてくる。

「あ、あぁ、その通りだよ。入ってみる?」

「うんっ! 入りたい! ね、お兄ちゃんも行くでしょ?」

「う、う、うん! 怖いけど、行ってみたいかなあ?」

「この怖がり! 私たちの後ろに隠れてれば⁉」

「こ、こいつ! 船に乗る前夜、おねしょしてた癖に!」

「あ! それ言っちゃう⁉ そっちだって、しょっちゅう拾い食いしてるくせに!」

「そ、それは、僕がスキルで落としたものだから、勿体ないだろ!」

「卑しい豚!」

「こ、こいつううぅー!」

「……【迷宮】スキル、使おうか?」

「「あ、うん!」」

 二人の喧嘩を止めるためだったが、これは自分のためでもあった。トラウマを打破して【迷宮】スキルを使うきっかけが欲しかったんだ。





「こ、こわーい。死んじゃう。怖すぎて、死んじゃうよぉ……」

「…………」

【異次元の洞窟】に入ってからというもの、エミルが大げさに思えるくらい怖がって、俺の体にくっついて離れない。

「エミル、お前なー、ルーフが迷惑がってるんだからやめろって。本当は怖くないくせに」

「ぐすっ……酷い! 本当に怖いもん。チビりそう……」

「どうだか。大体、自分が蛙のモンスターみたいなもんだから怖くないだろ!」

「お兄ちゃん、うるせー! じゃなくて、うるさい! お兄ちゃんこそ男のくせに縮こまってるじゃない!」

「な、なんだとー⁉」

「やーい、怖がりー。こんなとこ、暗いだけで怖くもなんともないのに……あ……」

「ほらな!」

「むうぅっ!」

「…………」

 まあ確かに、今のところ薄暗いだけのただの洞窟にしか見えないだろうし、そう思われるのは仕方ない。

「――カタカタカカタッ……」

「「ひっ⁉」」

 お、本物のモンスターが姿を現した。

「「ひゃあ……」」

 それから俺がスケルトンと戦って倒すまでの間、エミルとビリーの二人は少し離れたところから青い顔で黙り込んでいた。

「つよーい……。ルーフって、やっぱり私のお婿さんにぴったりね!」

「ルーフって、まるで剣術スキルを持ってるみたいだね。僕とエミルは武器なんて使えなくてユニークスキル一点張りなのに……」

「いやいや、これだってユニークスキルの一種なんだよ。【迷宮】スキルのおかげでダンジョンに入れて修行した結果だから」

「「な、なるほど……」」

 さすが、兄妹なだけあって息も台詞もぴったりだ。

 俺の台詞が勇気を与えることになったのか、それからはエミルがカエルに変身して蝙蝠を手で払い落としたり、ビリーが【ドロップ】スキルでスケルトンの頭に鍋を落としたりして対抗するようになった。

 ビリーはこのスキルについて無作為だから使えないっていってたが、大体落ちてるのは硬いものばかりだし意思の力も関係してるように思う。慣れてきたら自分が思うようなものが高確率で落ちてくるようになるかもしれない。いい感じだ。

 やがて、俺たちは遂にあのの前までやってきた。

「ゲコゲコッ……?」

「な、なんだろう、この光……って、エミル、カエルのままだから何言ってるかわかんないって」

「ゲコッ……あ、そうだった! ねえねえ、ルーフ、この先って何があるのぉー?」

「【異次元の森】だよ」

「「も、森……?」」

「ああ。俺もまだ行ったことはないんだけどな。みんなで行ってみようか?」

「「……」」

 ギフ兄妹は顔を見合わせてしばらく悩んでいた様子だったが、まもなく決心がついた様子でうなずいた。俺と一緒にモンスターと戦ってきて自信がついたっていうのが大きいんだろう。
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