固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し

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第二一階 不遇ソーサラー、家に帰る

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「うっ……」

 それまで中々途切れなかった意識が朦朧としてくる。ようやく死ねそうだ。格好良く死んだつもりが、俺の所有している固有スキルの一つ【鉄壁】のせいで死ぬのに時間がかかってしまったんだ。

 最後は口の中に杖を突っ込んで苦しんで死ぬ羽目になった。強くなると自殺するのも難しくなるんだな。これについてはいずれ何か対処法を考えたほうがいいかもしれない。ならず者の中には精神がおかしくなるまでリザキルするやつもいるだろうからな。俺もそうだが。

 ダンジョンから出て、いつもの女子トイレの鏡で自分の姿を見てみる。腰元のクロスベルトが目立つくらいで地味な服装をした、癖のある緑色の髪の温和そうな青年っていったところか。肌が青白くて病的だが、顔のパーツはバランスよく整っててイケメンの部類だった。どんなジョブなのか気になるな。マジックフォンはどこだろう? ……これか。コートの内ポケットにあった。

名前:マイザー
年齢:24
性別:男
ジョブ:アルケミスト
レベル:50

LEP546/546
MEP781/781

ATK34
DEF539
MATK162
MDEF132
キャパシティ10

固有スキル

【転生】【先行入力】【効果2倍】
【レア運上昇】【先制攻撃】【必中】
【鉄壁】【呼び戻し】

パッシブスキル

薬物精通9
毒耐性5

アクティブスキル

サモンホムンクルス9
ファーマシー8
クリエイトポイズン6
バイオシード7

 なるほど、アルケミストだったか。そういわれてみればそんな雰囲気のある男だった。しかし妙に親近感を感じるのは気のせいだろうか? 男に興味があるわけでもないのに不思議なもんだ。誰かに似てるとかかな?【呼び戻し】という新たに追加された固有スキルが若干気になったが、もうダンジョンに行くつもりのない俺には関係のないことなので調べる気までは起きなかった。

 ただ、それでもジョブだけはソーサラーに変更しておいた。冒険者を引退してもこの職は俺にとって最早アイデンティティのようなものだからだ。

「――あっ……」

 気が付けばふと、周囲を見渡している自分に俺ははっとなる。そうか……無意識のうちにエリナを探していたのか、俺は。でも、既に決めたんだ。あいつには二度と会わないってな。邪悪な宗教団体『九尾の狐』は叩き潰せたんだし、やることなんてもう……。

「……」

 そういや、エリナには復讐するべき相手がいるんだっけか。正直なところそれが心残りだが、仕方ない。すぐ終わるならいいが何も手がかりがない状況だし。俺より頼りになるやつがいれば、そいつと一緒に仇討ちをすればいいんだ。

 許してくれ、エリナ。俺のように人間不信じゃないお前ならきっとそれができるだろう。そのほうがより幸せになれるはず。お前が幸せになってくれるならそれが一番嬉しい。卑怯者の俺を許してくれとは言わない。俺は自分にそう言い聞かせるとトイレを出た。やることなんてないし、とりあえず帰るか……。



 ◆◆◆



 見えてきた、見えてきた。俺がかつて住んでいたボロアパートが……。

 所々激しく色褪せたレンガの壁、今にも底が崩れそうなアイアン飾りのバルコニー、割れた窓や枯れた鉢植え、ヤカンが放置してある部屋、なんのためにあるのか屋根から吊り下げられた老魔女の人形……どれもこれもが懐かしく思える。

 いつもここの二階の部屋から徒歩でパン屋のバイトへと出向いてたんだ。いい歳してダンジョンに行かない臆病なおじさんって、近所の悪ガキどもによく冷やかされたっけ。あいつら今頃どうしてるかなあ。

「おっ……」

 思わず声が出た。エントランスから誰か出てきたと思ったら大家の婆さんだった。目が悪くて普段は温厚な人なんだが、癇癪持ちで急に怒り出すから住民には恐れられてたんだ。だからなせいか一瞬体が硬直してしまったが、思えばオリジナルの俺はもうこの世にいないし、わかるはずないんだよなあ。

「おや、そこにいるのは……」

 ん? 箒でアパートの前を掃除し始めたと思ったら、俺のほうに気付いたのかよたよたと歩み寄ってきた。まさかな……。

「クアゼルじゃないかい?」
「えっ……」

 う、嘘だろ。なんでわかったんだ……。

「い、いや、俺は……」
「やっぱりそうだ。クアゼルだ」
「な、なんでクアゼルってわかるんですかね……」
「フフッ。雰囲気がさ、あいつみたいだったんだよ。それに、そのいかにも人付き合いが苦手そうなどんくさい喋り方、声色を変えてもわかるんだよ、うちには」

 ニヤリと笑う大家の婆さん。というか声色だけじゃなく姿も変わってるんだが……この分だと視力は相当悪化しちゃってるみたいだな。

「参ったな。。もう俺の奥さんになってもらってもいいかな」
「冗談きついよ。あんたみたいなとろくさい男、うちの孫ぐらいにしか見えないよ」
「ははっ……」

 本当に実家に帰ったような安心感に包まれる。思えば、当時は今よりずっと気弱だった俺もこの大家と接するうちに肝っ玉が鍛えられてダンジョンへ行けるようになった気がするし恩人みたいなもんか。

「で、クアゼル。ここには何しに舞い戻ってきたんだい?」
「あ、えっと、ちょっと骨休みに……」
「そうか。なんか事情がありそうだけどね。まあどうせ女関連だろうけどさ!」
「う……」

 いちいち鋭い婆さんだ。

「ま、そういうことならしばらくここでゆっくりしていきな。一カ月程度ならタダにしといてやるから」
「えっ……本当に?」
「ああ、クアゼルはうちの常連さんだったからねえ。その代わり、肩叩きだの掃除だのたんまりしてもらうよ!」
「あ、あはは……」

 こりゃ普通にこき使われそうだ。タダより高いものはないってよくいったもんだな……。
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