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40話 化け物
しおりを挟む「――こ、これは……」
「な、なんだい、これっ!?」
「ひっ……!」
俺たちは倒れた人物の元へ駆け寄り、頭から被っている大きなマントを剥ぎ取ったわけだが、驚くべきものを目にすることになった。
そこには頭から爪先まで包帯グルグル巻きで、息も絶え絶えになった者がいたのだ。な、なんだこりゃ。一瞬モンスターかと思ったが、襲ってくる気配は微塵もない。ってことは、全身に火傷でも負ったんだろうか……?
「お、おい、話せるか? 一体何があった?」
「な、何があったのさ?」
「ど、どうしたのです!?」
「う、うごごっ……」
「「「……」」」
俺に加えて、リリとメアも黙り込んだ。喋ることもできないくらい酷い状態らしい……。とにかくこの包帯を取って、状態を見てみる必要が――
「――待ってくだされええぇっ!」
「「「っ!?」」」
必死の形相をした、白髪頭の男が駆け込んできた。ん、彼はどこかで見たことがあるような……。
「「あっ……」」
俺はリリと、はっとした顔を見合わせる。そうだ、【視力矯正】スキルで目が悪いのを治したおじさんだった。
「どなたでしょう? フォード様とリリ様のお知り合いなのでしょうか?」
「ああ、メア。この人はな、都でなんでも解決屋をやってたときに治した客なんだ」
「あたしも覚えてるよ。最初に来てくれた客だから印象深いのさっ」
「なるほどです……そんな方が、何故ここへいらしたのでしょう?」
「……はぁ、はぁ……この者の包帯は、絶対に取ってはならんものですぞ……!」
「ど、どういうことなんだ……?」
「実は、わしには【観察眼】という、異常を患ってる者とその原因が一目でわかるスキルがありましてな……若い頃はそれで商売をやっておりまして、目が悪くなったことでとっくに引退しておったんですが、フォードさんのなんでも解決屋で改善され、生まれ故郷であるこのスラム街で商売をしておったという具合でして……」
「なるほど……」
「そこでわかったことがあり、この者が【木乃伊】というスキルを受けた状態であり、その効果は、包帯を取った者がミイラとなり、同じように全身包帯グルグル巻きになってしまうというもので……」
「な、なんだって……?」
「さらに言葉が話せなくなり、意識も朦朧として徐々に衰弱していき、七日間放置すると本物のミイラとなり、人間を襲うようになるのですぞ……」
「「「……」」」
おじさんの言葉に対し、俺たちは神妙な顔を見合わせる。
「それで、元に戻すには一体どうしたらいいんだ?」
「元の体に戻すための方法については、一つだけわかっていることがあるものの、お勧めはできかねますがな。誰かが包帯を取ることで、その姿を見れば元に戻りますが、今度は見た者がミイラに……」
「なるほど……」
このおじさんが俺を止めにきてくれた理由がよくわかった。視力を治した恩人がミイラになってしまうのはあまりにも気の毒で、見過ごすわけにはいかないと思ったんだろう。
「よくわかった。ありがとう」
「いやいや、お礼を言わなければならないのはわしのほうですぞ。たった銅貨20枚で視力を治してもらったのですからな。では、この者を一刻も早く外へここから運び出さなくては――」
「――いや、俺に任せてくれ」
「え、えぇっ? 最早、モンスター化するのが近い状況ですゆえ、危険かと思われるのですがな。早く外へ行き、周りを巻き込まぬようにして討伐せねば……」
「いや、それで倒したところで、この客を救うことにはならない。俺がミイラ取りになる」
「え、えぇ……!? い、いけませんぞ!」
「そ、そうだよ、フォード! あたしがなるよ!」
「わ、私にお任せくださいっ!」
「いや……大丈夫だ。俺には今までの経験があるし、ちゃんとした考えもある。ミイラになったからって思考が完全におかしくなるわけじゃないしな。それに七日も猶予があるんだ」
もちろん、七日と言ったのはみんなを安心させるための方便で、そこまで時間をかけるつもりはまったくない。とにかく、まずはこの客を助けなくては。
そういうわけで、俺は周囲の反対を押し切り、とある準備を整えたあとで客の包帯を徐々に外していった。
◆◆◆
「な、なんだありゃっ!? バケモンか!?」
「ミイラみたいー!」
「まあぁっ、なんておぞましいんですの……!」
「……」
混乱の最中、教会へと限りなく近づいたアッシュたち。包帯グルグルの客を遠目にして一様に顔をしかめる中、ハロウドだけは違った。
「やはり……やはりそうでしたか……フフッ、フハハハハッ!」
「「「ハロウド軍師……?」」」
「おっと、失礼……。わかったのですよ。あれは【木乃伊】というスキルです」
「「「ミイラ……?」」」
「ええ……。そんなマイナーなスキルについて知ることができたのも、兵士たちに捕まったことで猛省し、僕がスキルの種類について念入りに調べたからでもありますがね……」
ハロウドが自嘲気味に口元を歪めながら話を続ける。
「かつては、古代の王が忌み嫌っていた者たちにあのスキルを掛けたことが始まりだと言われていましてねえ。その包帯は自分では決して取ることができず、誰かが取って姿を見ることで元に戻りますが、見た者がミイラと化し、その状態が七日間放置されることで完全なモンスターと化してしまうというものです……」
「「「なるほど……」」」
「おそらく、あの者は状態的にも本物のミイラ化が近いということで、フォードさんが身代わりになろうということでしょう」
「じゃ、じゃあ、あの微生物野郎がミイラになっちまうってことか!?」
「わおー! パルル、興奮してきちゃった……。フォードがミイラ化するなら最高の展開なのおっ!」
「ホホホッ……ミイラになるなんて、本当に惨めすぎる見世物ですこと。勘違い男のフォードに相応しい末路ですわね……」
「フッ……。格好つけて、自分が身代わりになろうということでしょう。七日間の猶予があるということもご存知のようです。だがしかし……」
「「「だがしかし……?」」」
「ミイラになることで、スキルを使う際に支障が出るはずなのです。というのも、ミイラになった者たちの中には冒険者も複数いて、彼らはいずれも倒される際にスキルを使ってこなかった、という噂があります。つまり、それが事実であるならばどうやっても治せないわけで、フォードさんはとんでもないミスを犯した、ということになるのですよ……」
「「「おおぉぉっ!」」」
ハロウドの熱の籠もった語り口に対し、アッシュたちの笑顔と声がこの上なく弾んだ。
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