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30.灯台下暗し
しおりを挟む「「「「「わははっ!」」」」」
いよいよ俺たちの冒険者ランクがAランクになり、今は祝勝会の真っただ中にあった。
これでランク的には元所属していた勇者パーティーに並んだことになるな。ただ、例の誘拐事件でマイザーたちの名誉はこっぴどく失墜したし、格的にはもう俺たちのほうが上っぽいが。
「リゼ、嬉しいからちょっと脱いでサービスしちゃうねっ」
「では、わたくしも……」
「あたしもなのぉー」
「あっしも負けてられねえっす!」
「ハッハッハ!」
みんな酔っ払ってるのかサービス精神旺盛だ。それにしてもあいつら今頃どうしてるかなあ。まあ今となっては立場が逆転したし、結果的には追放してくれてよかったわけだが。
「ひっく……そういや、ディルの旦那……」
「ん、どうした、ラルフ?」
「ディルの旦那ってなんで勇者パーティーにいたんで? 大悪党だってのに……おえっぷ……」
「う……」
ラルフのやつ、上半身裸の酔っ払いのくせに核心をつくようなことを言うな……。
「リゼも知りたーいっ!」
「わたくしもですわ……!」
「あたしもあたしもー!」
「……」
みんな酔っ払ってるし黙ってればごまかせるんじゃないかと思ったが、リゼ、ルリア、レニーに詰め寄られて逃げ場がなくなってしまった。うーん、どうしよう……。
悪党が勇者パーティーに入る理由って、あれしかないよな、スパイ的な――そうだ、その手があった。
「そ、それはあれだ、勇者を監視していたんだ」
「「「「監視……!?」」」」
「ああ、割りとよくあることだよ。本物の悪ってやつは、灯台下暗しで正義の味方のすぐ近くにいるものだ。ハッハッハ!」
「「「「ごくりっ……」」」」
ラルフたちの畏怖の眼差しが心地いい。まったくのハッタリではあるが罪悪感なんて欠片もないし、これでまた魔王へと一歩近づいたってわけかな……。
◆◆◆
「――うぅ、目が、目があぁ……」
「いったーい。目がチカチカする……」
「いってえ、畜生……。お、おい、一体何がどうなったってんだよ……?」
「むぐぐ、あまりにも不可解で衝撃的な光だった……」
そこは港町イルベルタの船着き場、それまで勇者たちは苦し気に目を覆いつつ打ち上げられた魚のようにのたうちまわっていたが、しばらくしてようやく目が開けられるようになった様子で立ち上がった。
「あれ、タコがいない……?」
「マイザー、残念だけどさっきのパーティーに倒されたみたい。もうやだ……」
「ふむ、まあ仕方ない――」
「――仕方ない、じゃねえよこのボケッ! エルグマン、てめえの召喚術は詠唱が長すぎんだよっ!」
「ん? それはタコだけでなく、周辺にいる者たちを殲滅させるほどの威力を持った召喚獣を呼ぶためだ。仕方あるまい」
「てめえ、もう許さねえ――」
「――バ、バイドン!」
「な、なんだよミーヤ、止めるな! 俺はこいつを殴らなきゃ気が収まらねえんだ!」
「うむ、我もこの生意気すぎる肉壁と決着をつけなくては……」
「二人とも、それどころじゃないの! マイザーが……マイザーが変なのよっ!」
「「えっ……?」」
バイドンとエルグマンがきょとんとした顔で勇者マイザーのほうを見やるも、彼はいつもとなんら変わりない調子だった。
「ん、僕が変だって? 何おかしなこと言ってるんだよ、ミーヤ」
「なんだよ、変わりねえじゃんか。ミーヤ……お前、どうせ俺たちの喧嘩を止めるために嘘ついたんだろうけどよ、驚かせるんじゃねーよ!」
「まったくだ、ミーヤよ……」
「本当に、本当なのよ! さっきあたしの……む、胸を触ってきたんだからっ!」
「バ、バカか、マイザーがそんなことするわけねえだろ。タコもいなくなって、こんなに人の目があるところでよ」
「うむ。ミーヤの気のせいではないのかね?」
「あ、うん。確かにさっきミーヤのおっぱいを触ったけど?」
「「え……?」」
マイザーがさも当然のように笑顔で言ってのけたため、その場に戦慄が走る。
「だって、そうじゃないか。おっぱいは触るものだよ。だから触ったんだ」
「ほら、やっぱりあたしの言った通りでしょ!」
「お、おい、マイザーしっかりしろよ!」
「し、しっかりするのだ、マイザーよ……」
「ん? しっかりしないといけないのはみんなのほうだよ。それじゃ、僕はそろそろほかのおっぱいを触りにいくからね」
「「「……」」」
ミーヤたちは呆然としたのち、我に返った様子でマイザーを追いかけたものの時すでに遅く、船に乗ろうとした女性の悲鳴がこだますのであった……。
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