3 / 61
第一章
清掃師、置き去りにされる
しおりを挟む「……あ……」
第一セーブポイントを発ってしばらく歩いたとき、俺は立ち止まった。どんどん視界が悪くなっていくだけじゃなく、身を切るような風の強さも感じたんだ。やはりこれはおかしい。特異な自然現象が起ころうとしているとしか思えなかった。
「みんな、やっぱりおかしい――」
「――うるせえんだよゴミアルファ! とっとと歩けっ!」
「ったく、本当にいちいち鬱陶しい男だねえ! このまま第二セーブポイントまで着かなかったらあんたのせいだから覚えておきな!」
「もうこいつ、駄々をこねるガキンチョとなんら変わらないよねっていう……」
「「「ププッ……」」」
「……」
みんな聞く耳すら持ってくれなかった。仕方ない。底辺ジョブの俺には発言権なんて一切ないんだ。もうあきらめよう。そう思って歩き始めたときだった。前方に何か光るものが見えた。
――ズザザッ。
「「「「えっ……?」」」」
その直後、俺たちのすぐ近くにあった木に何かが突き刺さったのがわかる。恐る恐る見ると、それは巨大な剣のような氷塊だった。
「な、なんだよこれ!?」
「い、一体何が起こったんだい……!?」
「ま、まずいような気がするんだ、僕は……!」
「みんな、よけて!」
「「「はっ……!?」」」
まもなく木が斧で切り倒されたかのように落下してきた。それは避けることができたものの、またしても氷塊がすぐ頭上を通過していったのでみんなと頭を抱えながら伏せる格好になる。
今の……滅茶苦茶危なかった。ちょっとずれていたらみんな死んでいたかもしれない。凄いスピードだったから避けるどころか驚く暇さえなかった……。
「これは……やっぱり例の特異な自然現象だ……」
「「「えっ……!?」」」
俺の予感は当たったわけだけど、それはすなわち最悪の状況になってしまったということを意味していた。『アバランシェ・ブレード』という山の名前が示すように、まさに氷の刃による雪崩のような現象が起こってるんだ。
「ど、どうするんだよ畜生っ!」
「あ、あ、あたいこんなところで死にたくないよっ!」
「ぼ、僕もだっ……!」
「……」
あれだけ威勢がよかったジェイクたちが涙目で慌ててる。俺も頭が真っ白になりそうだったけど、必死に堪えた。ここで自分が冷静にならなきゃそれこそ終わりなような気がして。
「……はぁ、はぁ……そ、そうだ、ロープだ、スパイダーロープだ……!」
「「「……っ!」」」
俺の言葉でみんなの目に希望の光が宿るのがわかる。
荷物から取り出したこの蜘蛛は魔道具の一種で、放つと宙で特殊な蜘蛛の巣を張って糸を垂らし、それをたどることで地上へと帰還できるんだ。それまで少し時間がかかるとはいえ、命綱のようなものだからかなり重要なアイテムといえるだろう。
「おい早くしろゴミアルファ!」
「早くしなっ!」
「ノロマすぎるって!」
「……」
今放ったところなのに……もうみんな強気に戻ってて腹が立つけど、今はそんなことを気にしてるような状況じゃない。魔道具の蜘蛛は俺が投げてすぐ宙で止まって巣を張り巡らせると、シュルシュルと糸を垂らしてすぐに地面まで届いた。よし、これをたどっていけば地上へ帰ることができる――
「――どきなっ!」
「うっ!?」
俺はレイラに後ろから体当たりされて地面を転がる。おいおい、ここまでやるのかよ……。
「ジェイク、クエス、お先に失礼するよっ!」
レイラがロープをたどり、地上に溶けるようにして消えていくのが見えた。俺も早く行かなきゃ。
「僕もっ!」
「ちょっ……レイラとクエスの馬鹿野郎! 俺を置いていくんじゃねえっ!」
「うぐっ……」
クエスとジェイクに立て続けに踏まれて、俺は腹部を押さえながら立ち上がろうとするができない。早く行かないとスパイダーロープが消えてしまうのに……。
「――っと、忘れてたな」
「……え?」
一度帰還したはずのジェイクがにんまりとした顔で戻ってくる。まさか、俺を助けてくれるのか……?
「オラッ!」
「がっ!」
ジェイクに強く顔を蹴られたかと思うと、背中の荷物を奪われていた。
「へへっ……これを置いていくところだったぜ。あばよ、ゴミアルファ! お前はこの荷物以下の価値しかなかったってことだっ!」
「……い、嫌だ……置いていかないでくれ……!」
ジェイクが笑い声を上げながら地上に降りていった直後、スパイダーロープが徐々に消えていくのがわかる。もうすぐ時間切れだ。早く、早く……。
「――え……?」
朦朧とする意識の中、手を伸ばすも糸は消えていて、その代わりのように前方に怪しく光るものが幾つも見えた。
「……あ、あ……」
自分の歯がガタガタと鳴り響く。い、嫌だ、まだ死にたくない。こんなところで死にたくない……。こうなったら早く逃げなきゃ……。
「うぐ……」
俺は這って進むのが精一杯だった。だ、ダメだ、このままじゃやられる――
「――っ!?」
振り返ると、幾つもの鋭利な氷塊がすぐ目前まで迫ってきているところだった。
「う……うわあああああああぁぁぁっ!」
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる