底辺ジョブ【清掃師】で人類史上最強~俺はドワーフ娘たちに鍛えてもらって超強力な掃除スキルを習得する~

名無し

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第一章

清掃師、訓練を始める

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 マリベルによると、俺のジョブ【清掃師】の無限の可能性を引き出すには訓練が必要ってことで、早速ほかのドワーフたちとともに小屋の外に連れ出された。部屋の中が散らかったら【収集】で片付けるだけでいいんじゃないかと思ったが、やはり現実は甘くなかった。

「アルファよ、ここでしばらく待つのじゃっ」
「あ、ああ」

 といっても山小屋のすぐ手前でやるらしい。四方が切り立った高い崖で囲まれていて、誰かが訪ねて来る心配もなさそうなところだった。むしろ、どうやってこんなところで生活できるのか不思議に思えるくらいだ。ん、ドワーフの子が一人見当たらないな。

「あれ、カミュって子は?」
「あやつは、これから訓練用のモンスターを連れて来る予定じゃ」
「なるほど……」
「お主にはそれにタイマンで打ち勝ってもらう必要がある。さあ、これが武器じゃっ」
「……」

 マリベルから手渡された武器はただの短剣だった。ドワーフが持ってた得物だし絶対に壊れないくらい丈夫な代物なんだろうけど、こんなんで実戦経験のない俺が本当に勝てるんだろうか……。

「……」

 ダメだ、足だけじゃなく体中が震えてくる。

「あ、あのさ……」
「ん、アルファよ、どうしたのじゃ?」

 俺は堪らずマリベルに話しかけた。

「マリベルの言う訓練って、そのハンマーで叩くだけじゃダメってことなのかな?」
「もちろんじゃ。叩くには器がある程度でも出来上がってないといかん」
「で、でも自然治癒能力は叩いたんじゃ……?」
「あれはじゃな、失敗する可能性もあったが……コホン、元々お主の体力はかなり鍛えられておったから成功したのじゃよ」
「あ……」

 そういや、俺は底辺ジョブってことでずっと荷物とか持たされてきたし、体力にはそこそこの自信があったんだ。

「今のまま能力を精錬することも可能じゃが……現時点では失敗する可能性のほうが高い。お主がそれでもいいなら……」
「失敗すると……?」
「当然、叩いた対象の能力そのものが消えてしまう。しかもユニークジョブは唯一無二のものじゃから、わしでも二度と元には戻せん」
「……」
「ハンマーには、鍛える力もあるが折る力もある。そのことをよく覚えておくことじゃ」
「わ、わかったよ、マリベル。やめとく……」
「うむっ、わかればよいのじゃ」
「マリベルは甘やかしすぎですわ。わたくしはまだこの下等生物を信用してはいませんの」
「……」

 ルカっていう金髪の子がバカにしたような目を向けてくるが、こういう塩対応には慣れてるんだ。俺は所詮、底辺ジョブの【清掃師】だしな……って、こういう姿勢がダメなんだ。少しは悔しがらないと。

「ユリムね、早くお昼ご飯食べたいのれふ。だからとっとと終わらせてくだしゃいね、人間しゃん?」

 ユリムって子が不機嫌そうに頬を膨らませてる。俺の戦い自体はどうでもよさそうだが、機嫌を直してもらう意味でもなんとか早く終わらせたいところだ。ん? マリベルが手招きしてきた。耳打ちするっぽい。

「アルファよ、ルカもユリムもああ言ってはいるが、内心ではお主に期待しておるのじゃ。普段は人間自体に関心すら示さない者たちじゃから、悪く思うでないぞっ」
「あ、ああ……」

 そりゃ、ドワーフに比べたら人間なんて虫けらみたいなもんだろうしな。こうして鍛えてもらえて、それを近くで見守ってもらうだけでも凄いことなんだ。こんなチャンスは二度とないはずだし大事にしないと……。

「――ただいま」
「おかえりなのじゃっ」
「おかえりですわ」
「おかえりれふ」
「おか……えっ……」

 カミュが戻ってきたわけなんだが、彼女がスノーウルフの首根っこを片手で掴んでるのを見て俺は絶句した。

『クゥーン……』

 なんてこった。あの登山者に恐れられている狼のモンスターが、まるで大人しい子犬であるかのように小さくなっている。スノーウルフは格上の相手でも怯まずに向かっていくほど獰猛だといわれてるのに、ドワーフの姿を見ただけでこうなっちゃうのか……。

「しかし、これまた随分元気のない子じゃのお」
「なんだか頼りない子犬ちゃんですわね?」
「ほにゃー。大人しい狼しゃん可愛いのれふー」
「我を見ただけでこうなった。仕方ない」
『……』

 あの狼、目が死んじゃってるな。異次元の力を持ったドワーフたちに囲まれたらさすがに生きた心地もしないだろう。

「うぬう。じゃがこれでは勝負にならん。ルカ、この狼を鍛えてくれんか?」
「ホホッ、言われなくてもやりますわよ。このままじゃ面白くもなんともありませんものねぇ?」
「……」

 ルカって子に鋭い笑みを向けられてゾクッとした。最早見世物小屋の闘犬にでもなった気分だ……って、一体狼の何を鍛えるんだ? 確か、彼女は……ハート?

「行きますわよー!」
『キャンッ!』

 狼の悲鳴がこだましてまもなくのことだった。その様子が明らかに変わっていた。

『グルル……』

 それまで大人しかったスノーウルフが、牙を剥き出しにして唸り始めたんだ。

「成功しましたわっ。わたくしのおかげで子犬ちゃんはですのよー。オホホッ!」
「……」

 ゆ、勇気百倍だって? 俺はそんな闘志全開の化け物とやり合わなきゃいけないっていうのか……。
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