12 / 61
第一章
清掃師、限界に挑む
しおりを挟む『グルルァ……』
スノーウルフが俺に向かって唸っている。実はこいつ、今日で三匹目なんだ。一匹目と二匹目はパワーとスピード、さらに防御力等を【一掃】した結果、あっさりやっつけてしまった。
ちなみに、倒すだけなら命を払えばいいんじゃないかと思われるかもしれないが、マリベルによるとあくまでも一時的なものなのでその間は気絶と同じ状態になるらしい。
あとは目の前にいるモンスターさえ倒せば訓練は終わりなわけだが、こいつはほかの狼とは明らかに違う。
「ア、アルファよ、充分に気を付けるのじゃ!」
「ホホホッ……本当に変わった下等生物ですわねえ」
「人間とはわからぬものだ。いくらなんでも無謀だろう……」
「あの化け物しゃんと人間しゃん、どっちが強いれふかねえ?」
ドワーフたちの会話を聞けばわかるように、この狼は普通じゃない。
マリベルによって自然治癒能力を鍛えられ、ルカによって勇気や遊び心を精錬され、カミュによってスピード、パワー、防御力を叩かれ、ユリムによってセンスまで磨かれた、まさにスーパーウルフと化していたのだ。
仮に命を払ったとしても一時的なものな上、高い自然治癒能力によって即座に目覚めてしまうはずだ。
じゃあマリベルたちが精錬したものを【一掃】すればいいというわけではなく、ドワーフたちによって鍛えられたものは彼らによってしか折ることができないというから、それらは対象から外すしかない。
というのもエルフ、ドワーフ、オーガといった人間より神に近い種族は神気という強力な結界のようなものを常に纏っており、普通のスキル自体ほぼ例外なく通用しないのだという。それでも俺の場合は神スキルというだけあって、訓練次第では神気すら払うこともできるようになるらしい。
俺もいずれはそんな領域に挑みたいってことで、あえて難しいことに挑戦しているというわけだ。人外でさえ未踏峰の迷宮山の登頂を目指すなら尚更その必要があるわけだしな。
『グルルッ……ルァッ――』
「――っ!?」
やつは吼えて飛び掛かってくる姿勢を見せたが、来なかった。
『……』
「がっ!?」
俺は気付けば血が噴き出る脇腹を押さえていた。フェイントを使ったかと思うと無言で襲い掛かってくるとは。これが遊び心ってやつか。しかもなんてスピードとパワーだ。ドワーフたちに鍛えられるとこうも違うのか……。
威嚇しながら接近してきて攻撃する素振りだけかと思いきや、普通にそのまま攻撃してくるときもあるし、逃げる素振りから一転して飛び掛かってくる場合もあって、その切り替えの早さに驚嘆する。今まで戦ってきた狼とは比べ物にならない厄介さだが、これぞ俺が望んでいた格好の練習相手だ。
人間相手だともっと複雑な駆け引きが要求されるし、ジョブによってはどんなスキルを使ってくるかもわからないので迂闊に接近することさえもできないからな。とにかく戦況を読む力が要求されるわけで、こうした強敵との戦いは望むところだった。
『ガルルルル……』
「……」
さあ、来い。どんなことを俺にやってもいいぞ。全部残さず【一掃】してやる……って、待てよ? 俺は今、重大なことに気が付いた。そうだ、この方法なら簡単に勝てるんじゃないか?
俺は早速自分の姿、気配、匂いを【一掃】し、無の状態になって狼へと迫るが、センスを鍛えたせいか警戒する仕草を見せてきたのでそれを正常な体勢とともに払いのけ、隙だらけの格好にしてやる。
『ルルァッ!?』
「これで終わりだ!」
仕上げにやつのガードしようとする意思や避けようとする意思を剥ぎ取ると、防御力の関係ない急所の喉を目がけて思いっ切り短剣を振り下ろした。
『ギャインッ!』
スーパーウルフが一撃で絶命する瞬間だった。どれだけ剥がしようのない闘志や遊び心を持っていても、自身の存在感すら一時的にとはいえ取り除けるこの神スキル【一掃】には及ばなかったってわけだ。
「アルファよ、よくやったぞっ!」
「ま、まあまあでしたわ」
「今回も楽しませてもらった、人間……いや、アルファどの」
「あっ、カミュしゃんまで名前呼びしゅるなんて、人間しゃんしゅごいー」
「カ、カミュなんかには渡さんのじゃっ!」
「ふっ……誰を選ぶかはアルファどの次第だ」
「あ、あはは……」
まさか、数日前までは底辺ジョブとしてこき使われていた俺を巡り、ドワーフ同士で取り合いみたいなことが起こるなんてな。人生、どうなるかわからないもんだ……っと、薄い霧が発生して視界が悪くなってきた。いずれまた例の自然現象が発生しそうな雰囲気だな。ここは四方が高い崖に囲まれてるし、ドワーフたちがいるから山小屋は大丈夫だと思うけど。
「さて、そろそろ飯といくかのー」
あ、そういや遭難以降、全然食ってなかったんだったな。道理でフラフラしてたわけだ。
「マリベル、また狼肉と野菜の炒め物ですの?」
「そうじゃが? ルカよ、ここはFクラスの迷宮山じゃからな。下層はこんなものしかないから贅沢を言うでないっ」
「マリベルどの、それはわかるが我もさすがに飽きてきたところだから、いつもと同じではなく少し味付けを変えてみてほしい」
「ふむう、わかったのじゃ」
「ユリムも狼しゃんの肉は飽きたから、そろそろ別のモンスターが食べたいでしゅ。だから人間しゃんを連れて早く登頂したいれふう」
「これこれ、アルファは戦ったばかりで疲れておるのじゃっ! まずはたらふく食べさせてからじゃ!」
「……」
なんか普通にドワーフたちに期待されてるっぽくて急にプレッシャーがかかってきたけど、それは【一掃】せずにやり甲斐として背負っていかないとな……。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる