底辺ジョブ【清掃師】で人類史上最強~俺はドワーフ娘たちに鍛えてもらって超強力な掃除スキルを習得する~

名無し

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第一章

清掃師、限界に挑む

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『グルルァ……』

 スノーウルフが俺に向かって唸っている。実はこいつ、今日で三匹目なんだ。一匹目と二匹目はパワーとスピード、さらに防御力等を【一掃】した結果、あっさりやっつけてしまった。

 ちなみに、倒すだけなら命を払えばいいんじゃないかと思われるかもしれないが、マリベルによるとあくまでも一時的なものなのでその間は気絶と同じ状態になるらしい。

 あとは目の前にいるモンスターさえ倒せば訓練は終わりなわけだが、はほかの狼とは明らかに違う。

「ア、アルファよ、充分に気を付けるのじゃ!」
「ホホホッ……本当に変わった下等生物ですわねえ」
「人間とはわからぬものだ。いくらなんでも無謀だろう……」
「あの化け物しゃんと人間しゃん、どっちが強いれふかねえ?」

 ドワーフたちの会話を聞けばわかるように、この狼は普通じゃない。

 マリベルによって自然治癒能力を鍛えられ、ルカによって勇気や遊び心を精錬され、カミュによってスピード、パワー、防御力を叩かれ、ユリムによってセンスまで磨かれた、まさにと化していたのだ。

 仮に命を払ったとしても一時的なものな上、高い自然治癒能力によって即座に目覚めてしまうはずだ。

 じゃあマリベルたちが精錬したものを【一掃】すればいいというわけではなく、ドワーフたちによって鍛えられたものは彼らによってしか折ることができないというから、それらは対象から外すしかない。

 というのもエルフ、ドワーフ、オーガといった人間より神に近い種族はという強力な結界のようなものを常に纏っており、普通のスキル自体ほぼ例外なく通用しないのだという。それでも俺の場合は神スキルというだけあって、訓練次第では神気すら払うこともできるようになるらしい。

 俺もいずれはそんな領域に挑みたいってことで、あえて難しいことに挑戦しているというわけだ。人外でさえ未踏峰の迷宮山の登頂を目指すなら尚更その必要があるわけだしな。

『グルルッ……ルァッ――』
「――っ!?」

 やつは吼えて飛び掛かってくる姿勢を見せたが、

『……』
「がっ!?」

 俺は気付けば血が噴き出る脇腹を押さえていた。フェイントを使ったかと思うと無言で襲い掛かってくるとは。これが遊び心ってやつか。しかもなんてスピードとパワーだ。ドワーフたちに鍛えられるとこうも違うのか……。

 威嚇しながら接近してきて攻撃する素振りだけかと思いきや、普通にそのまま攻撃してくるときもあるし、逃げる素振りから一転して飛び掛かってくる場合もあって、その切り替えの早さに驚嘆する。今まで戦ってきた狼とは比べ物にならない厄介さだが、これぞ俺が望んでいた格好の練習相手だ。

 人間相手だともっと複雑な駆け引きが要求されるし、ジョブによってはどんなスキルを使ってくるかもわからないので迂闊に接近することさえもできないからな。とにかく戦況を読む力が要求されるわけで、こうした強敵との戦いは望むところだった。

『ガルルルル……』
「……」

 さあ、来い。どんなことを俺にやってもいいぞ。全部残さず【一掃】してやる……って、待てよ? 俺は今、重大なことに気が付いた。そうだ、なら簡単に勝てるんじゃないか?

 俺は早速自分の姿、気配、匂いを【一掃】し、無の状態になって狼へと迫るが、センスを鍛えたせいか警戒する仕草を見せてきたのでそれを正常な体勢とともに払いのけ、隙だらけの格好にしてやる。

『ルルァッ!?』
「これで終わりだ!」

 仕上げにやつのガードしようとする意思や避けようとする意思を剥ぎ取ると、防御力の関係ない急所の喉を目がけて思いっ切り短剣を振り下ろした。

『ギャインッ!』

 スーパーウルフが一撃で絶命する瞬間だった。どれだけ剥がしようのない闘志や遊び心を持っていても、自身の存在感すら一時的にとはいえ取り除けるこの神スキル【一掃】には及ばなかったってわけだ。

「アルファよ、よくやったぞっ!」
「ま、まあまあでしたわ」
「今回も楽しませてもらった、人間……いや、アルファどの」
「あっ、カミュしゃんまで名前呼びしゅるなんて、人間しゃんしゅごいー」
「カ、カミュなんかには渡さんのじゃっ!」
「ふっ……誰を選ぶかはアルファどの次第だ」
「あ、あはは……」

 まさか、数日前までは底辺ジョブとしてこき使われていた俺を巡り、ドワーフ同士で取り合いみたいなことが起こるなんてな。人生、どうなるかわからないもんだ……っと、薄い霧が発生して視界が悪くなってきた。いずれまた例の自然現象が発生しそうな雰囲気だな。ここは四方が高い崖に囲まれてるし、ドワーフたちがいるから山小屋は大丈夫だと思うけど。

「さて、そろそろ飯といくかのー」

 あ、そういや遭難以降、全然食ってなかったんだったな。道理でフラフラしてたわけだ。

「マリベル、また狼肉と野菜の炒め物ですの?」
「そうじゃが? ルカよ、ここはFクラスの迷宮山じゃからな。下層はこんなものしかないから贅沢を言うでないっ」
「マリベルどの、それはわかるが我もさすがに飽きてきたところだから、いつもと同じではなく少し味付けを変えてみてほしい」
「ふむう、わかったのじゃ」
「ユリムも狼しゃんの肉は飽きたから、そろそろ別のモンスターが食べたいでしゅ。だから人間しゃんを連れて早く登頂したいれふう」
「これこれ、アルファは戦ったばかりで疲れておるのじゃっ! まずはたらふく食べさせてからじゃ!」
「……」

 なんか普通にドワーフたちに期待されてるっぽくて急にプレッシャーがかかってきたけど、それは【一掃】せずにやり甲斐として背負っていかないとな……。
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