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第一章
清掃師、べた惚れされる
しおりを挟む「ぢ、ぢくしょう……」
雪原でひざまずく【弓使い】ジェイクの赤い目から大粒の涙が零れ落ちる。
「「……」」
その様子に対し、【回復師】レイラと【鑑定師】クエスは声をかけようにもかけられず戦々恐々とした面持ちだった。
「何が力の差だ……? ジョブどころか人類底辺のゴミアルファなんかにああも見下されるなんてよ。どうしようもねえクソ無能のくせに……あああああっ!」
「で、でもさジェイク、あいつ狼の大群を追い払ってなかったかい……?」
「しかも、なんか前と違って自信たっぷりだったよね? あいつユニークジョブだし、何か凄いスキルでも習得しちゃったんじゃ……?」
「うるせえぇっ! んなわけねえ、騙されんなっ。あれはきっとやつの後ろにいた仲間のおかげなんだろっ! ゴミアルファなんてゴミ拾いしかやってきてねえし、あんなカスに狼の群れをなんとかできるはずがねえんだっ!」
「「……」」
ジェイクのあまりの剣幕に黙り込む二人。
「……畜生、チックショー……クソクソクソクソッ、クソがああぁっ! 今に見てろ……必ずあいつが無様に死ぬ瞬間をこの目で見届けてやる……!」
「……そ、そう言うけどさ……ジェイク、何かほかに手立てはあるのかい……?」
「そうだよ。もうあれ以上の手段なんて――」
「――あるさ!」
「「えっ……?」」
「ほら、耳を貸せっ!」
レイラとクエスに耳打ちするジェイク。それまで二人は懐疑的な表情だったが、今では納得した顔で何度もうなずいていた。
「――それなら上手くいきそうだねえ……」
「うん。僕もこれはさすがに成功すると思う。ジェイクの悪知恵、ホント尊敬に値するよ……」
「へへっ……だろ? どんどんインスピレーションが湧いてくるぜ。ゴミアルファを仕留めるためならな……って、こんなところでいつまでもぐずぐずしてる場合じゃねえ。レイラ、【加速】を頼むぜっ! クエスは【鑑定】で第二セーブポイントまでの最短ルートを詳しく調べてくれ!」
「「あいあい」」
◇◇◇
「のう、アルファよ……」
「ん、マリベル、どうしたの?」
いつの間にか元の姿に戻ったマリベルから俺は心配そうに声をかけられた。
「あんなふざけたことをしてきたやつをじゃな……あのまま放っておいてもよいものかとわしは思ったのじゃ」
「確かに、マリベルどのの言う通りだ。比較的温厚なドワーフ一族の一員である我も、あれはその場で始末してもいいくらい卑劣な人間だと思ったぞ、アルファどの……」
「わたくしもですわ。愚劣な下等生物の上に粗相までして……はしたない。思い出すだけで鳥肌ですのよ……」
「ユリムもビビッと来ましたでしゅ。あれはとっても悪い人間しゃんれふう」
「……」
みんなの気持ちは痛いほど理解できる。俺もあんなやつに生かしておく価値なんてあるのかと疑問に思うが、だからこそなんだ。
「これから俺の考えを話すつもりだ。みんな、よく聞いてくれ」
切り出した俺に対し、マリベルたちが神妙な顔でうなずく。
「気持ちは痛いほどわかるけど……だからこそ、あいつらにはもう一生俺にかなわないんだって骨の髄まで思い知らせてやらないといけない。何度も何度も叩きのめすことでな……。そうじゃないと俺が何年も苦労してきたことの意味がやつらには伝わらないだろうし、何より一度で終わらせてしまったらもったいないだろ?」
「「「「……」」」」
俺の台詞にドワーフたちはみんな呆然としてる様子。結構えぐいことを言った気がするし、さすがにちょっと引かれちゃったかな……?
「そっ、それはいい案じゃ。それでこそわしだけのアルファ。小物がいくら絡んできたところで無駄だと思い知らせてやらねばのうっ!」
「同意だ。さすがは我だけのアルファどの……」
「渡さんのじゃっ!」
「それは我の台詞だっ!」
「「ぐぬっ……」」
「もおぉ、アルファしゃんはユリムのれふよお?」
「……はぁ、はぁ……」
ん? ルカがさっきから下を向いて息を荒くしてる。顔も火照ってるしまた怒らせちゃったっぽいな。ドワーフが人間の取り合いなんかするなって。
「……す、素晴らしいですわ。アルファ様……」
「えっ……?」
俺を見つめるルカの目は、完全にハートマークの形になっていた。おいおい……。
「アルファ様が思う存分、ビシバシとあの下等生物を躾けて自分好みに調教してくださいましっ……」
「ちょ……」
とんでもない変わり様だが、とにかく俺の言ったことに対して凄く共感してるのは確かの様子。ルカってかなり強気な子に見えて、もしかしたらドMなのかもな……。
「……」
あ、気が付くと周囲に濃厚な霧が立ち込み始めた。一向に晴れる気配がないし、また例の特殊な自然現象が発生しそうだな。とはいえ、マリベルたちはまったく意にも介さない様子。
急ごうかとも思ったけど、よくよく考えてみると俺には【一掃】という最強スキルがある上、仲間たちはいずれも屈強この上ないドワーフたちだった。なんせこうなったのはつい最近だから、短期間での想像を絶する飛躍的な強さの向上という現実にまだ思考が追い付いてないんだろうな……。
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