22 / 61
第一章
清掃師、宿舎へ行く
しおりを挟む
第二セーブポイントのクリスタルがすぐ近くにあり、さらに日がとっぷりと暮れてきたという条件が重なったこともあって、俺を新たに加えた登山パーティーは一旦彼らの宿舎へ戻ることになった。
当然魔道具の一種であるスパイダーロープを使ったわけだが、下りた場所はちょうど『アバランシェ・ブレード』を含む、様々な迷宮山が見渡せる長閑な牧草地にある宿舎前だった。
へえ、この登山者パーティー、結構離れたところから遠征してたんだな。最近じゃスパイダーロープのような便利なものが発明されたから、これを所持してセーブポイントのクリスタルに近付くことさえできれば、こういった遠く離れた宿舎から一瞬で行けるようになるというわけだ。
俺は何度か見物しに行ったことがあって、そういったものがなかった数年前までは迷宮山の麓に飼い慣らされたウォーキングバードが仲良く並び、登山者の帰りを待ってることも多かったんだ。
「……」
それにしても、胸ポケットの動きがやたらと激しいことから、小人化して中に入ってるマリベルたちが早く元の大きさに戻りたがってそうだ。誰かと一緒の部屋じゃなく、狭くても個室で休めたらいいんだけど……。
「パーティーのご帰還であーるっ!」
ロディが叫びながら玄関のドアを勢いよく開けるも返事はない。玄関の先には細い通路があり、左右に部屋があるだけの単純な構造のようだった。外に小さなテラスがあったので、多分食事会とかはそこでやるんだろう。
「んもう、リーダー……新人さんの前で変なこと言うのやめてよっ……」
「やめなさーい」
「やめましょうねえ?」
「わ、わかってはいるが、つい……。いつかはメイドたちを雇えるくらい成り上がりたいものだっ!」
夢を語るロディをみんな当たり前のようにスルーしてどんどん宿舎内に入っていき、扉を開けて中へと入っていった。
「まったく、リーダーであるこの私が熱く語っているというのに……。アルファ君、私の愚妹を含め、仲間たちの見苦しいところを見せてしまって本当に申し訳ないっ!」
「い、いや、別にいいよ」
「嗚呼っ、なんて優しい新人が入ってきてくれたものだっ! さすが、あの可憐なアルフェリナさんの兄っ!」
「……」
「あっ、失敬した! アルファ君も疲れているだろうに……今すぐ部屋へ案内させていただくっ!」
急にキリッとした顔立ちになり、大股で奥へと向かっていくロディ。
なんせ突然の仲間入りだし、俺用の部屋なんてないはずだから倉庫で就寝とかになりそうだが、そこは我慢しないとな。俺なんて、それこそ前パーティー時代は実質三人用の宿舎にいて、増築すら許されずにずっと狭い倉庫で寝てたくらいだから慣れてる。
「――君にはこの部屋を使ってほしいっ!」
「おお……」
そこは通路の一番奥にある部屋で、ベッドやテーブル、クローゼット等が置かれた個室だった。
「狭くてすまん!」
「いやいや、広いくらいだよ」
むしろ、こんなにいい部屋を俺が一人で使っていいものかとためらうレベルだ。
「実を言うとだな、ここは本来私の部屋なんだが、折角の新人に気を遣わせたくないから、私は倉庫で寝ることにする! ではっ!」
「あ、ちょっと……」
俺が倉庫で寝るからと言おうとしたが、あっという間に行ってしまった。ロディって普通にいい人なんだな……。
◇◇◇
「ういー……ゲプッ……畜生……ちっきしょおおぉぉっ!」
「「……」」
登山者ギルドの片隅にて、酔っ払ったジェイクの怒声が響き渡る。その傍らには憔悴した様子のレイラとクエスの姿もあった。
いずれもホワイトグリズリーから命からがら逃げてきたため、体はひっかき傷だらけで髪もボサボサであり、服装に至っては地肌があちらこちらから覗くほどボロボロであった。
「ちょっとジェイク、いくらなんでも飲みすぎじゃないのかい……?」
「僕もそう思う。ジェイク、そろそろやめといたほうが……」
「うるせえぇっ! これが飲まずにいられるかよっ! ひっく……ゴミアルファは一体どうやって自然現象から生き残って、しかもあのパーティーを守れたんだ……? 奇跡が起きたとしか考えられねえが……二回続けてだぜ……。なんなんだよ、もう……!」
「「……はあ」」
相変わらず酒を浴びるように飲むジェイクに対し、呆れた顔を見合わせるレイラとクエス。
「とにかくさ……もう手を出すべきじゃないよ。アルファには……」
「だね。あいつ、いつの間にか僕たちじゃどうにもならないレベルになってるみたいだし――」
「――僕たちじゃどうにもならない……?」
ギロリとクエスを睨みつけるジェイク。
「いや、だってさ……あいつ運が強すぎるし……」
「そ、そうだよ。ジェイク、仲間内で喧嘩はやめときなって……」
「クエスのおかげだ」
「「へ……?」」
ジェイクの予想外の反応に唖然とするレイラとクエス。
「思いついたぜ、最高の作戦をよ……」
「「ええっ……?」」
「耳貸してくれ」
二人に向かってドヤ顔で耳打ちするジェイク。
「――ジェ、ジェイク、あんたマジで天才だよ。クエスの一言がきっかけになったとはいえ……」
「ぼ、僕もそう思う。凄すぎて震えが来ちゃった。これならアルファのやつも終わりだね……」
「へへっ……夜はこれからだし、最高の一日になる明日を前に早くも祝勝会としゃれこもうぜっ!」
三人の様子はそれから陰鬱な雰囲気からガラリと変わり、大いに盛り上がったのだった……。
当然魔道具の一種であるスパイダーロープを使ったわけだが、下りた場所はちょうど『アバランシェ・ブレード』を含む、様々な迷宮山が見渡せる長閑な牧草地にある宿舎前だった。
へえ、この登山者パーティー、結構離れたところから遠征してたんだな。最近じゃスパイダーロープのような便利なものが発明されたから、これを所持してセーブポイントのクリスタルに近付くことさえできれば、こういった遠く離れた宿舎から一瞬で行けるようになるというわけだ。
俺は何度か見物しに行ったことがあって、そういったものがなかった数年前までは迷宮山の麓に飼い慣らされたウォーキングバードが仲良く並び、登山者の帰りを待ってることも多かったんだ。
「……」
それにしても、胸ポケットの動きがやたらと激しいことから、小人化して中に入ってるマリベルたちが早く元の大きさに戻りたがってそうだ。誰かと一緒の部屋じゃなく、狭くても個室で休めたらいいんだけど……。
「パーティーのご帰還であーるっ!」
ロディが叫びながら玄関のドアを勢いよく開けるも返事はない。玄関の先には細い通路があり、左右に部屋があるだけの単純な構造のようだった。外に小さなテラスがあったので、多分食事会とかはそこでやるんだろう。
「んもう、リーダー……新人さんの前で変なこと言うのやめてよっ……」
「やめなさーい」
「やめましょうねえ?」
「わ、わかってはいるが、つい……。いつかはメイドたちを雇えるくらい成り上がりたいものだっ!」
夢を語るロディをみんな当たり前のようにスルーしてどんどん宿舎内に入っていき、扉を開けて中へと入っていった。
「まったく、リーダーであるこの私が熱く語っているというのに……。アルファ君、私の愚妹を含め、仲間たちの見苦しいところを見せてしまって本当に申し訳ないっ!」
「い、いや、別にいいよ」
「嗚呼っ、なんて優しい新人が入ってきてくれたものだっ! さすが、あの可憐なアルフェリナさんの兄っ!」
「……」
「あっ、失敬した! アルファ君も疲れているだろうに……今すぐ部屋へ案内させていただくっ!」
急にキリッとした顔立ちになり、大股で奥へと向かっていくロディ。
なんせ突然の仲間入りだし、俺用の部屋なんてないはずだから倉庫で就寝とかになりそうだが、そこは我慢しないとな。俺なんて、それこそ前パーティー時代は実質三人用の宿舎にいて、増築すら許されずにずっと狭い倉庫で寝てたくらいだから慣れてる。
「――君にはこの部屋を使ってほしいっ!」
「おお……」
そこは通路の一番奥にある部屋で、ベッドやテーブル、クローゼット等が置かれた個室だった。
「狭くてすまん!」
「いやいや、広いくらいだよ」
むしろ、こんなにいい部屋を俺が一人で使っていいものかとためらうレベルだ。
「実を言うとだな、ここは本来私の部屋なんだが、折角の新人に気を遣わせたくないから、私は倉庫で寝ることにする! ではっ!」
「あ、ちょっと……」
俺が倉庫で寝るからと言おうとしたが、あっという間に行ってしまった。ロディって普通にいい人なんだな……。
◇◇◇
「ういー……ゲプッ……畜生……ちっきしょおおぉぉっ!」
「「……」」
登山者ギルドの片隅にて、酔っ払ったジェイクの怒声が響き渡る。その傍らには憔悴した様子のレイラとクエスの姿もあった。
いずれもホワイトグリズリーから命からがら逃げてきたため、体はひっかき傷だらけで髪もボサボサであり、服装に至っては地肌があちらこちらから覗くほどボロボロであった。
「ちょっとジェイク、いくらなんでも飲みすぎじゃないのかい……?」
「僕もそう思う。ジェイク、そろそろやめといたほうが……」
「うるせえぇっ! これが飲まずにいられるかよっ! ひっく……ゴミアルファは一体どうやって自然現象から生き残って、しかもあのパーティーを守れたんだ……? 奇跡が起きたとしか考えられねえが……二回続けてだぜ……。なんなんだよ、もう……!」
「「……はあ」」
相変わらず酒を浴びるように飲むジェイクに対し、呆れた顔を見合わせるレイラとクエス。
「とにかくさ……もう手を出すべきじゃないよ。アルファには……」
「だね。あいつ、いつの間にか僕たちじゃどうにもならないレベルになってるみたいだし――」
「――僕たちじゃどうにもならない……?」
ギロリとクエスを睨みつけるジェイク。
「いや、だってさ……あいつ運が強すぎるし……」
「そ、そうだよ。ジェイク、仲間内で喧嘩はやめときなって……」
「クエスのおかげだ」
「「へ……?」」
ジェイクの予想外の反応に唖然とするレイラとクエス。
「思いついたぜ、最高の作戦をよ……」
「「ええっ……?」」
「耳貸してくれ」
二人に向かってドヤ顔で耳打ちするジェイク。
「――ジェ、ジェイク、あんたマジで天才だよ。クエスの一言がきっかけになったとはいえ……」
「ぼ、僕もそう思う。凄すぎて震えが来ちゃった。これならアルファのやつも終わりだね……」
「へへっ……夜はこれからだし、最高の一日になる明日を前に早くも祝勝会としゃれこもうぜっ!」
三人の様子はそれから陰鬱な雰囲気からガラリと変わり、大いに盛り上がったのだった……。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる