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第一章
清掃師、落差に驚く
しおりを挟む「はあぁっ!」
『ギイィッ!?』
アイシクルコンドルは弱点の背中をシェリーに突かれ、あえなく地面を舐めることとなった。シェリーが勇気をもって踏み出し【傀儡】を行使した結果だ。モンスターを撃破したことで歓声が上がり、胸のポケットではマリベルたちも喜び合ってるのか結構くすぐったい。
「アルファよ、よくやったぞ。お主があの者の恐怖を【一掃】したおかげじゃなっ!」
「それなんだけど……実は俺、あの子の恐怖とか緊張は一切払ってないんだ」
「「「「え……?」」」」
みんな驚いてる様子。そりゃそうか。
「あと少しで克服できる状態に見えたから、肩に手を置くだけのおまじないでごまかしたんだ。それに、そのほうが……自力で克服したほうが、俺みたいにこれからも上手くいくと思うし、あの子のためにもなるんじゃないかなって」
「な、なんという真心じゃ……」
「我はいたく感動した、アルファどの」
「わたくしもですわぁ……」
「泣いちゃいまふう」
小さなポケットの中が大きな感動で溢れそうになってる様子。なんか照れるなあ。ん、シェリーが俺の元に駆け寄ってきた。
「アルファお兄ちゃん、ありがとね。少し屈んでっ」
「え?」
「ちゅっ……」
「……」
ほっぺにキスを貰って、胸に驚くほどの振動を感じた。ドワーフたちが落ち着くまでしばらくスルーしとくか……。
「――お、おえっぷ……」
お、リーダーによるコンドルの解体作業が始まったみたいだ。ただ、かなり気分が悪そうにしてるが大丈夫かな。
「ちょっとリーダー! 折角あたしたちが華麗に倒したんだから、もっとてきぱきやってよ!」
「うふふ、しょうがないですよぉ、血がドバドバ出てますしい……」
「うひゃー」
「……」
この中で一番適してそうなのはミュートっぽいな。解体を側で見ても笑ってるし。とはいえ、この解体作業には胆力も必要だが何より経験がものを言う。
「リーダー、俺にやらせてくれないかな?」
「えっ……し、しかしだな、こんなことを……うぇっぷ……新人にやらせるというのは……」
「大丈夫、こういうことばかりやらされて慣れてるんで」
「あっ! それならやってもらってもいいかな!?」
ロディが周りからの白い目を気にしつつも俺に代わってくれた。こうしたことも、雑魚でしかないジョブがやる仕事だと思って、普通の山とかで色んな動物をバラしてきたからお手のものなんだ。
「――ふう……」
解体が終わり、【収集】すると周囲から感嘆の声が上がって驚く。以前だとこういうことをやっても、褒められるどころかジェイクたちに怒鳴られつつ尻を蹴り上げられるイメージしかなかったからな。
「では、【鑑定】しますねえ」
ミュートに収集品を渡したわけだが、ついゴミばっかりだったらどうしようかと心配してしまう自分に俺は苦笑する。染みついちゃってるなあ。
「んー……大していいものは出ませんでしたが、こんなに手早く作業してもらえると次に期待できますねえ」
「……」
みんな納得顔でうなずいてるし、全然不満そうじゃないので驚いた。前のパーティーとの落差に驚かされてばかりだ。
「みなさん、凄かったですがぁ……一番はシェリーさんですねっ」
「えへ……」
「あ、ちょっと待ってくださいっ。あと、シェリーさんは新スキルも覚えてるみたいですう」
「ふぇっ!?」
シェリーが少し飛び上がってびっくりしてる様子。そりゃそうか。唯一無二のユニークスキルにはノーマルジョブのようなスキルを習得するための方法なんてないから、まさに青天の霹靂といったところだろうしな。
「ねぇミュートお姉ちゃん、新スキルってどんなのぉ?」
「【藁人形】だそうですよお。効果は……敵さんが近くに来たとき、ぬいぐるみを殴るとその倍のダメージが相手に向かうそうですう」
「すごーいっ!」
「シェリー、おめでとうだ! さすがはこの私の妹っ!」
「シェリー、やったねっ!」
「みんなありがとー。でも、わたしの力というよりアルファお兄ちゃんのおかげだよっ」
「いやいや、シェリーが頑張ったからだ」
俺は喜ぶシェリーの頭を撫でつつ、複雑だった。まさか俺の神スキル【一掃】のこと、ミュートにバレてるんじゃないか? 俺は無性に心配になったので雑音を【一掃】し、ポケットに向かって話しかける。
「マリベル、俺のスキルって【鑑定師】にバレる?」
「……知らん」
「……」
プイッと俺から不機嫌そうに顔を背けるマリベルがなんか可愛かった。シェリーからほっぺにキスされたことをまだ根に持ってるんだろうか。
「ごめん、マリベル。可愛いから教えてよ」
「なっ……!? わしが可愛い……?」
「ああ、可愛い」
「わ、わかった、今すぐ教えるのじゃっ!」
「……」
ほかのドワーフたちがドン引きするくらい単純なんだな、マリベル……。
「コホンッ……それについては安心するがよいぞ。あの者にお主の【一掃】が見抜けるはずもない。何故なら、それは神スキルの中でも上位のスキルじゃからな。ただし、【具眼】という神スキルをもしあの者が習得すれば知られてしまうじゃろう」
「【具眼】……?」
「うむ。【一掃】には及ばんが、神スキルの中位に存在する超強力なスキルの一つで、ありとあらゆるものを見抜くことができる。心の中でさえも……。しかし、それを覚えるのは普通の人間には難しかろう。なので安心するがよい」
「そっか。ありがとう。ほっとしたよ……」
そりゃ強くはなりたいけど、だからって目立ちたいってわけじゃないからな。
「それより、ゴーグルじゃなくてリボンでもつけるべきかの……?」
「マリベルどの……黙って聞いていれば調子に乗りすぎだ」
「そうですわ。あなたにはそのごつごつした野暮なゴーグルがぴったりですのよっ。オホホッ!」
「あと、おひげが似合うのれふう」
「う、うぬぬ……お主らぁ……どうやらわしに変身能力を折られて小人のままでいたいようじゃな!?」
「「「えっ……!?」」」
「……」
ここまで混沌としてる胸ポケットって、多分ほかには存在しないだろうな……。
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