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第一章
清掃師、ボスと対峙する
しおりを挟む『――ウゴオォォッ……』
光の柱が消えた地点には、代わりに銀色のゴーレムが立っていた。周囲の木々を凌駕するほどの巨躯で、胸にはひし形の青い宝石が覗いている。
「【鑑定】結果が出ましたっ! 名前はコールドゴーレムッ、ボスモンスター、強さはA、スピードは基本的に遅いですが攻撃力、防御力、体力ともに高くて、弱点は胸部に見えるコアですぅ!」
ミュートの【鑑定】が終わる。俺も一応、登山者ギルドにある登山バイブルで調べたことがあって、動作は極めて鈍いが殴られると最悪即死、気絶等で戦闘不能になるため、なるべく当たらないようにしないといけないのだという。
また、時折うずくまって無敵状態、さらには力を溜めた状態となり、次に立ち上がるときは獲物に向かって真っすぐ突進してくるんだそうだ。その際はスピードが桁違いに増すため、距離があれば余裕でかわせるものの近距離だと厳しいという。
とにかく、うずくまるまではボスの心臓であるコア狙いでいいだろう。そこ以外を狙うと時間制限に引っ掛かって強制退出させられそうだしな。確か三十分だったと記憶してるが、コールドゴーレムは防御力も体力も高く、弱点のコアもサイズが小さく当てにくいため、結構急がないと間に合わないような気がする。
『ウガーッ!』
「万歳しちゃえっ! みんな、狙うなら今だよーっ!」
「せいっ!」
「そぉれっ!」
お、かなりいい感じで戦闘が始まってる。【人形師】のシェリーが【傀儡】で熊のぬいぐるみを万歳させてゴーレムのガードを解き、【剣士】サーシャと【鑑定師】ミュートがその間隙を縫って懐に入り、それぞれ剣とピッケルでコアを攻撃するというやり方だった。
さらに、シェリーが新しく覚えた【藁人形】というスキルでぬいぐるみの胸部をガシガシと殴り、ダメージを追加している。
この調子なら俺が手助けしなくても倒せそうだが、ゴーレムの振り下ろす両腕が巨大で、もしあんなのが命中したらと思うと恐ろしくなる。あれが地面に届くたび、軽く地響きがするほどなんだ。
「頑張れ頑張れっ! みんな頑張るのだーっ!」
「……」
ロディが応援しまくってる。彼も俺と同じく戦闘には直接参加しないらしい。【回復師】だからわかるが、ただ疑問に思ってる点があるので一つ訊ねたかった。
「そういえばリーダー、補助系のスキルとかは?【加速】とか」
俺自身目立ちたくないとはいえ、仲間が危機に瀕したときはもちろん助けるつもりだが、それ以前にもしものときだってありうるし、彼らにバフ……特に【加速】をかけたかったんだ。
「そっ……それがだな、私は不器用すぎたのか、【加速】を取ることができなかった……」
「ありゃ……」
そういや、いくらメソッドがあっても取れないスキルは絶対に取れないらしく、ジョブの天啓を受ける十歳から五年以上経ったとき、【回復師】のようなノーマルジョブの場合そこから月日が経てば経つほど習得はどんどん難しくなるんだとか。ちなみにユニークジョブの場合、メソッドがない分一切関係ないらしい。
「だ、だからせめて応援をとっ! もちろん、怪我したときや気絶したときは、この私が責任をもって【治癒】や【リカバリー】で対応するっ!」
「なるほど……」
【回復師】の種類は大雑把に分けて二つだそうで、回復系と補助系に分けられるわけだがロディは前者ってわけだ。
そういや、リーダーと同じジョブのレイラは後者で、逆に回復系が苦手だったんだよな。あいつは器用なためか【加速】【加護】【祝福】といったスピード、防御、命中率を上げる補助系のスキルを揃えていたが、仲間を応援するような優しいやつじゃなかったし、回復系のスキルは一応【治癒】だけ覚えてるがやたらと回復量が少なかったはずだ。
「……」
しかし妙だ。ジェイクたち、予想に反して俺が戦ってるところをただ見てるだけで、今のところなんのアクションもない。一体何を考えてるんだか……。
◇◇◇
「ジェイク、なんなのさっ。なんでとっとと攻撃しないんだよ!」
「そうだよ。アルファたちがボスと戦ってる間、挟撃を狙うって言ってたじゃないか……」
「バカ、嘘はついてねえよ。タイミングが今はちげえんだよ!」
「「タイミング……?」」
ぽかんとするレイラとジェイク。
「おそらくよ、ゴミアルファも俺たちの存在に気付いて警戒してるだろうし、そこをわざわざ突くほどバカじゃねえってこと」
「「なるほど……」」
「それにな、多分……認めたくはねえが、ゴミアルファのやつ、何か新しいスキルを得て自信をつけてるんじゃねえかって思ってんだよ」
「だねぇ。あんな奇跡は二度も続きやしないよ」
「それは僕も思う」
「そこでだ……やつの自信を逆に利用してやるんだよ」
「「逆に利用……?」」
「おうともさ。この作戦はなあ、やつが自信を持っていればいるほど成功するだろうぜ」
「ど、どんな作戦なんだい? 教えとくれよ!」
「僕も知りたい!」
「そのときのお楽しみだ。今ネタバレするより、二人ともそのほうが面白いだろうが。絶対にびっくりするぜえ、俺の仕掛けたこの最大級のトラップにはよぉ……」
「「……」」
悪そうな笑みを浮かべるジェイク。その顔は、レイラとクエスが思わず黙り込んでしまうほどの迫力であった……。
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