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第二章
清掃師、ドキドキする
しおりを挟むトントン。俺はロディのいる倉庫のドアを静かにノックする。今の自分はアルファじゃない。双子の妹のアルフェリナなんだ、自分にそう言い聞かせながら。
「……」
しかし応答がない。もう寝ちゃってるんだろうか。それなら仕方ないよな。ほっとしたような、それでいてがっかりしたような複雑な心境だった。
「――だ、誰だっ……」
「あ……」
そこから離れようとしたとき、掠れたようなロディの声がするのがわかった。
「俺……いや、私です。アルフェリナです」
「なっ……!?」
倉庫からドスンという音が響いて、まもなく痛そうなロディの呻き声がした。おそらくだが、どこかに体の一部をぶつけたっぽいな……。
「――イテテッ……ア、アルフェリナさん、どうしてここに……!?」
姿を見られたくないのか、ロディは扉を開けなかった。
「兄からの手紙で、ここまで駆けつけたんです。花束をロディさんから貰ったので、受け取りにきてほしいって。それで来たら大変なことになってるって聞いて……」
「……あ、あああっ、わ、私の名前まで覚えてもらえるなんて……!」
「そ、そんなっ。当然です。あの……綺麗な花束、ありがとうございます、ロディさんっ♪」
「ど、どどどっ、どういたひまひてっ……!」
会話の流れで仕方なくだが、俺は少しだけ媚びてしまった自分に寒気がした。慣れないことはするもんじゃないな……。というか、俺は周りが気になってしょうがなかった。誰かにこの姿を見られたら面倒なことになりそうだし、倉庫の中に入れてもらおうか。
「あの……中でお話でも――」
「――いっ、いやっ! それはダメなのだっ! あ……ダメというか、今は都合が悪くてっ……!」
「え?」
「そ、そそ、その、なんというか……男としての惨めな姿をアルフェリナさんに曝け出したくないというか……」
「な、なるほどっ……」
ロディ、どうやらまた泣いてたっぽいな。目が真っ赤なんだろう。
「それに……今は大事な時期で、誰にも会いたくないのだ……。たとえそれがあなたであっても……折角会いに来てくれたのに申し訳ない。それでも……アルフェリナさんの声を聞いただけで勇気が湧いてきたのであります。私は……くっ……私は、絶対にあなたの兄のアルファ君を守ってみせるつもりだ……!」
「リーダー……いえっ、ロディさん……」
正直、俺は感動してしまっていた。もし俺の心が女だったら惚れちゃってたかもしれない……。
「兄も、あなたのことを深く信頼している様子でしたよ」
「そ、そうなのだなっ……。こんなにも頼りないリーダーなのに……」
「いえいえ、リーダーとして充分な素質を持っている人だと言っていたので、どうか自信を持ってくださいね……?」
「わっ……わっかりましたっ……!」
少し大袈裟に言ってしまったかもしれないが、あくまで元気づけるためだしこれくらい大丈夫だろう。あの落胆した状態のままだと周りにまで悪影響が出てしまいそうだったからな。
「それでは、この辺で失礼しますねっ。また次に会う日を楽しみにしています……!」
「はっ……は、ははっ、はいぃっ!」
「……」
ロディ、すっかり舞い上がってるな。なんかどんどん変な方向に行ってるような気もしないでもないが……。さて、部屋に戻るか――
「――あ、あれっ? アルフェリナ……!?」
「うっ……!?」
パジャマ姿のサーシャが駆け寄ってくるが、俺は咄嗟に明後日の方向を向いて変身を解き、極自然を装って振り返った。
「え、俺はアルファだけど……」
「あっ……ホントだ。なんか今、アルフェリナに見えた気がして……おっかしいなあ……」
「……」
サーシャが目を擦りながら怪訝そうに俺を見てるが、違うとわかったらしく苦笑した。
「ご、ごめんね、目の錯覚だったみたい……」
「あ、ああ、疲れてるんだよ、きっと」
「う、うん……それじゃ、おやすみ、アルファ」
「ああ、おやすみ、サーシャ」
彼女は幾度かこっちを振り返りつつ、自身の部屋へと戻っていった。危なかった……お、久々に胸のポケットがざわめいてる。ようやくマリベルたちが目を覚ましたみたいだから色々相談しないとな。
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