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第一章 リトア王国

競歩の練習は疲れます

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マリーの記憶にある父親の姿は先ほどの怖すぎる威厳に満ちた姿しかない。
初対面でよく泣き出さなかったとマリーの頭を撫でてあげたい。あ、今は私もマリーか。

「あなたは一体何をしているの?」

歩きながら自分の頭を撫でていた私にお祖母様の雷が落ちた。

「申し訳ありません。」

「何をしていたのかと聞いているの。」

アイリーンが私とお祖母様の間でオロオロしている。

「はい、自分を褒めてあげようと思って自分の頭を撫でていました。」

正直に話すのが一番と思いお祖母様を真っ直ぐに見つめて答えると、珍しく言葉を失って固まってしまわれた。
しばらく見つめあっていたが若干顔色を悪くしつつようやく動き出したお祖母様はゆっくりとこちらに近づき手を伸ばしてきた。

叩かれる?いや、貴婦人は手をあげたりしない。それに、怒っている顔つきではない。
どちらかというと緊張しているような…
おっ、ついにデレが出るのかな?

大人しく待っていたがプルプルと震える手を伸ばしていたお祖母様はハッとしたように手を戻してクルリとこちらに背を向ける。

「あ、あ、貴方の…先ほどの…つまり、退出時のカーテシーは…なかなかよかったと思いますよ。」

「ありがとうございます。」

珍しい。話し方にもひときわ厳しいお祖母様が、なんだかどもっている。
何しろお祖母様は辺境伯邸にやってきたばかりの頃アイリーンや他の使用人たちに敬語を使っていたマリーを怒鳴りつけた過去がある。それもそんなに昔のことではない。マリーの感覚だとこのお屋敷にやってきて何年も経つ気がしているが、ゆきの冷静な判断によるとまだ1年に満たないと思われる。

知らない人に囲まれた一変した生活。
新たに叩き込まれる貴族としての礼儀作法、勉学。よくパニックにならなかったものだ。
本当に偉いよマリーベル。

また頭を撫でようとしてお祖母様が振り返る気配を感じ私は大人しく両手を下げたままお祖母様に笑いかけた。

チラッとこちらを見たお祖母様は勢いよく顔を戻し、先ほどよりも早足に歩き始めた。
一体どうしたというのだろう。こちらはまだ幼児体型で足も短いんだから加減してほしいものだ。
走ったら怒られるに決まっているから競歩の練習ばりに必死に足を早めて後を追う。
やれやれ、貴族って大変だな~
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