クレーンゲームの達人

タキテル

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この日にわざわざ作ったのか、瀬古と名乗るサングラスをかけた男はステージの上に立ち、参加者を見下ろすような形で司会を務めた。参加者はゾロゾロと瀬古の前に集まる。参加者は見た限り三十人といったところだろうか。
「集まりましたね。それではこの場にいる三十二人の皆様で予選をしたいと思います。予選を通過した三人の皆様には全国大会の切符を手に入れることができますので頑張って下さい」
 どうやら瀬古のセリフからしてこの場にいる三十二人の中からたったの三人しか予選を通れないということであった。果たしてその三人はどのように決められるのか、僕たちは瀬古の言葉を待つ。
「ではルールの方を説明させて頂きます。皆さん、受付の時に引いたアルファベットがありますね。AからDが記載されていたと思います。今回、個人とペアで登録したと思います。A、Bが個人。C、Dがペアでの予選となります」
 大会に出場する際、個人と二人一組での項目があり、僕たちは二人で出場を決めたので二人一組での参加になっている。
「予選ではそれぞれのブロックで課題をクリアし、各ブロックの頂点を決めてもらいます。各ブロックの代表は決勝を行なってもらい、それに勝ったものが予選通過です」
 なるほど。ブロックを勝ち抜いたAとBが個人の決勝をして、CとDがペアの決勝をしてそれに勝ち抜いた三人が予選通過ということのようだ。ここまでは理解した。
「課題はどのブロックも同じです。制限時間以内に取った景品に応じて点数があります。点が多かったものがブロックの通過者になります。皆さん、ご理解頂けましたか?」
 すると、一人挙手する者がいた。その者は神谷である。瀬古はそれに気づいたのか、神谷を指名する。
「はい。そこのあなた。質問があればどうぞ!」
「決勝では何をするんでしょうか?」
 神谷の質問に瀬古はマイクを持ち直す。そして答えた。
「気が早いですね。まずは予選を通過しないと意味がありません。決勝に立てたらお話しましょう」
「いや、予選なんてワイには無意味や。どうせ勝てる。だから早いうちに決勝の内容を知ってシミュレーションしとこうかと思って」
 神谷の発言で場が凍った。まさかの宣戦布告である。予選には眼中にないとも取れる発言に僕はどう止めていいのか、分からずにいた。会場にいる参加者の視線が僕と神谷に集中する中、神谷はまるで気にならないといった感じに瀬古を睨みつけている。一緒にいる僕の身にもなってほしいが神谷には察してくれなかった。
「おい。あいつ。最近YouTubeで動画を上げているカミタツじゃないか?」
 参加者の一人が言った。その発言に他の参加者も「そういえば、確かに」と反応を見せる。クレーンゲームの大会だけにクレーンゲームの動画を上げている僕たちのことを知っている視聴者が多くいることは嬉しいことではあるが、今、この流れで目立つことは非常に辛い。僕たちはこの日は特別に変装なんて全くしていないのでバレバレである。神谷は顔バレしているが、僕は神谷と一緒にいることで『スートン』という存在がバレている。穴があったら入りたいとは今の状況にピッタリの言葉だ。印象が悪くなるのだけは避けたいが参加者たちは険しい表情で僕たちを見ている。なんてことしてくれたんだ、神谷!
「ほう、愉快な参加者が居て何よりだ。だが、そう急かすのもよくないぞ。君には余程自信があるようだから期待していますよ。予選を登ってきてください。ではAブロックの皆さん以外は邪魔にならないように待機していてください。予選を始めますよ」
 瀬古の誘導により、Aブロックの参加者以外は隅の方へ散らばっていく。僕も流れで神谷を連れて移動する。
「神谷! 早く離れよう」
 僕がそう言っても神谷は瀬古から目を逸らさず見つめている。何かが気に食わないようだ。なんとなく考えていることがわかるが、今は瀬古に言われたように邪魔にならないところに行ったほうがいいと強引に神谷を引きずる。おそらく神谷は自分の質問を聞き流されたことに納得言っていないのだろう。何を意地になっているんだと僕は呆れる。それよりも、敵を多く作ったことを自覚しているのだろうか。そこだけが僕の心配だ。目立つことはできるだけ避けたいと思う。
「では、Aブロックはこの八人で行ないたいと思います」
 中央に残った八人の中に例の金髪少女がいた。あの子は個人戦の参加者だったと僕は知る。
「制限時間は個人戦では三十分を設けます。制限時間以内に取った景品に応じて点数が加算されていきます。終了の時点で点数が一番多かった者がブロックの代表です。それでは対象のクレーン台をご覧ください」
 瀬古の合図で係の人はクレーン台に覆い被せていたシートカバーを一斉にはぎ取った。数十台のクレーン台が並び、一般的に見るものと同じであった。中の景品も特に変わったところはなかったが台のガラス越しにそれぞれ数字が書いてある。
「こちらが対象の台となります。台にある数字はその景品の点数となっています。その数で合計点数が決まるので台を選ぶ際は慎重にお選びください。点数が高いものを時間かけて取るのか、点数が低いものを多く取っていくのかは参加者の自由。どの選択がいいのかが勝負を大きく分けます。注意事項としまして連続でする場合は十分まで。それと景品の移動は不可。移動の場合はスタート位置のリセットのみとなっています。その他トラブルが発生した場合はその都度スタッフに声をかけてください。準備はよろしいですか?」
 参加者の八人は頷く。
「それではAブロック予選開始!」
 宣告と共に瀬古の隣にあった電光掲示板のパネルが動き出した。同時に参加者は一斉に動き出して台の方に向かう。僕たちは自分たちのブロックの予選の為にAブロックの一部始終を見なくてはならない。何事にもトップバッターには緊張と不安がつきもの。後攻の方が気持ち的には楽だ。そういう意味では三番目の順番で助かったと心から思う。アームの強さは? どのようにしたら取れる? そんなことを考えていたらそれ以上の『?』が頭によぎる。
「おっと、一人動かない人がいるぞ。どうしたのだろうか。これも作戦か?」
 瀬古も解説を入れたのはあの金髪少女だ。スタート位置から動こうとせず、じっと一点を見つめる。
「あの子、どうして動かないんだろう?」
 僕が独り言のように言うと神谷は答える。
「選別だな」
「選別?」
「あぁ、ワイもよくやるだろう。どの台が最適か、観察するやり方。人のやつを見て判断する」
「一般的なものであれば良いけど、これは予選であって制限時間もあるんだよ? そんなことをしていたら時間切れで獲得できないよ」
「果たしてそうだろうか」
「え?」
 神谷は意味有りげに言った。僕にはその意味がわからなかった。
「見てみな」
 神谷は台に向かった参加者に視線を送る。
 見ると大物を狙った者、小物を狙った者と分かれているがどの者も苦戦していてなかなか取れない。大物に関してはわかるが小物に関してはどうしたのだろうか。
「小さなぬいぐるみの台――あれは見た目、簡単に見えるがアームが極端に弱い。工夫して取らないと取れっこない。対して大きい景品。あれは強そうに見えるが景品を掴む力はない。あれも工夫次第で取れるもの。つまり、このブロックの代表を決める予選は工夫して取れるかどうかを競う戦いだ。正直に掴もうとしても一生取れない」
「……たった数分でそこまで見抜いたの?」
「まぁ、そんなところだ。ワイの妄想だけかもしれん」
 開始から十分、電光掲示板が二十分を切ろうとしていた。参加者たちは苦戦してなかなか取れずにいた。そして遂に、金髪少女は動き出した。
 向かったのは一台の連続可能時間を過ぎたすぐ後の台だった。諦められたその台に金髪少女は挑戦する。無言で機械のようにアームを動かすボタンを操作する。まるで流れ作業のベルトコンベアのように景品の位置を少しずつ変えていく。金髪少女はどのように操作したらいいのか最初からわかっているかのように迷うことなく操作し続ける。さっきまで悪戦苦闘していた人が嘘のように景品を難なくゲットしてしまった。金髪少女が取ったのは今回最も点数が高い十点の景品である。その後、十分で計三個取ってしまった。連続可能時間が過ぎてしまい、金髪少女は次の台へ。時間は後、十分残っている。この調子で小物を狙っていき、制限時間の終了を知らせる合図が出た。
「はい! 終了! プレイを止めてください」
 瀬古の止めで参加者は動きを止めた。スタッフが駆け寄り、それぞれの合計得点を計算する。
「結果が出ました。合計点数三十三点獲得。Aブロック代表は……柊(ひいらぎ)祐奈(ゆうな)さんだ!」
 瀬古は金髪少女に手を差し伸べる。なんと金髪少女は代表に選ばれてしまった。他の参加者と比べてずば抜けた点数をたたき出してしまったのだ。
「柊祐奈ちゃんか。良い名前だな」
 神谷は代表に選ばれたことよりも名前の方に興味がいっている様子である。神谷並に見せる彼女の実力はなんなのだろうか。僕は柊祐奈の存在が大きく見えた。
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