今日もきっと8限目まで

佐野真

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4限目

淳くん

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メッセージのやり取りが続き、部活中に会話することも増えてきた今日この頃、駐輪場で淳くんに出くわした。

「こま、おつかれ!」
「あ、淳くん。おつかれさま。」

挨拶だけ交わすと、淳くんは自転車を引いて駐輪場の出入り口へ向かって行った。
私も自転車を探そう。疲れ切った身体に気合いを入れる。やっと見つけた自転車のカゴに鞄を入れ、お母さんに今から帰る、とメッセージを送った。
体重をかけながら自転車を引く。他人のものと間違えたかと思うくらい重い。今すぐ捨てて帰りたくなったが、なんとか駐輪場の出入り口まで来た。

「途中まで送ってくよ。」

そこにいたのは、淳くんだった。
待っててくれたの?という言葉が出そうになったが、その言葉はなんだか違う気がして口を閉ざす。
淳くんは続けて言った。

「ほら、メッセージで家の方向聞いたじゃん。俺も途中まで同じだから、一緒に帰ろ。」

なぜここにいるのか、なぜ一緒に帰るのか、色んな思いが押し寄せてきて頭が混乱する。
うん、とだけ答えると、2人は自転車を漕ぎ始めた。

「あぁー今日も疲れたー!こまは?」
「私も疲れた!けど和も香も少しずつ仕事覚えてくれてるし、楽しいよ。」
「そっか。俺たちはマネージャー事情よくわからないけど、いつも色々サポートしてくれて本当に感謝してる。」
「淳くんて、いつもすごい感謝してくれるよね」

笑って言うと、いや冗談じゃないからと少し怒られた。その後も部活の話がメインだった。淳くんのキャプテンとしての悩みを聞いたり、後輩マネージャーの話をしたり。特殊なクラスに在籍する私と淳くんは今までもこれからも同じクラスになることはないので、普通クラスの子達の話を聞いたりもした。

あっという間に私の家の前に着くと、なんとなく2人とも自転車から降りて、立ち話を始めた。30分くらい経った頃、脚に痒みを感じる。まだ暑さが残っているので、きっと蚊だろうと思い、下を向いた。
そして次に身体を起こした時、目の前は真っ暗だった。一瞬何が起きたのかわからなかったが、強い力を両腕と背中に感じてやっと気付く。私は今、淳くんに抱きしめられている。

「ちょっと!」

思わず、というよりも確かにどうにかしなければ、と腕を払おうとした。部内恋愛禁止、その言葉が頭をよぎる。
全然動かない。高校生の力の差を恐怖と共に感じた。
それでももがき続ける私に、淳くんは言った。

「いいから!今だけ、今だけだから。あと30秒だけこうさせて。」

初めてみる彼の姿に私は抵抗するのを止めた。
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