今日もきっと8限目まで

佐野真

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夏の暑さがなくなって比較的過ごしやすくなってきた9月、私と明は初めて喧嘩をした。
原因は正直わからない。原因という堅苦しいものよりきっかけという方が適切だと思う。それに喧嘩というより単に気まずい時期が来た、それだけのはずだ。
きっかけは、ほんの些細な事だった。

「えぇーやだよ」
「いいじゃん、明ちゃんお願い!」
「えー?どうしようかなぁ…」

また始まった、そう思った。
入部当初から明に思いを寄せる翔くんが、どうやら今日も明に言い寄っているようだ。ここ最近よく翔くんと明が話しているのを見かける。初めは特に気にすることもなかったが、練習が終わって片付けをしている最中にそれが始まるので、明ができなかった分の仕事は私がするようになっていた。
そんな日々が続き、私は疲れが溜まっていたのだと思う。翔くんに言い寄られ、まんざらでもなさそうな明の態度に嫌気がさした。この時直接言葉にして思いを伝えるべきだったのかもしれないが、私はイラついた態度をとることしかできなかった。故意にとったわけでは決してないが、和と香が気を遣うくらいには明らかだったのだろう。

「明とはどうよ?」
「相変わらずだよ。私に気遣ってるのかなぁ…」
「まぁ正直、こまの気持ちわからなくもないけどね。
明、可愛いじゃん。それなのにそんな態度とったらそりゃ部員だって好きになるだろうし、明だって好かれるのに嫌な気しないでしょう。」

練習が終わって部室に戻って来た巴に、明の相談をしている。
あれから1週間、私と明は相変わらずぎこちない。

「私もさ、どっちかっていうとこまの側だから。柑はよく部員とおしゃべりしちゃうし、実に任せられない仕事もあるからその分は結局私が1人でやらなきゃいけなくなる。そりゃイラつくよ。」
「マネージャーって、ある程度タイプ別に分かれるのかもね。」

同じような悩みを抱え、クラスメイトでもある巴とは気兼ねなく話ができる。明と柑には少し申し訳ないが、2人に関する愚痴を言い合えるのも貴重な時間だ。

その時、スマートフォンの通知を知らせるバイブレーションの振動を感じた。

[おつかれ。もう帰った?まだなら一緒に帰ろ]

淳くんからのメッセージだった。
それを見た瞬間、今度は巴に気まずさを感じた。

[おつかれさま。まだ部室だよ、帰ろ!]
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