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第1章 はじまりの村
第38話 回復魔法
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数分後、俺達は受付広間の裏側から通じているギルド寮の一部屋に案内されていた。
そこは俺が使っているような一人用の小さな部屋ではなく、多人数が一気に集まれるような大部屋だ。
そこに入った瞬間、俺は思わず鼻を塞ぐ。
──強烈な血の臭いだ!
「これはっ……こんな……」
「くっ……」
アイネとスイも表情をゆがめ顔をそらす。俺もその光景を直視することは耐え難かった。
この部屋にも五人程の冒険者と思われる男達が横わたっている。
しかし、その傷の度合いは先の受付広間にいた者達とはくらべものにならない程深い。
腕や足を失った者、体の半分近くが黒焦げになっている者、体の中心部分を血に染まった包帯でぐるぐる巻きにされ白目をむいている者……
吐き気を催すような異臭と、悲痛なうめき声。
その傍らで受付広間にいる者達と同じぐらいの軽傷で済んだと思われる二人が必死に彼らの手当てを行っている。
どちらもトーラの村で見る人間としては比較的若く二十代後半といった印象を受ける。
一人は普通の人間だったがもう一人は狐の獣人族だ。
──あれ、なんか見覚えがあるぞ?
「師匠っ、どうかされましたか?」
その二人も俺達に気づいたようだった。
と、顔を見て確信する。この二人と俺は会ったことがある。
前に俺を差別主義者だと言って絡んできた二人組だ。
「あ、こんにちは……」
これは気まずい。
しかしタイミングがタイミングなだけに、俺は気づかないふりをしてぺこりと頭をさげた。
「……ん、お前はっ!?」
だがそれも無駄に終わる。
獣人族の男が俺を指さすと魔物でも見たかのような嫌悪の表情を見せた。
「あっ、あんたら……!」
「……こんにちは」
スイとアイネも気づいたようであからさまに嫌悪感を顔に出している。
「なんだ、お前らすでに顔を知っていたのか」
若干、険悪になりつつある空気に、一人だけ状況を理解していないアインベル。
「知っていたもなにも! こいつらはっ……!」
「アイネ、今言うことじゃない」
スイがアイネの体の前に腕をまわしアイコンタクトを送る。
少し眉をひそめるアイネであったが、納得はしているようだった。
悔しそうに唇を結んでいるがそれ以上は何も言葉を続けない。
「……まぁよい。こやつらの回復を頼めるか?」
少し居心地が悪そうにしながらもアインベルは俺に視線を送ってきた。
俺はそれを見て一度首を縦にふる。こんなところで喧嘩をするよりも怪我に苦しむ人たちをそれから解放してやる事の方が先だということは、俺にだって分かる。
「やってみます」
もう一度ヒールウィンドのエフェクトをイメージする。
先ほど、生で魔法が発動する瞬間を目の当たりにしていたため簡単に発動させることができた。
俺の足元から魔法陣が出現し拡大。エメラルドグリーンの光が風のように舞い、目の前の二人と、横わたる冒険者達の体を包む。
「っ! な、なんだ、こいつ!?」
その光景に二人の驚愕した声が響く。
彼らの姿を確認するに、その傷は完全に言えているようだった。
だが問題は重症を負った者達の方である。
あまり、その傷を直視したくはなかったがそんなことを言っている場合ではない。
俺はおそるおそる、横わたる冒険者達へと視線を移した。
「……あれ? ここは?」
直後、俺は安堵のため息をつく。
包帯や服についた血が痛々しい外観を作り出していたものの、どうやら傷は完全に言えているようだった。
黒焦げになっていた者は皮膚の色が戻っていく。逆再生されたビデオでも見ているような光景だった。
手足を失っていた者達もその手足を取り戻していく。光の粒子が集い、手足の形を構成。一瞬強く光り輝いた後にそれが消滅すると、そこには何事もなかったかのように消えていた手足が復活していた。
「お前たちっ!」
そんな彼らにアインベルが駆け寄っていく。
その体に触れ、傷が癒えているかどうかを確認しているようだった。
「四肢の再生までされているとは……この回復量から察するに修道士としてレベル70……いや、80は……まて、100を超えていることも……まさか……」
「なんて凄まじい回復魔法っ……こんなの、私も見た事ないです……」
傷を負っていた者達も目を丸くしている。
状況が理解できていないようで、手足を失っていた者達はアインベルの呼びかけにも答えず復活したそれを動かしながらまじまじと見つめているだけだった。
「ふわぁ~! 新入りさん、マジぱねぇっす。やりぃっ」
ポンと肩を叩きながらアイネが笑顔で俺を見上げてくる。
少し照れくさくて俺は一言あぁ、と答えながら視線をそらしてしまった。
「お前っ……一体、何者なんだ……?」
と、逃げるように視線を移した先にいた二人組が俺の事を睨んでいる姿を確認してしまう。
少し気分が落ち込んだ。喧嘩なんてしたくないのだが……
とりあえずその問いかけに対しては答えようがないので俺は頭を下げてごまかすことにした。
「えっと、分からないんです。本当に……」
「はぁ?」
呆れたように男が俺を睨んでくる。
ぐさり、と胸に棘がささるような感覚がした。
我ながら小心者であると、彼とは別の意味で自分に呆れてしまう。
「ちっ、借りを作ったと思うなよ、魔術師がっ!」
獣人族の男が俺をぐっと睨み付けながらそう言い放つ。
眉間にしわを寄せ、拳を強く握りしめている。
──これは、あまり刺激しない方がよさそうだな。
そんなことを考え沈黙を貫いているとアインベルがこちらに近づいてきた。
「これっ、それが恩人に対する態度か。新人相手だとしても礼儀は尽くせ」
「くっ……」
師匠の言葉には逆らえないのか、二人は顔をゆがめながらもぺこりと頭を下げる。
つい反射的に俺もそれにあわせて頭をさげてしまった。
そんな俺を見てさらに悔しそうに顔を歪めると、二人は横わたっていた冒険者達に視線をうつす。
……傷が癒えていることを確認したのだろう。一通りその姿を確認すると二人は舌打ちをしながら部屋から出て行った。
「なんすかっ、あの態度っ! 父ちゃんもなんであんなヤツら弟子にとったんすか!」
二人が出て行った扉に向けてアイネは威嚇のポーズをとる。
「……すまなかったな、ヤツには少々事情があっての……後で、ワシから言っておく」
それに対し、アインベルは返す言葉がないようで申し訳なさそうにするだけだった。
そんな彼の態度に敵意を削がれたのか、アイネはため息をついて表情を緩める。
──事情、か。そういえば彼らは気になる事を言っていたな。
「差別ですか」
「知っておるのか?」
俺の言葉にアインベルが目を見開く。
「いえ、前に……」
それに対して俺は首を横に振ることしかできない。
だがどうやって伝えていけばいいのだろうか。
対応に困っているとスイが助け舟を出してくれた。
「前にあの方々が彼に絡んできたことがあったのです。その時に魔術師は差別主義者であると……彼自身はそんなことはしてないのに……」
──彼自身は?
少し気になるワードに耳が反応する。
だがそこに思考をよぎらせようとした瞬間、アイネの言葉でそれが遮られた。
「事情は知らないけどひどいっす! その場にウチらもいたんすよっ」
「む、むぅ……稽古には真面目に励んでおるのだが……す、すまん……そんなことがあったとは」
心底申し訳なさそうにアインベルが俺に頭を下げてくる。
だがそんな態度を見せられると俺の方が申し訳なくなってしまう。
「あの、俺は大丈夫ですから。彼らで怪我人は最後ですか?」
なんとか話題をそらそうとしてみる俺の気持ちが通じてくれたのか。
アインベルはふっと笑みを浮かべてくれた。
「うむ。本当に助かった。ありがとう……」
「い、いえ……」
「それでだ。少々報告を受けたいのだが場所を変えてもいいかね」
と、アインベルの表情が変わる。
──まぁ、そりゃそうだろうな。
アインベルも、そして俺達も状況を確認する必要がある。
当然異論があるはずもなく、こくりと首を縦に振った。
「助かる、ではついてきてくれ」
そこは俺が使っているような一人用の小さな部屋ではなく、多人数が一気に集まれるような大部屋だ。
そこに入った瞬間、俺は思わず鼻を塞ぐ。
──強烈な血の臭いだ!
「これはっ……こんな……」
「くっ……」
アイネとスイも表情をゆがめ顔をそらす。俺もその光景を直視することは耐え難かった。
この部屋にも五人程の冒険者と思われる男達が横わたっている。
しかし、その傷の度合いは先の受付広間にいた者達とはくらべものにならない程深い。
腕や足を失った者、体の半分近くが黒焦げになっている者、体の中心部分を血に染まった包帯でぐるぐる巻きにされ白目をむいている者……
吐き気を催すような異臭と、悲痛なうめき声。
その傍らで受付広間にいる者達と同じぐらいの軽傷で済んだと思われる二人が必死に彼らの手当てを行っている。
どちらもトーラの村で見る人間としては比較的若く二十代後半といった印象を受ける。
一人は普通の人間だったがもう一人は狐の獣人族だ。
──あれ、なんか見覚えがあるぞ?
「師匠っ、どうかされましたか?」
その二人も俺達に気づいたようだった。
と、顔を見て確信する。この二人と俺は会ったことがある。
前に俺を差別主義者だと言って絡んできた二人組だ。
「あ、こんにちは……」
これは気まずい。
しかしタイミングがタイミングなだけに、俺は気づかないふりをしてぺこりと頭をさげた。
「……ん、お前はっ!?」
だがそれも無駄に終わる。
獣人族の男が俺を指さすと魔物でも見たかのような嫌悪の表情を見せた。
「あっ、あんたら……!」
「……こんにちは」
スイとアイネも気づいたようであからさまに嫌悪感を顔に出している。
「なんだ、お前らすでに顔を知っていたのか」
若干、険悪になりつつある空気に、一人だけ状況を理解していないアインベル。
「知っていたもなにも! こいつらはっ……!」
「アイネ、今言うことじゃない」
スイがアイネの体の前に腕をまわしアイコンタクトを送る。
少し眉をひそめるアイネであったが、納得はしているようだった。
悔しそうに唇を結んでいるがそれ以上は何も言葉を続けない。
「……まぁよい。こやつらの回復を頼めるか?」
少し居心地が悪そうにしながらもアインベルは俺に視線を送ってきた。
俺はそれを見て一度首を縦にふる。こんなところで喧嘩をするよりも怪我に苦しむ人たちをそれから解放してやる事の方が先だということは、俺にだって分かる。
「やってみます」
もう一度ヒールウィンドのエフェクトをイメージする。
先ほど、生で魔法が発動する瞬間を目の当たりにしていたため簡単に発動させることができた。
俺の足元から魔法陣が出現し拡大。エメラルドグリーンの光が風のように舞い、目の前の二人と、横わたる冒険者達の体を包む。
「っ! な、なんだ、こいつ!?」
その光景に二人の驚愕した声が響く。
彼らの姿を確認するに、その傷は完全に言えているようだった。
だが問題は重症を負った者達の方である。
あまり、その傷を直視したくはなかったがそんなことを言っている場合ではない。
俺はおそるおそる、横わたる冒険者達へと視線を移した。
「……あれ? ここは?」
直後、俺は安堵のため息をつく。
包帯や服についた血が痛々しい外観を作り出していたものの、どうやら傷は完全に言えているようだった。
黒焦げになっていた者は皮膚の色が戻っていく。逆再生されたビデオでも見ているような光景だった。
手足を失っていた者達もその手足を取り戻していく。光の粒子が集い、手足の形を構成。一瞬強く光り輝いた後にそれが消滅すると、そこには何事もなかったかのように消えていた手足が復活していた。
「お前たちっ!」
そんな彼らにアインベルが駆け寄っていく。
その体に触れ、傷が癒えているかどうかを確認しているようだった。
「四肢の再生までされているとは……この回復量から察するに修道士としてレベル70……いや、80は……まて、100を超えていることも……まさか……」
「なんて凄まじい回復魔法っ……こんなの、私も見た事ないです……」
傷を負っていた者達も目を丸くしている。
状況が理解できていないようで、手足を失っていた者達はアインベルの呼びかけにも答えず復活したそれを動かしながらまじまじと見つめているだけだった。
「ふわぁ~! 新入りさん、マジぱねぇっす。やりぃっ」
ポンと肩を叩きながらアイネが笑顔で俺を見上げてくる。
少し照れくさくて俺は一言あぁ、と答えながら視線をそらしてしまった。
「お前っ……一体、何者なんだ……?」
と、逃げるように視線を移した先にいた二人組が俺の事を睨んでいる姿を確認してしまう。
少し気分が落ち込んだ。喧嘩なんてしたくないのだが……
とりあえずその問いかけに対しては答えようがないので俺は頭を下げてごまかすことにした。
「えっと、分からないんです。本当に……」
「はぁ?」
呆れたように男が俺を睨んでくる。
ぐさり、と胸に棘がささるような感覚がした。
我ながら小心者であると、彼とは別の意味で自分に呆れてしまう。
「ちっ、借りを作ったと思うなよ、魔術師がっ!」
獣人族の男が俺をぐっと睨み付けながらそう言い放つ。
眉間にしわを寄せ、拳を強く握りしめている。
──これは、あまり刺激しない方がよさそうだな。
そんなことを考え沈黙を貫いているとアインベルがこちらに近づいてきた。
「これっ、それが恩人に対する態度か。新人相手だとしても礼儀は尽くせ」
「くっ……」
師匠の言葉には逆らえないのか、二人は顔をゆがめながらもぺこりと頭を下げる。
つい反射的に俺もそれにあわせて頭をさげてしまった。
そんな俺を見てさらに悔しそうに顔を歪めると、二人は横わたっていた冒険者達に視線をうつす。
……傷が癒えていることを確認したのだろう。一通りその姿を確認すると二人は舌打ちをしながら部屋から出て行った。
「なんすかっ、あの態度っ! 父ちゃんもなんであんなヤツら弟子にとったんすか!」
二人が出て行った扉に向けてアイネは威嚇のポーズをとる。
「……すまなかったな、ヤツには少々事情があっての……後で、ワシから言っておく」
それに対し、アインベルは返す言葉がないようで申し訳なさそうにするだけだった。
そんな彼の態度に敵意を削がれたのか、アイネはため息をついて表情を緩める。
──事情、か。そういえば彼らは気になる事を言っていたな。
「差別ですか」
「知っておるのか?」
俺の言葉にアインベルが目を見開く。
「いえ、前に……」
それに対して俺は首を横に振ることしかできない。
だがどうやって伝えていけばいいのだろうか。
対応に困っているとスイが助け舟を出してくれた。
「前にあの方々が彼に絡んできたことがあったのです。その時に魔術師は差別主義者であると……彼自身はそんなことはしてないのに……」
──彼自身は?
少し気になるワードに耳が反応する。
だがそこに思考をよぎらせようとした瞬間、アイネの言葉でそれが遮られた。
「事情は知らないけどひどいっす! その場にウチらもいたんすよっ」
「む、むぅ……稽古には真面目に励んでおるのだが……す、すまん……そんなことがあったとは」
心底申し訳なさそうにアインベルが俺に頭を下げてくる。
だがそんな態度を見せられると俺の方が申し訳なくなってしまう。
「あの、俺は大丈夫ですから。彼らで怪我人は最後ですか?」
なんとか話題をそらそうとしてみる俺の気持ちが通じてくれたのか。
アインベルはふっと笑みを浮かべてくれた。
「うむ。本当に助かった。ありがとう……」
「い、いえ……」
「それでだ。少々報告を受けたいのだが場所を変えてもいいかね」
と、アインベルの表情が変わる。
──まぁ、そりゃそうだろうな。
アインベルも、そして俺達も状況を確認する必要がある。
当然異論があるはずもなく、こくりと首を縦に振った。
「助かる、ではついてきてくれ」
応援ありがとうございます!
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