64 / 257
第2章 嫌われた英雄
第58話 プレゼント
しおりを挟む
ふと、スイのでも、アイネのものでもない少女の声が辺りに響く。
ここは馬車の上だ。俺達以外に人物など存在するはずがない。
……ないのだが、この声には聞き覚えがあった。
「えっ?」
スイとアイネが動きを止める。
それはそれで構わないのだが、二人とも一回離れてほしかった。
「やっほー。トーラから出ることになったんだね。まぁいつかそうなるかと思ったよ」
声の主が俺達の前に姿を見せる。
上からすーっと、俺の膝の上に降りてきた。
「こ、これはっ……! 妖精!?」
「うっそ、マジっすか!? ウチ、初めてみたっす」
スイとアイネは彼女を見て俺の膝に顔をぐっと近づける。
「二人とは初めましてだねー。ボクはトワだよ。よろしくねー」
そんな二人に少し照れくさそうに顔を赤くしながら答える妖精。
金色の半透明の羽に肩を露出させたワンピース、赤いポニーテールのフィギュアのような少女。
こうして姿を現すのは三度目だった。俺が一人でない時以外に姿をみせるのは初めてであることも含め、俺は内心かなり驚いていた。
「あ、どうも……スイです。よろしくおねがいします」
「ウチはアイネっす。よろーっす」
「ご丁寧にどーもー」
唖然としている俺をよそに三人(?)は自己紹介を始めている。
どこかキャピキャピした空間は男子禁制みたいな雰囲気をかもしだしており少し居心地が悪かった。
「ねー、どうしたの? ぼーっとして」
と、トワが視界に入ってきたことで俺は我に返った。
いつのまにかトワは俺の膝から、俺の顔の前にまで飛んできている。
「……いったい、どこにいってたんだ」
反射的にそんな疑問が口から出てきた。
自分でもびっくりするぐらい冷たい声で。
少しだけ空気が静まり返る。
正直、失敗したなとは思ったがあまり周囲の空気に配慮する余裕が無かった。
しばらくの間、俺とトワが牽制しあうように見つめ合う。
「アハハ。もしかしてボクの事、探してたり?」
その緊張を先にといたのはトワだった。
意図してなのかは分からないが緊張感のない笑みを見せている。
「そういう訳じゃないけど……」
思わず口ごもる。
トワはおそらく、俺がもともとこの世界にいたわけではないことをしっている。
得体のしれない不気味さと、トワの外見から受ける明るい印象が混ざっていて俺自身もトワにどのような感情を持っているのか分からなくなってきた。
「え、知り合いなのですか?」
「妖精さんと? マジっすか」
スイとアイネが見かねて俺に声をかけてくる。
「その、なんて話せばいいか……」
「アハハ。ボクが一方的に彼のことを追っていることが多かったからなー。困らせちゃってるみたいだね、ごめんね?」
右手を顔の前で立てつつ苦笑いをしながら謝るポーズをするトワ。
それを見て今までのトワとの会話を思い出す。
確かにトワは得体が知れない存在だ。
しかし少なくとも明確に悪意や敵意を俺に向けてきたことはなかった気がする。
むしろ前回はトワに助けられたのだ。あまり警戒しすぎるのも失礼な話しかもしれない。
「いや、それはいいんだけど。何か用があるのか?」
とりあえず、そうトワに問いかけてみる。
「えー!? なんか態度冷たくない? ボク、アイネちゃんを助けるために協力したじゃーん。ボク、ショックだよ」
──冷たいか?
逆に俺の方がショックだった。
冷たく思われるような声のトーンだったのだろうか。
「えっ、ウチ……?」
と、アイネが、訳が分からないと言いたげに首をかしげた。
だがトワはそれが目に入っていないようで俺から視線を外さないまま言葉を続けていく。
「まぁ、まだしっかりお話ししたこともないし仕方ないか……ま、それは置いといて。何の用かっていうと、ボクと友達になってほしいってことかな」
「友達……?」
「うわー、そんな露骨に警戒しないでよ。ボク、結構君の事気に入ってるからさ。寂しいよ?」
──別に露骨に警戒なんてしてないんだけどなぁ。
トワからするとそう見えるのだろうか。
トワと話す時に少し緊張しているのは否めないので仕方ないかもしれない。
やはり俺の友達を作る能力はスイやアイネに比べると大幅に劣っているらしい。
「む……」
「あはは、そんな顔しなくても。スイちゃんとアイネちゃんにも含めてプレゼントを持ってきたからさ」
「プレゼント?」
トワの言葉にアイネが興味を見せる。
するとトワはニヤリと口角をあげると両手を上にあげた。
「そ、これだよー。それっ!」
「うわっ!?」
そうトワが言ったのとほぼ同時に、俺の膝にドシン、と何かが落ちてきた。
唐突にあらわれたそれに俺達は息をのむ。
「これはっ……」
俺の膝の上には金色に輝く高さ五十センチ程にもわたる巨大な杯が置かれていた。
いったい、どこからこんなものが出てきたのか。不安定な足場にあり倒れそうなそれを両手で支えながら俺は改めてトワに視線をうつす。
するとトワは胸を張りながら自慢げに答えてきた。
「ジャンジャジャーン! 絆の聖杯だよっ」
「えっ!?」
「マジっすか!?」
トワの言葉に二人が驚愕の声をあげる。
一方、俺は意味が分からず彼女達の様子を見つめることしかできなかった。
絆の聖杯なんて単語も、やはりゲームではきいたことがない。
「ど、どうしてこれをっ……しかもこんな巨大なっ……!」
「でっかっ! こんなの持ってるなんてトワちゃんすごいっす!」
二人が出された金色の杯の中をおそるおそるといった感じで覗き込んでいる。
金色のピカピカの杯って見た目から高級感があるので俺もその気持ちはなんとなくだが分かった。
たしかにこんなものを目の前に出されたら傷つけてしまわないかビクビクしてしまうだろう。
……すごく適当にトワはぶん投げてきたように見えたが。
「なんですかこれ」
ここは馬車の上だ。俺達以外に人物など存在するはずがない。
……ないのだが、この声には聞き覚えがあった。
「えっ?」
スイとアイネが動きを止める。
それはそれで構わないのだが、二人とも一回離れてほしかった。
「やっほー。トーラから出ることになったんだね。まぁいつかそうなるかと思ったよ」
声の主が俺達の前に姿を見せる。
上からすーっと、俺の膝の上に降りてきた。
「こ、これはっ……! 妖精!?」
「うっそ、マジっすか!? ウチ、初めてみたっす」
スイとアイネは彼女を見て俺の膝に顔をぐっと近づける。
「二人とは初めましてだねー。ボクはトワだよ。よろしくねー」
そんな二人に少し照れくさそうに顔を赤くしながら答える妖精。
金色の半透明の羽に肩を露出させたワンピース、赤いポニーテールのフィギュアのような少女。
こうして姿を現すのは三度目だった。俺が一人でない時以外に姿をみせるのは初めてであることも含め、俺は内心かなり驚いていた。
「あ、どうも……スイです。よろしくおねがいします」
「ウチはアイネっす。よろーっす」
「ご丁寧にどーもー」
唖然としている俺をよそに三人(?)は自己紹介を始めている。
どこかキャピキャピした空間は男子禁制みたいな雰囲気をかもしだしており少し居心地が悪かった。
「ねー、どうしたの? ぼーっとして」
と、トワが視界に入ってきたことで俺は我に返った。
いつのまにかトワは俺の膝から、俺の顔の前にまで飛んできている。
「……いったい、どこにいってたんだ」
反射的にそんな疑問が口から出てきた。
自分でもびっくりするぐらい冷たい声で。
少しだけ空気が静まり返る。
正直、失敗したなとは思ったがあまり周囲の空気に配慮する余裕が無かった。
しばらくの間、俺とトワが牽制しあうように見つめ合う。
「アハハ。もしかしてボクの事、探してたり?」
その緊張を先にといたのはトワだった。
意図してなのかは分からないが緊張感のない笑みを見せている。
「そういう訳じゃないけど……」
思わず口ごもる。
トワはおそらく、俺がもともとこの世界にいたわけではないことをしっている。
得体のしれない不気味さと、トワの外見から受ける明るい印象が混ざっていて俺自身もトワにどのような感情を持っているのか分からなくなってきた。
「え、知り合いなのですか?」
「妖精さんと? マジっすか」
スイとアイネが見かねて俺に声をかけてくる。
「その、なんて話せばいいか……」
「アハハ。ボクが一方的に彼のことを追っていることが多かったからなー。困らせちゃってるみたいだね、ごめんね?」
右手を顔の前で立てつつ苦笑いをしながら謝るポーズをするトワ。
それを見て今までのトワとの会話を思い出す。
確かにトワは得体が知れない存在だ。
しかし少なくとも明確に悪意や敵意を俺に向けてきたことはなかった気がする。
むしろ前回はトワに助けられたのだ。あまり警戒しすぎるのも失礼な話しかもしれない。
「いや、それはいいんだけど。何か用があるのか?」
とりあえず、そうトワに問いかけてみる。
「えー!? なんか態度冷たくない? ボク、アイネちゃんを助けるために協力したじゃーん。ボク、ショックだよ」
──冷たいか?
逆に俺の方がショックだった。
冷たく思われるような声のトーンだったのだろうか。
「えっ、ウチ……?」
と、アイネが、訳が分からないと言いたげに首をかしげた。
だがトワはそれが目に入っていないようで俺から視線を外さないまま言葉を続けていく。
「まぁ、まだしっかりお話ししたこともないし仕方ないか……ま、それは置いといて。何の用かっていうと、ボクと友達になってほしいってことかな」
「友達……?」
「うわー、そんな露骨に警戒しないでよ。ボク、結構君の事気に入ってるからさ。寂しいよ?」
──別に露骨に警戒なんてしてないんだけどなぁ。
トワからするとそう見えるのだろうか。
トワと話す時に少し緊張しているのは否めないので仕方ないかもしれない。
やはり俺の友達を作る能力はスイやアイネに比べると大幅に劣っているらしい。
「む……」
「あはは、そんな顔しなくても。スイちゃんとアイネちゃんにも含めてプレゼントを持ってきたからさ」
「プレゼント?」
トワの言葉にアイネが興味を見せる。
するとトワはニヤリと口角をあげると両手を上にあげた。
「そ、これだよー。それっ!」
「うわっ!?」
そうトワが言ったのとほぼ同時に、俺の膝にドシン、と何かが落ちてきた。
唐突にあらわれたそれに俺達は息をのむ。
「これはっ……」
俺の膝の上には金色に輝く高さ五十センチ程にもわたる巨大な杯が置かれていた。
いったい、どこからこんなものが出てきたのか。不安定な足場にあり倒れそうなそれを両手で支えながら俺は改めてトワに視線をうつす。
するとトワは胸を張りながら自慢げに答えてきた。
「ジャンジャジャーン! 絆の聖杯だよっ」
「えっ!?」
「マジっすか!?」
トワの言葉に二人が驚愕の声をあげる。
一方、俺は意味が分からず彼女達の様子を見つめることしかできなかった。
絆の聖杯なんて単語も、やはりゲームではきいたことがない。
「ど、どうしてこれをっ……しかもこんな巨大なっ……!」
「でっかっ! こんなの持ってるなんてトワちゃんすごいっす!」
二人が出された金色の杯の中をおそるおそるといった感じで覗き込んでいる。
金色のピカピカの杯って見た目から高級感があるので俺もその気持ちはなんとなくだが分かった。
たしかにこんなものを目の前に出されたら傷つけてしまわないかビクビクしてしまうだろう。
……すごく適当にトワはぶん投げてきたように見えたが。
「なんですかこれ」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,355
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる