あの夏の嘘つき

suezu

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第3章 夏がはじまる

部屋に案内する

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「うわっ。すごっ。千尋さんって実は勉強家なんですね。」
雑然と本棚に並んだ技術書と参考書と机の上に開きかけの教科書を見てそう思ったのだろう。
「実は、って何だよ。椅子が一つしかなくて申し訳ないけど、とりあえずここ座って。」
机の前の黒いゲーミングチェアのクルリと回転させて涼に座るように促した。背中をすっぽりと支えてくれるチェアは、この部屋で唯一こだわったものだ。
「やっぱ、理系の部屋は違うなぁ。頭よさそう。すごいな。」
「ただ、使うものを並べてるだけだって。」
おしゃれなインテリアも色のついた家具もない。時計すらない。黒い机の上にはデュアルモニタのノートパソコンと、無線の静音キーボード。コード類はまとめてバンドで留めてある。昨日の夜、脱ぎ散らかしたままの黒いシャツを脇に寄せ、千尋はベッドに腰をかけた。
部屋だけ見ると、チャラさも何もない。色味がないシンプルな部屋だ。

誰かを部屋に入れるなんて想像もしてなかったから、この部屋は「チャラ男」仕様には、まるでなってない。どう見ても、ゲームオタクかプログラミングオタクの部屋にしか見えないだろう。
きっと涼も千尋と部屋のイメージが違うと感じたのだろう。
「千尋さんって、どうして理工学部に進んだんですか?」
まだ物珍しそうに涼が部屋のあちこちを眺めている。
「それは普通に得意科目が理系ってだけ。」
「それってすごいですよね。」
「すごくはないけど。…あとは、将来のことも考えてかな。できれば、リモートワークが出来る仕事につきたくて、そしたらプログラミングが出来たほうが有利だろ。」
「…そういうことか…」
それ以上説明しなくても、涼はだいたい察したようだった。

「あのさ、もうバレちゃってるから正直に言うけど、俺、病気持ちなんだ。ずっと付き合っていかなきゃいけない病気でさ、それで無理をしないように暮らしながら大学へ行ってる。それで、体調崩して講義を休むことも多いから家でも勉強しとかないと単位もやばくなるから、勉強できるときは勉強をしてる。4年で卒業したいからさ。」
「…はい」
「就職しても毎日会社に通えるとは思えないから、リモートワーク可っていう仕事がいいだろ。だったら、IT系のほうが有利だから、理工学部を選んだんだ。」
「ということは大学に入る前から病気だったんですか?」
涼が少し驚いたように言った。
「生まれてからずっと病気。もうすぐ21年だな。」
「生まれた時からって…」
「うん。小さな頃は点滴したり薬飲んだりしてたけど、小学生の時に心臓の手術をした。それでかなりよくなったけど、でも完治してるわけじゃないから、ずっと薬は飲み続けてて、無理な運動やストレスはダメ。」
「心臓が悪いんですか?」
「いや、本来は心臓じゃなくて、血液の病気。でも、心臓に瘤みたいなのが出来ちゃったから、心臓の手術をして、少しは良くなったんだよ。でもさ、あんま学校には通えてなくて、実はさ、まともに学校に通えてるのって大学が初めてなんだ。まともって言っても、普通の人にしては欠席しがちで、いい加減なヤツだけどさ。」
自分で自分を茶化すように言うと、涼が真剣な視線を千尋に向けた。

「でも、千尋さん、わざと、いい加減なヤツにみせてますよね。」
「うん?」
「啓介先輩が合コンの時に、千尋さんのことをチャラいって言ってましたけど。」
「まあ、俺のことをチャラいって最初に言い出したのは啓介だから。」
「でも、俺は、千尋さんは真面目で、すごく気遣いをする人だなって、最初っから感じたので。」
涼はじっと千尋を見たままだ。
「なんでそう思った?」
「昨日の合コンで、みんなの名前を覚えようとしてたでしょ。」
「名前?」
「ほら、俺が名前言ったら、「工藤涼くん」って繰り返してて、女の子たちが名前を言った時も小声で繰り返してて、この人、名前を覚えようとしてるんだ、すげえなって思いました。千尋さんは、みんなの名前覚えてるでしょ?」
言われてみればそうだった。
「だって初めて会う相手は3人だけ、あ、涼も含めて4人か。それだけだから、覚えるだろ。普通。」
「いや、俺は女の子の名前は一人もわからないです。はじめっから覚える気もまるでなかったし。」
「そりゃ、モテるヤツはそういうものだろうな。」
「はじめは千尋さんが女の子を落としたいから名前を覚えてるのかなって思ったけど、千尋さんは、女の子に話かけられても、まるで興味なさそうだから、違うなって。」
確かに、下心は1ミリもなかった。そもそも合コンだって知らなかったわけだし。
「でも、きちんと相手の話は聞いてて、啓介先輩に「チャラい」って言われたから、あえてそんな感じで会話で返してたでしょ。髪をかき上げた時に見えるフープピアスもブレスレットも、あえてチャラい設定でしょ。やってることと中身が全然違うじゃん、ってそのミスマッチが不思議だったから、わかったんです。」
「何を?」
「千尋さんはあえて、計算してチャラく見せてるって。」
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