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★勇者さま
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おトイレの出来事はママには言えません。
ママが怒るでしょうし、兄さんにも伝わり、最悪惨劇。勇者さまが斬られてしまう。
新聞のローカル面の見出しに、『受験生、日本刀で刺殺される』と載せられ、あたしとママは牢獄に入れられた兄さんの出所を待ちつつ、犯罪者の身内としてひっそりと暮らすのでした。
――嫌です。
嫌です嫌です嫌です嫌で――すっ!
素敵な出来事は絶対に内緒なのです。
◆
その夜。
お部屋を真っ暗にしてベッドに入りおトイレの出来事を思い出していました。
裏ももに触れていてた勇者さまのお膝。少し伸びたお毛々がチクチクとこそばゆいような、気持良いような……。
後ろから抱きしめられながら、両手で口を押さえられた息苦しさ。凄い匂いの排便。初めてみたおちんちん。そして山柿さまの恐ろしいお顔。
全てが頭の中をぐるぐる回って、ベッドで芋虫のようにうねうね身悶えしました。
疲れて、じっと窓の外の輝く星たちを見つめます。
――なんと、はしたない。
ダメ。おかしくなったの、壊れてしまったの。このままじゃレディになれません。
レディは、ママのように凛とカッコ良く、怖い物を怖がり、気持悪い物を気持ち悪がり、そして礼儀正しくお淑やかな人間なのです。
レディを目指すのは大変だけど、あたしは立派なレディにならなければいけません。亡くなったパパの希望でもあったらしいのです。
そして、もっといけないのはこの胸の奥、ずきずきとする痛みと動悸。正常な身体とは思えません。
何かの病気? もしかして乳ガン?
そうなら大変。命の危険があります。乳ガンは胸の大きさに関係なくかかるという、子供のおこずかいに冷たい消費税みたいな病気。いくらあたしの胸が甘食だからって安心はできないのです。
だけど、痛むのが勇者さまを思い出した時だけなのが変です。
痛みは、勇者さまと二人でおトイレを終えてからですから、うつされたのかも、病の菌を。
どんな病でしょう。山柿さまからだから、……やまが菌でしょうか。
お友だちの美咲から借りた少女漫画の初恋。
初恋をした主人公の女の子は、好きな男の子が近寄ると雷に打たれたような過激な反応をしたりして、いかにも漫画って感じの過大表現なのです。
当時、読んでて噴き出してしまい、嘘もほどほどにしときなさい、と笑い飛ばしたものです。
だけどまあ、漫画家も商売ですし、多少オーバーに面白可笑しくしないと売れません。厳しい世の中なのです。
その初恋漫画の主人公とあたしの症状がほぼ同じ。
かなりの高確率で《やまが菌》は初恋……。山柿さまとトイレで結ばれた時、お尻から感染したのでしょう。
仮説ですが、初恋も伝染病のひとつで、山柿さまのおちんちんから初恋が放射されていたのです。
そういえば漫画では《初恋は誰もが一度はかかる麻疹のようなもの》とされていました。
だとするとあたしを産んだママも、女の子にモテモテの兄さんも、誰かとトイレであんな事をなさったのでしょうか?
何食わぬ顔をして食事をしたりお話したりしていますが、あたしの知らない所でこっそり誰かとチクチクをしていただなんて驚きです。
山柿さまも初恋が伝染する物だと熟知していたはず。
軽はずみな行動はひかえるべきなのに、あたしのおトイレに入って来ただなんて……。
……あれ? あれあれ?
ちょっと待ってください。
だとすると、意図的にあたしに伝染したかったから?
勇者さまがどうして『あたしのトイレに入ってきたのか』が説明がつきます。
普通にトイレをするなら、あたしが出るのを待てばいいだけ。わざわざあたしをお膝にのせておっきいのをしたのは、初恋を伝染し、あたしを初恋モードにするのが真の狙い。あたしは故意に恋させられ、作戦通り勇者さまに恋してしまったのです。
どうなのでしょう。この考えが正しいのでしょうか。
都合良く決めつけているようにも思えます。
あたしって、相当の自惚れやさんかしら。
彼のような勇者さまが、小学三年生の子供を好きになるのという疑問も残ります。
でも……だけど、それ以外にあんな大胆なことするでしょうか。
1、彼は趣味で女の子のトイレを見たかった。
2、女の子を膝に乗せてトイレをしたかった。
3、純粋にあたしのことが大好きだから、計画的犯行。
1番や2番だったら、あたしがおしっこをした時に激怒しそうですが、しなかったのは、やっぱり答えが3番だから。もう、それしか考えようがありません。
いっゃあああぁぁ~~っ!!
いま顔がもの凄く熱く、カガミを見れば真っ赤な顔をしていることでしょう。
今度山柿さまがいらした時、顔を正面に見れるでしょうか。
だけどあたしは覚えています。
トイレから立ち去るとき、おっしゃられていた事。
――『ではまたね』と。
つまり再会の誓い。トイレでまたしましょうね、とチクチクの宣言をしたのです。
それって、いつ……。お勉強会はいつかしら。
あぁ、早く逢いたい。
あっ? この気持ちは初恋の効果なのでしょうか、それともあたし自身の気持ちなのでしょか……。
自分で自分の心が分からないなんて不思議です。
でもどうでもいい。
太ももをすりすりしながら、夜空を見つめました。
……あ。
「おちんちんの武器。分かんないままです」
ママが怒るでしょうし、兄さんにも伝わり、最悪惨劇。勇者さまが斬られてしまう。
新聞のローカル面の見出しに、『受験生、日本刀で刺殺される』と載せられ、あたしとママは牢獄に入れられた兄さんの出所を待ちつつ、犯罪者の身内としてひっそりと暮らすのでした。
――嫌です。
嫌です嫌です嫌です嫌で――すっ!
素敵な出来事は絶対に内緒なのです。
◆
その夜。
お部屋を真っ暗にしてベッドに入りおトイレの出来事を思い出していました。
裏ももに触れていてた勇者さまのお膝。少し伸びたお毛々がチクチクとこそばゆいような、気持良いような……。
後ろから抱きしめられながら、両手で口を押さえられた息苦しさ。凄い匂いの排便。初めてみたおちんちん。そして山柿さまの恐ろしいお顔。
全てが頭の中をぐるぐる回って、ベッドで芋虫のようにうねうね身悶えしました。
疲れて、じっと窓の外の輝く星たちを見つめます。
――なんと、はしたない。
ダメ。おかしくなったの、壊れてしまったの。このままじゃレディになれません。
レディは、ママのように凛とカッコ良く、怖い物を怖がり、気持悪い物を気持ち悪がり、そして礼儀正しくお淑やかな人間なのです。
レディを目指すのは大変だけど、あたしは立派なレディにならなければいけません。亡くなったパパの希望でもあったらしいのです。
そして、もっといけないのはこの胸の奥、ずきずきとする痛みと動悸。正常な身体とは思えません。
何かの病気? もしかして乳ガン?
そうなら大変。命の危険があります。乳ガンは胸の大きさに関係なくかかるという、子供のおこずかいに冷たい消費税みたいな病気。いくらあたしの胸が甘食だからって安心はできないのです。
だけど、痛むのが勇者さまを思い出した時だけなのが変です。
痛みは、勇者さまと二人でおトイレを終えてからですから、うつされたのかも、病の菌を。
どんな病でしょう。山柿さまからだから、……やまが菌でしょうか。
お友だちの美咲から借りた少女漫画の初恋。
初恋をした主人公の女の子は、好きな男の子が近寄ると雷に打たれたような過激な反応をしたりして、いかにも漫画って感じの過大表現なのです。
当時、読んでて噴き出してしまい、嘘もほどほどにしときなさい、と笑い飛ばしたものです。
だけどまあ、漫画家も商売ですし、多少オーバーに面白可笑しくしないと売れません。厳しい世の中なのです。
その初恋漫画の主人公とあたしの症状がほぼ同じ。
かなりの高確率で《やまが菌》は初恋……。山柿さまとトイレで結ばれた時、お尻から感染したのでしょう。
仮説ですが、初恋も伝染病のひとつで、山柿さまのおちんちんから初恋が放射されていたのです。
そういえば漫画では《初恋は誰もが一度はかかる麻疹のようなもの》とされていました。
だとするとあたしを産んだママも、女の子にモテモテの兄さんも、誰かとトイレであんな事をなさったのでしょうか?
何食わぬ顔をして食事をしたりお話したりしていますが、あたしの知らない所でこっそり誰かとチクチクをしていただなんて驚きです。
山柿さまも初恋が伝染する物だと熟知していたはず。
軽はずみな行動はひかえるべきなのに、あたしのおトイレに入って来ただなんて……。
……あれ? あれあれ?
ちょっと待ってください。
だとすると、意図的にあたしに伝染したかったから?
勇者さまがどうして『あたしのトイレに入ってきたのか』が説明がつきます。
普通にトイレをするなら、あたしが出るのを待てばいいだけ。わざわざあたしをお膝にのせておっきいのをしたのは、初恋を伝染し、あたしを初恋モードにするのが真の狙い。あたしは故意に恋させられ、作戦通り勇者さまに恋してしまったのです。
どうなのでしょう。この考えが正しいのでしょうか。
都合良く決めつけているようにも思えます。
あたしって、相当の自惚れやさんかしら。
彼のような勇者さまが、小学三年生の子供を好きになるのという疑問も残ります。
でも……だけど、それ以外にあんな大胆なことするでしょうか。
1、彼は趣味で女の子のトイレを見たかった。
2、女の子を膝に乗せてトイレをしたかった。
3、純粋にあたしのことが大好きだから、計画的犯行。
1番や2番だったら、あたしがおしっこをした時に激怒しそうですが、しなかったのは、やっぱり答えが3番だから。もう、それしか考えようがありません。
いっゃあああぁぁ~~っ!!
いま顔がもの凄く熱く、カガミを見れば真っ赤な顔をしていることでしょう。
今度山柿さまがいらした時、顔を正面に見れるでしょうか。
だけどあたしは覚えています。
トイレから立ち去るとき、おっしゃられていた事。
――『ではまたね』と。
つまり再会の誓い。トイレでまたしましょうね、とチクチクの宣言をしたのです。
それって、いつ……。お勉強会はいつかしら。
あぁ、早く逢いたい。
あっ? この気持ちは初恋の効果なのでしょうか、それともあたし自身の気持ちなのでしょか……。
自分で自分の心が分からないなんて不思議です。
でもどうでもいい。
太ももをすりすりしながら、夜空を見つめました。
……あ。
「おちんちんの武器。分かんないままです」
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