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千円札
しおりを挟むぶつかった橋を、山柿さまと彼女さんが探してくれましたが見つかりません。
「本当にここ?」
「はい……」
「どんなお財布?」
彼女さんがしゃがみ込んで訊ねました。
「あたしが画用紙で作ったお財布。綺麗な折り紙を貼っています」
30分は探したけど見つからない。つまり……、
「誰かに拾われたか……」
山柿さまが気の毒そうに呟きました。
それか下の川に落ちのかも。
川の流れは緩やかですが濁っていて、落ちたら全然わかりません。
二人も同じ思いでしょう、川を見降ろしています。
「お財布は大切な物だったの?」
心配そうな彼女さんに、首を横に振りました。
「そう、よかった。……じゃ、かわりに、これ……」
彼女さんがお財布から千円札を抜き取り、あたしに握らせました。
「探しても疲れるだけ、お財布がなくなったのは残念だけど、もう諦めたほうがいいわ。
これで別のお財布を買いなさいね」
彼女さんは優雅に微笑み、まるで女王様が揺るがない地位を自覚しているみたい。
最強の勇者さまの傍らに立つレディとして、絶対の自信が溢れているようにも見えます。
言われている事はもっともで、そうなのですが……。
じっと千円札を見つめました。
――ありがとう。
人に親切にされたら、お礼を言わないといけません。
レディでなくても誰だってそう。
でも……、それでも……。
「いい。返すこれ」
千円札を彼女さんの胸に押しつけました。
ちゃんと手に乗せなかったので、紙幣は舞ってハラリとコンクリートの地面に落ちました。
えっ、と驚いた彼女さん。
お金を戻した理由は自分でも分からない。
あたしは落ちた千円札を拾いもせず、謝りもせず、ただ黙ってスカートの裾をぎゅっと握ったまま、彼女さんが千円札を拾うのを見ているだけでした。
「やだわ。この子可愛い。いいのよ、気を使わなくても。これはお姉さんの気持だから」
貰えないこれ……。
貰いたくない絶対。
心の底から湧き上がる。
優しく彼女さんに頭を撫でられお金を戻され、勇者さまもうんうんと頷き、彼女さんの言動に優しさを見つけているよう。
あたしが可愛い?
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胸が苦しい、優しいのが、あざ笑っているように思える……。
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必死に冷静に努め、今度はお金を彼女さんの手に戻しました。
「でも、いいです。寝かせてくれて、ありがとうございました」
崩れそうな顔を見られたくなく、お辞儀をし、そのまま踵を返して走りました。後ろから呼ばれましたが、逃げるしか出来ません。
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