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★チクチク以上大人の遊び未満
しおりを挟む「そ、そうだね……」
「ズボンを脱いで、あたしを立たせて、一緒におトイレをしたでしょ」
「そそそ、そうだね……一緒におトイレ……」
「うん。一緒にしたおトイレなんだけど」
「一緒にしたおトイレ……」
勇者さまの鼻息が、あたしの顔にかかりました。
ごくりとツバを飲み込み、暑くもないのに額に汗をかかれ、はあはあと呼吸も荒く、おトイレで呪文を唱えていた時と同じです。
勇者さまは、おトイレ関係で興奮する体質?
「あの時……お兄ちゃんが大っきいのをしたら、あたしも……」
言いにくい。レディとしてあるまじき行為でも言わなきゃ。
「あたしもしたよね、オシッコを……お兄ちゃんのお膝に座って……」
「……、……」
「あれを黙ってて欲しい……」
「へ……?」
きょとんとされました。
どうしたの? 良く分からない?
説明が悪いのか、レディらしくない振る舞いを何度も言うのは辛いですが、
「トイレの事を……おもらしを黙ってて……。誰にも言わないで欲しい……」
「黙ってて欲しい……。本当に? 愛里ちゃんのママや岩田に黙っておくの? 本当に?」
真剣に何度も訊ねるので、あたしはこくこく頷きました。
恥ずかしいの分からないのかな?
お客さまにおもらしなんて最悪。
「二人だけの秘密にして欲しい」
「分かった……約束する。絶対に誰にも言わない」
勇者さまだったら話すはずないですが、それでも、はっきり言葉を聞きたかったのです。
肩の荷物が下りて、軽くなりました。
「ありがとう、お兄ちゃん……」
「僕だって愛里ちゃんにお願いしたじゃないか。同じだよ」
「うん……」
テーブルを挟んで山柿さまの出した小指と「じゃあ、約束」そう言ってゆびきりしました。
しーんと静かになったお部屋。
指切りで繋がった小指のまま。
怖カッコイイお顔が、近くにある。
爬虫類似のお目々がぱちくりして素敵。
沈黙は緊張のドキドキワクワクに変わり、手の平はぐっしょり。
あたしから小指を放さないから終わらないの?
でも勇者さまだって放しません。
どうしたの?
どうしちゃったのあたしたち?
くらくらしてダメ。
心を支配する呪文にかかった?
コーヒーの中へ何か入れた? そんな事を考えていると、
「ちょっと聖ーっ!」
1階からおばさまの声がしました。
はっとして指が離れ、緊張は消え、山柿さまは苦笑い。
「な……、なんか用があるみたい。待っててね」
「あっ! はい」
山柿さまはあたしを残し、お部屋を出てゆかれました。
ぽやーん、とするあたし。
なんだったんだろう……。
手を添えた左胸は、チクチクとは違った不思議な気持良さ……。
ふと、コーヒーを思い出し、急いで角砂糖とミルクをたっぷり入れ、優しくなったのを飲み干しました。
「ぷは――――っ!!」
強敵ボスを攻略した達成感と同時に少しの罪悪感。
戻った山柿さまに、何食わぬ顔をしてコーヒーを飲んだレディを振る舞うあたしは偽レディ。
裏技と言えば聞こえが良いですが、チートと同じ。でも仕方ありません。
やがて部屋に戻った山柿さまの手には、きらきらの色紙が貼られた画用紙。
あたしは息を飲みました。
「これ。愛里ちゃんのだよね」
差し出されたお財布。
山柿さまは覚えていたのです。
あの濁っているドブ川で、どうやって探したの?!!
受け取り急いで開けると、びよ~んと飛び出すムカデさんに感動!
欠損個所は無いし汚れも無い、ふるふるするゴム感も変わりない。
「あ、ありがとう……」
受験生なのに、探す時間は無いのに、あたしは彼女でもないのに、どうして優しいの?
「お兄ちゃん……っ!!」
勇者さまに思いっきり抱き、ぐりぐり顔を埋めました。
「ちょっとちょっと、愛里ちゃん!?」
よたよた後ずさる勇者さまは仰け反り、だけどあたしが放さないので――ばっふーん、と音を立てて、ふかふかのベッドに倒れました。
驚いてはいません。
昨日のパジャマ着彼女さんと同じ展開なだけです。
勇者さまがどう思っているかは分かりませんが、あたしの背中に回した手を放さないので、嫌がってはいないはず。
あぁ、これからどうなるの。
ついに……大人のお遊び、チクチク以上を、経験するのっ?!
初潮とかいう海水浴が来ていない身体ですが、胸レベル1の見習い冒険者ですが……、
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