一目ぼれした小3美少女が、ゲテモノ好き変態思考者だと、僕はまだ知らない

草笛あたる(乱暴)

文字の大きさ
208 / 221

☆ジャッジメント生放送

しおりを挟む

 新幹線がホームに入ってきたので、「分かった」とだけ岩田に伝え電話を終えた。
 岩田の言う通りだ。僕は言わなければならない。
 愛里の病気が治ってからでなく、愛里が個々に分かれている今の内に、いや、もっと早くに、告白しないといけなかったんだ。
 
 まだマークⅢは眠っている。
 声をかけたけど起きない。無理やり起こすのも可哀想なので、抱っこして乗車し、席のシートを倒してそっと座らせる。小さい胸が上下している。深い眠りだ。
 
「あれ、あいりんじゃないのか? そうだよ、あいりんだよ絶対!」

 その声に数人がこちらを見る。騒ぎ出す者もいる。スマホを向ける者が増えだしたので立ち上がった。

「撮影はご遠慮願います」

 舞台で発声練習もしていたので、車両の隅々までよく通った。
 殆どの人がいそいそと席に座ったが、止めない男が数名残っている。

「プライベートです。寝ているので、お静かに願います」

 近寄ってサングラスを取り、素顔を向ける。声に出してはないが、『止めろ』と念じて睨む。睨みあげる。
 ひっ! と小さい悲鳴があがった。潮が引くように、僕の周囲から乗客が散ってゆく。
 以前ほどではないが、怖い顔も使いようだ。
 申し訳なさそうに静まったのを確認し、僕は愛里の隣の席に腰を降ろした。

 
 3時間後、新幹線は広島に到着した。
 愛里は一度も起きることなくずっと寝ている。
 大丈夫だろうか。何度目か、額に手を添えてみるがやっぱり平熱だった。
 愛里の心の中で、なにか大変なことが起きているんじゃないだろうか。
 心の声で対話したとき、《実はこっちもピンチなの、勇者さま。愛里を先に助けてね♪》と、緊張感ゼロで、心の世界に無理やり召喚させられたが、直ぐにマークⅢにどつかれ、現実世界に引き戻された。
 結局なにがピンチだったのか分からず終いだ。
 セミ好きの愛里はいつも明るいから、心の世界で非常事態が起きてても分からない。天然気質だから尚さらだ。
 寝ているマークⅢの額に手を添えたまま、何度か心中で語りかけたが、反応はない。愛里の声は聞こえてこない。
 いまごろどうしているだろうか。
 困ってはいないだろうか。
 
 マークⅢをお姫様抱っこして新幹線ホームを出る。遠巻きに注目されつつ、待合場を進んでいると、胸ポケットの携帯が着信振動を始めた。
 近くの椅子に愛里を抱っこしたまま座って受ける。
 セナさんの表示。

『どう? そっちは』

「無事に広島についたよ」

『こっちは大変みたい。司会の綾小路がいないのよ』

「え?」

『あと15分で、ジャッジメントの生放送が始まるわ。どーすんのかしら、どうでもいいけどね』

「いないって、いつからだ?」

『AHHのスタッフに聞いたんだけど、綾小路と元K―1のお笑い芸人が、揃って眠り続けていたらしいの。坂本くんがやっつけたじゃない、あれからずっと爆睡だそうよ。
 綾小路は昼過ぎに目が覚めて、食事に出かけると言ったっきり行方不明。
 K―1芸人はいまだに爆睡中なのよ。医者に診てもらったんだけど、普通に正常。ただ寝ているだけだって。ちょっと信じられる? 24時間も寝ているのよ』

 僕がやっつけたといっても、実際は愛里の不思議な力を借りたものだ。
 彼らが眠り続けているのは、不思議な力の影響によるものじゃないだろうか。
 そして、もしかしたら、いま僕の膝で眠り続けているマークⅢも。

『綾小路が不在だから司会は別の役者がするそうよ。あ……っ、スタッフが呼びに来た。スタジオに行かなきゃ』

「あっ、セナさん!」

『どうしたの?』 

「なんだか、嫌な予感がします。十分気をつけて……」

『なんだ。ウチを想像してムラムラしちゃったのかと思った。でも心配してくれてありがとう。ウチたちは絶対に大丈夫だから』

 言い残し、セナさんの通話は切れた。
 
 そうだな。肝心の綾小路がいないんだから大丈夫だろう。
 それに綾小路の本性を警察が知ったのだから、これ以上ヤツが仕掛けてくるとは思えない。
 肝心の愛里は、ヤツが狙っている愛里はここにいるのだから。
 
 待合場の商店の液晶テレビに、情報番組ジャッジメントのタイトルが流れた。
 いよいよ始まった。
 ビシッと黒の上下のスーツで決めた監督が椅子に座り、その両サイドにセナさん、月光優花ちゃん、羽沢ブラックが座っている。
 優花ちゃんとブラックはとても緊張しているぞ。
 
「さー、始まりました、ジャッジメント。今日は岩田監督の大ヒットドラマにスポットをあててみたいと思います」

 ふわあ~とマークⅢが目を擦りながら起き上がった。

「あれ……、ここ」

「よかった、愛里ちゃん! 目が覚めたんだ」

 状況がいまだ理解できてないって感じの美少女は、とろ~んとした表情で、たくさんの人々で賑わっている駅の待合場を見回し、それから僕を見上げ、顔を剣呑に歪めた。

「ンだぁ? なに抱っこしてんだキモ勇者!」

「えっ?」

 愛里はドンと僕を突き飛ばして床に降りた。

「あたしが寝ているのを幸いに、いろいろ触りまくっただろ。そうだろう。脚のとことか……、なんかベトベトするし……」

 犯罪者を見るような眼だ。

「変なこと言わないでよ愛里ちゃん。ほら、人が見ているって。良い子だから、早くこっちへ来てね。呉地に帰ろう」

「知らないおじさんに付いていってはいけないぐらい、キモ勇者の誘いに乗ったら超危ないっつーの!」

「いいなあ、いいなあ、まったく坂本くんは羨ましいのだよ」

 突然だった。
 人を小馬鹿にしたような、軽くていい加減な声が近くで聞こえた。
 えっ! と小さく悲鳴を上げ、マークⅢがダッシュで僕の側に来た。

「あわわわわ、なんで、なんで、アイツがいるっつーの!」

 マークⅢが怖がるのも無理は無い。
 改札口方面から、ハンディカメラを構えた男と、一度見たら忘れられない真ん丸い身体を揺すって元相撲取りが向かってくるその少し後ろだ。
 綾小路が浅黒い顔に深いシワを増やし、にちゃ~にちゃ~と下卑た笑みを浮かべている。
 付いてきたのだ。僕と愛里の後を、二人の部下を連れ東京からずっと。
 僕がどの新幹線に乗るのかを調べ、別車両に乗り込んで。 
 仕返ししたいのだろうが、ジャッジメントの生放送を無視してまでするか。
 綾小路の執念深さにゾッとする。
  
「さーっ、ラブラブしょうかね、マイハニーちゃん♪」

 綾小路が浅黒い手をヌッと伸ばした。

「うっぎゃ――――っ! キモ勇者、なんとかしろっ! コイツ片付けなさいっ! ボディガードでしょ、早く早く!!」

 マークⅢが僕の身体を揺する。
 分かってますって。
 
「何が狙いだ……」

「怖い怖い、睨まないでよ坂本くん。冗談だよ。君たちがジャッジメントに出ないって聞いたからね、わざわざ中継にきたのだよ」
 
「中継?」

 男が構えているハンディカメラのレンズが光った。
 これで収録しているっていうのか。 

 待合場の液晶テレビから「広島の綾小路さーん」と聞こえた。
 
「はい、こちら綾小路ですね。今夜は特別にあいりんと坂本氷魔の地元広島に来ていますよー。週刊誌でも論議されているお二人の関係について訊ねてみますよ」

 いつの間にか50歳のエロ司会者がマイクを片手に、カメラににこやかに対応している。
 突然湧いたテレビ中継に、通行人が脚を止めて、綾小路と僕たちに注目し始めた。

 僕たちの関係だって?
 マークⅢがぽけーっ口を開けている。
 今日のジャッジメントは、岩田監督のサスペンスドラマの特集のはずだ。
 その依頼だからこそ僕たちは東京まで行ったのだ。
 なのに本当の狙いは、僕たちの暴露? テレビ局でスタンバイしている監督たちは用無しか?
 酷すぎる。

「面白そうですね。広島の綾小路さんに、さっそく伺ってもらいましよう。その前に、お二人の経緯についてジャッジメントが独自にミニドラマを作成しました。観てもらいましょう」

《―― 坂本氷魔 真の狙い ――》

 とタイトルがテレビ画面に表示され、続いて高校の学生服姿の長身男性が岩田家のチャイムを鳴らした。
 間違いなく僕の役だ。
 だけどガラが悪いというだけで、肝心の顔は、出会い頭に女子を絶叫&気絶させるほどのインパクトはない。
 悪人がよくする薄笑いを浮かべ、心の声が入る。
『あの愛里って子が、可愛いくてたまらん! モノにしたい。愛里がトイレに入っているときに、襲ってやるか』
 兄の岩田の眼を盗み、愛里役の女の子がトイレに向かうのを横目で確認して尾行する。個室に入ったと同時に手で口を押さえてレイプ(モザイク付き)。嫌がる愛里を縄で縛ってSM調教し、性に目覚めさせる。
 表ではトキメキTVのあいりんを振る舞っているが、裏では坂本氷魔の性奴隷。
 ドラマはコメディ風に作成しているので、嫌味は感じないが、視聴者には《坂本氷魔=極悪人》に映るだろう。
 捏造(ねつぞう)話もここまでくると酷すぎる。悪意がある。

「……ネット写真は本当だったのか」

 野次馬の誰かが言ったのが最初だった。次々にデタラメな話しが飛び交う。
「へぇ~、あいりんがね」「純情そうに見えて……えへへへ」
 イヤらしい目でじろじろ見られ、マークⅢは小さくなって口唇を強く噛んだ。
  
「さー、ミニドラマを観て、坂本さんとあいりんさん、お二人にコメントを頂きましよう。広島の綾小路さーん!」

 ジャッジメントのサブ司会者が爽やかにいった。
 
 馬鹿にしてやがる。コメントなんか、あるか。
 もう十分だ。これだけ僕をコケにすれば気が済んだだろう。
 無視して歩き出そうかと思った。このままここにいると最悪の気分がもっと最悪になる。
 さっさと駅を出て、タクシー拾って実家へ直行だ。
 しかしだ。そうしたいのはやまやまなのだが、ここで僕が綾小路を無視すると、視聴者は『ドラマが真実だから、逃げ出したんだ』と騒ぐだろう。
 逃げ出せない状況じゃないか。

 綾小路が口元を緩めた。50歳のロリコンおやじは、嬉しくてたまらないって顔だ。
(どうだ? 僕の凄さがわかったかね、降参かね、うんうん、そうだろうそうだろう)
 言われているみたいだ。

 元相撲取りがのっしのっしと巨体を揺らしてやってきて、野太い声で耳打ちをした。

「部屋を用意している。ついて来い」

 僕たちの周囲はざわめく人々でいっぱいで、取材どころではない。
 どうする――。
 ヤツらの言う通り、別室へ行くか。
 行ったとしても、たぶん全国放送で汚いマネはしてこないだろう。
 それにこの場で逃亡するほうが、視聴者に印象が悪い。

 くそったれ! 
 自分が無性に腹立たしくなる。
 あれほど世間体は気にせず、愛里の為だけに行動しようと決めていたのに。
 芸能活動に未練はないと割り切っていたのに、こうやってカメラとマイクを向けられると、これから先に起きる事を予測してしまう。
 他人にどう見られるだろうか。実家の近所連中に噂されるのは辛い。愛里が学校で虐められるのは避けたい。
 不安でたまらない自分が、本当になさけない……。

 結局、綾小路のシナリオ通りってわけか。

「いいだろう。案内しろよ」

 サングラスを持ち上げて、睨んでやると、一瞬、元相撲取りが顔をしかめた。
 昨日の僕の攻撃を思い出したな。
 



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

処理中です...