上 下
124 / 182
3章

ノワンダール・ドガーム

しおりを挟む

 
 内区壁北口大門。 

 アハート事件以降、魔法無効化の札が通過壁に1メートル間隔で貼られ、2名だった門番も4名に増員、
 22:00から翌6:00の夜間は門が降り、通行ができなくなっていた。

 全ての通行者は水晶のような透明な板(魔結晶)に手をかざす。
 青く光れば、魔法使い確定。

 何処の宿に止まり、何日滞在するのか。
 入国の目的はなんなのか。
 どんな魔法を使うのか。
 事細かく調べ、禁魔札(きんまふだ)を身体に貼り付ける。
 キキン滞在中は許可なく禁魔札(きんまふだ)を剥がさない。
 もし無断で剥がした場合は重罪、即牢獄入り。
 
 内区に1人も無許可魔法使いを入れない厳しい決まりだね。
  
「ヒジカタさんOKです、どうぞどうぞ」

 ロングソートを背負った怖顔の大門兵がニコリと微笑む。

 俺は有名人だから顔パスだよ。
 魚屋ヒジカタでじゃないよ。

 2ヶ月前、
 公共の場でアハート事件を解決した俺は、異常に早過ぎる動きと、未確認能力(魔法使い)の届けが必要だとかで、キキン城に呼び出されたよ。
 
 城の内門をくぐると、剣を構えた兵士25名に取り囲まれた。
 いずれも人間離れした高ステータス値と、デーモン眼、魔法などのスキル複数持ち。
 名衛軍(めいえいぐん)のトップクラスだ。
 運良くステータス確認スキル持ちはいないので、俺の正体は分からない。

 だけど、この重々しい雰囲気。
 俺って犯罪者扱いだよね。

「魔法使いの判定をさせていただきます」

「はあ……」

 キキン城から離れ、面積500メートル四方の内区野外演習場に連行される。

「最強のデーモンを召喚してくれ」

 教官だろうね、デーモン眼スキルを持つ軍人さんから、指示を受けた。

「最強……」

「そうだ。ヒジカタ殿の最強デーモンを召喚し、最大呪文を披露してくれ」

 あ~。
 能力鑑定ね。
 俺がどれほど使えるか調べるわけだ。

「わかりました」

 さて、どうしょう。
 テロップに、◯◯◯・デーモンと名前がどんどん流れてくるけど……。

 1番最後のデーモンが1番強いみたいだけど、
 正直に召喚して、最強魔法をぶっ放され、地面が陥没でもしたら最悪だよね。

 かと言って、リトルじゃちょっとね。
 真ん中あたりの子にしとこうかな。

「……、……」

 暗雲が立ち込めだし、雷鳴の発生と同時にビビビビ……、と空気が震えだす。
 50メートル上空に、深緑色のサイに似た体長100メートルのデーモンが登場したよ。
 
「ノ……、ノワンダール・ドガーム・デーモン!?」

 ざわめく兵士たち。

「なんだ、それは?!」
「し、知らん、見たこともないデーモンだッ!」
「いるのか、本当にっ!」
「ああ、入道雲みたいにデカイ」

 デーモン眼を持つ兵が後ずさりし、つまずいて尻もちをつく。腰を抜かしたみたい。
 あ~、この子でも強すぎたわけね。

「い、いいだろう。ではヒジカタ。使える魔法を全て実演してもらう」

 ビビリ気味な兵に指示されたけど、困ったぞ。
 全ての魔法と言われてもなあ、この子を召喚したのは初めてだし、
 だいたい、言われた通りに実演したら、大変な事になりそう。

 デーモンは上空で揺らめいていて、俺の指示待ちみたい。
 しかし、怖い顔だなあ~。

『おーい。ノワンダールくんやーい。
 君はどんな魔法が使えるんだ?』

『……、……我は、ノワンダール・ドガームであるぞ。
 召喚されたのは500年ぶり。
 どんなモンスターかと思えば、人間ではないか?
 我の能力も知らずに召喚したとは、おもしろいあるじよの。
 とは言え、我を召喚出来るわけだから、タダの人間ではあるまい』

『ごめんね。勉強不足で。
 今度呼ぶときは、ちゃんとしとくから』

『ふ、ふふふふ……。おもしろい主よ、お前は。
 まあ、よい。
 我は、あらゆる魔法が生成可能であるわ。
 ただ、お主の能力しだいだがな……ふ、ふふふ』

『あっそ。
 じゃ、ポピュラーなヤツで頼むよ。
 この人たちが、ほどほどに納得する程度のヤツがいいな』

『我の魔法に、ほどほど、と言う言葉はないわ!
 全魔法、常に最強にして必殺!
 500年前に召喚された時は、
 レベル152・アズールダスコモン1匹と、レベル40~80・ガンバコモン100匹を、我のサンダー1発で葬ってやったわ』

 そうかそうか、
 この子も魔法に命をかける、俺と同じ職人魂(信念)を持つわけね。
 
『ごめんね。
 君の魔法を軽く見たわけじゃないんだよ』

 と丁重に謝っておく。俺が悪いからね。
 改め。
 
『火魔法の初歩。1番弱い魔法をお願いするよ。ロウソクくらいでいいから』

『うむ……火か……』

『俺の生命力消費は気にしなくてもいいから』

『……分かった』

 ノワンダール・ドガーム・デーモンのドラム缶みたいなしっぽが、俺の腹にブスッ、と刺さる。
 
『……ほう……人間ではないのか……、いや、
 ……ん? 
 んん?
 な……なんだ、お主の生命力値は……41,943,040。
 おもしろい。おもしろい。腕が鳴るわ、ふふふふふ』

 頑張らないで欲しいなあ。 

 ザッシュゥウウオオオオオオオオオ!

 名衛軍25名の目前、
 野外演習場100メートル四方に配置された標的が、廃屋が、雑木林が、一瞬で跡形もなく蒸発した。
 
 何が起きたのか――。
 ロウソク程度と言っていたのに、実際は100立方メートルの空間内に、1000℃の業火が発生したよ。
 たった3秒だったけど、高温に熱せられた空気が急上昇し竜巻が3個発生、暗雲が立ち込め、激しい豪雨になったね。

 兵士たちはびしょ濡れのまま立ち尽くす、身体が震える者もいる。 

「な、……なんてことだ……」
「信じられん」
「新しい魔法?」
「……いや、違う……ファイヤ……、魔結晶にはファイヤと表示されている」
「馬鹿な……、だいたいファイヤは――」

『火初期魔法《ファイヤ》はロウソクほどの火力だが、唱えるデーモンが異なれば、結果も異なる。
 繋がる主が、桁違いに強い場合はなおの事よ――』

 俺の能力がノワンダールくんの魔法を強化させたのか。
 100メートル四方の赤茶けた地面を、名衛軍たちが呆然と見つめていたよ。 

 
しおりを挟む

処理中です...