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3章
ノワンダール・ドガーム
しおりを挟む内区壁北口大門。
アハート事件以降、魔法無効化の札が通過壁に1メートル間隔で貼られ、2名だった門番も4名に増員、
22:00から翌6:00の夜間は門が降り、通行ができなくなっていた。
全ての通行者は水晶のような透明な板(魔結晶)に手をかざす。
青く光れば、魔法使い確定。
何処の宿に止まり、何日滞在するのか。
入国の目的はなんなのか。
どんな魔法を使うのか。
事細かく調べ、禁魔札(きんまふだ)を身体に貼り付ける。
キキン滞在中は許可なく禁魔札(きんまふだ)を剥がさない。
もし無断で剥がした場合は重罪、即牢獄入り。
内区に1人も無許可魔法使いを入れない厳しい決まりだね。
「ヒジカタさんOKです、どうぞどうぞ」
ロングソートを背負った怖顔の大門兵がニコリと微笑む。
俺は有名人だから顔パスだよ。
魚屋ヒジカタでじゃないよ。
2ヶ月前、
公共の場でアハート事件を解決した俺は、異常に早過ぎる動きと、未確認能力(魔法使い)の届けが必要だとかで、キキン城に呼び出されたよ。
城の内門をくぐると、剣を構えた兵士25名に取り囲まれた。
いずれも人間離れした高ステータス値と、デーモン眼、魔法などのスキル複数持ち。
名衛軍(めいえいぐん)のトップクラスだ。
運良くステータス確認スキル持ちはいないので、俺の正体は分からない。
だけど、この重々しい雰囲気。
俺って犯罪者扱いだよね。
「魔法使いの判定をさせていただきます」
「はあ……」
キキン城から離れ、面積500メートル四方の内区野外演習場に連行される。
「最強のデーモンを召喚してくれ」
教官だろうね、デーモン眼スキルを持つ軍人さんから、指示を受けた。
「最強……」
「そうだ。ヒジカタ殿の最強デーモンを召喚し、最大呪文を披露してくれ」
あ~。
能力鑑定ね。
俺がどれほど使えるか調べるわけだ。
「わかりました」
さて、どうしょう。
テロップに、◯◯◯・デーモンと名前がどんどん流れてくるけど……。
1番最後のデーモンが1番強いみたいだけど、
正直に召喚して、最強魔法をぶっ放され、地面が陥没でもしたら最悪だよね。
かと言って、リトルじゃちょっとね。
真ん中あたりの子にしとこうかな。
「……、……」
暗雲が立ち込めだし、雷鳴の発生と同時にビビビビ……、と空気が震えだす。
50メートル上空に、深緑色のサイに似た体長100メートルのデーモンが登場したよ。
「ノ……、ノワンダール・ドガーム・デーモン!?」
ざわめく兵士たち。
「なんだ、それは?!」
「し、知らん、見たこともないデーモンだッ!」
「いるのか、本当にっ!」
「ああ、入道雲みたいにデカイ」
デーモン眼を持つ兵が後ずさりし、つまずいて尻もちをつく。腰を抜かしたみたい。
あ~、この子でも強すぎたわけね。
「い、いいだろう。ではヒジカタ。使える魔法を全て実演してもらう」
ビビリ気味な兵に指示されたけど、困ったぞ。
全ての魔法と言われてもなあ、この子を召喚したのは初めてだし、
だいたい、言われた通りに実演したら、大変な事になりそう。
デーモンは上空で揺らめいていて、俺の指示待ちみたい。
しかし、怖い顔だなあ~。
『おーい。ノワンダールくんやーい。
君はどんな魔法が使えるんだ?』
『……、……我は、ノワンダール・ドガームであるぞ。
召喚されたのは500年ぶり。
どんなモンスターかと思えば、人間ではないか?
我の能力も知らずに召喚したとは、おもしろい主よの。
とは言え、我を召喚出来るわけだから、タダの人間ではあるまい』
『ごめんね。勉強不足で。
今度呼ぶときは、ちゃんとしとくから』
『ふ、ふふふふ……。おもしろい主よ、お前は。
まあ、よい。
我は、あらゆる魔法が生成可能であるわ。
ただ、お主の能力しだいだがな……ふ、ふふふ』
『あっそ。
じゃ、ポピュラーなヤツで頼むよ。
この人たちが、ほどほどに納得する程度のヤツがいいな』
『我の魔法に、ほどほど、と言う言葉はないわ!
全魔法、常に最強にして必殺!
500年前に召喚された時は、
レベル152・アズールダスコモン1匹と、レベル40~80・ガンバコモン100匹を、我のサンダー1発で葬ってやったわ』
そうかそうか、
この子も魔法に命をかける、俺と同じ職人魂(信念)を持つわけね。
『ごめんね。
君の魔法を軽く見たわけじゃないんだよ』
と丁重に謝っておく。俺が悪いからね。
改め。
『火魔法の初歩。1番弱い魔法をお願いするよ。ロウソクくらいでいいから』
『うむ……火か……』
『俺の生命力消費は気にしなくてもいいから』
『……分かった』
ノワンダール・ドガーム・デーモンのドラム缶みたいなしっぽが、俺の腹にブスッ、と刺さる。
『……ほう……人間ではないのか……、いや、
……ん?
んん?
な……なんだ、お主の生命力値は……41,943,040。
おもしろい。おもしろい。腕が鳴るわ、ふふふふふ』
頑張らないで欲しいなあ。
ザッシュゥウウオオオオオオオオオ!
名衛軍25名の目前、
野外演習場100メートル四方に配置された標的が、廃屋が、雑木林が、一瞬で跡形もなく蒸発した。
何が起きたのか――。
ロウソク程度と言っていたのに、実際は100立方メートルの空間内に、1000℃の業火が発生したよ。
たった3秒だったけど、高温に熱せられた空気が急上昇し竜巻が3個発生、暗雲が立ち込め、激しい豪雨になったね。
兵士たちはびしょ濡れのまま立ち尽くす、身体が震える者もいる。
「な、……なんてことだ……」
「信じられん」
「新しい魔法?」
「……いや、違う……ファイヤ……、魔結晶にはファイヤと表示されている」
「馬鹿な……、だいたいファイヤは――」
『火初期魔法《ファイヤ》はロウソクほどの火力だが、唱えるデーモンが異なれば、結果も異なる。
繋がる主が、桁違いに強い場合はなおの事よ――』
俺の能力がノワンダールくんの魔法を強化させたのか。
100メートル四方の赤茶けた地面を、名衛軍たちが呆然と見つめていたよ。
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