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赤ん坊

実力は

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 人間どもが、大魔界の魔物を呼び出そうとする。
 大魔界へのアクセス。いわゆる召喚だ。

 そのおり、たまたま偶然、大魔界で転移魔法を失敗した魔物とリンクすることがある。
 そのすべてが、命魂が小さい下位クラスより下の魔物。
 いわゆる雑魚魔だ。

 中位以上の魔物は、命魂が大きすぎて、人間界と大魔界を隔てる次元壁を超えられない。
 だから、下位より下の魔物だけが人間界に召喚され、魔王とか、魔帝とか呼ばれて人間どもから恐れられるらしい。
 
「そうか、そうか、あのデンダラー君がねえ。
 大魔王とは、出世したもんだー。
 でも50年も人間界にいて、完全支配できていないのはアレだけど。
 まあ、仲間を作って楽しそうだから、良かった良かった」

「貴様、俺たちの大魔王様を愚弄するとは……」
「ゆるせん!!」
「目ざわりだ。死ね。死んで償ってもらう」
「……ふっふっふっ、命乞いをしても無駄だぜ」

 1体のガーゴイルが不敵な面構えで両手を伸ばす。
 ほう~、魔法か。
 どれ、拝見させてもらおうか。

「暗黒の炎よ、敵を焼き尽くせ――」

「は?」

 自信満々で呪文を紡いでゆく。

「おいおい、まさかの唱和か? やれやれ」

 魔法を増幅させる手法の一つで、初心者が最初に教わるのが唱和だ。
 しかし、唱和中に攻撃されやすく、実際に戦場で唱える者を見たことはない。
 大魔界の魔物は、無唱和で出す。
 剣の居合いと同じで、無動作で繰り出す。
 やっても、せいぜい、技名を心に響かせるくらいか。
 
 しかし、どうだ。
 戦い慣れしているはずの魔軍兵が、わざわざ唱和をねえ。
 答えはただ一つ。
 このガーゴイルは魔物でありながら、魔力マナが乏しいからだ。
 悲しくなるほど低い魔力マナだから、増幅させないと繰り出せない。

 やれやれ、我ら魔族にとって、魔法は呼吸するように出て当たり前なのに。
 まあ、命魂が5cmという時点でマナを期待するほうが無謀か。
 
「灰になるがよいっ!! ファイヤーボ――――ルッッ!!!」

 直径2mの火の玉が、ゴードンの身体をすっぽり包んだ。
 
「ふーん。……増幅させて、やっとこれ?」
 
 消滅する。
 跡形もなく火の玉が消えた。

「な、なんで……」
「どうなってんだ?」

 ガーゴイルたちが揃って肩を落とし、口をあんぐりと開けている。 

「魔力吸収だけど、知らなかった?
 その程度の魔法だと全部吸われるだけ損だよ」

「ま、ま、ま……マナ、きゅうしゅう、だとぉ?!」

 人間界では使う者がいないのかな。
 
「どうせやるんだったら、これくらいじゃないと……」

 ゴードンが口を開けた。
 暗黒色に渦巻く口内から、光の破砲弾が、カッと放たれる。
 周囲が一瞬で眩い光に包まれ、遅れて熱波が拡散してゆく。
 大気が震える。空が揺れる。

「えっ! なな!」
「?? うわっ!!」
「ちょ、ま、あ、><?」 
 
 光の破砲はガーゴイルたちの5m横を通過して、爆炎を渦巻きながら広がり、10km先の活火山に直撃――、
 いや、山ごと飲み込んだ。
 それでも勢いは衰えず、大気圏外へと直線を引いて伸びてゆく。
 活火山だった場所は跡形もなく蒸発して消え、土と岩だけの丘になっている。 
 光の破砲が高温過ぎるがゆえ、僅か1分程度で火山が丸々消えてしまう。

「ななななななななな…………っ???」

「と、まあ。こんな感じだけど」

「デ、デビルドラゴンなのか、貴様?」

「ついさっき、産まれたばかりで、らしい、としか言えん」

 人間界のデビルドラゴンに、これほどのパワー魔法はないらしい。
 我自身の命魂がデビルドラゴンを支配したお陰で、能力が上乗せされたのだろう。
 大魔界の上位ボスなら、出せて当然なのだが。

 ガーゴイルがはっと我に返った。

「だ、大魔王様は?」
「あっ!! あそこにっ!!」
「……っ!」
「どうか、どうか、生きていてくださいっ!」

 3体のガーゴイルが泣きながら丘に急行した。
 
「うわっ、まさか、あの火山が、お前らのアジトだったわけ?
 先に言ってくれないと、いや~、悪い悪い」

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