ハッピーエンドに必要なもの

土田

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プロローグ

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一番古い記憶は、ただただおとぎ話が好きな、体の弱い男の子だった。
日がな一日ベッドの上で本を読み、そのおとぎ話にのめり込み、気が付いたら死んでいた。

その次からの記憶はとても面白く、必ず生前読んだおとぎ話の登場人物に生まれ変わるのだ。

白雪姫の女王に赤ずきんのおおかみ、桃太郎の鬼など、その性別や種族は様々で、そして全てが悪者だった。

もしかしたら夢だったのかもしれない。
病弱な"ぼく"が見た、楽しくも悲しい夢。

そしていくつかの夢が終わると、次は体の弱い、今度は女の子だった。
このときも、"わたし"は本を読み漁った。
今度はおとぎ話だけではなく、物語も。それも必ず悪者がいて、ヒーローやヒロインが悪者をやっつける話。
そしてある程度物語を楽しむとまた"わたし"は病気で死んでしまい、そこからはまた、悪者としての夢の生活が始まる。

平民から死物狂いでのし上がりある国を乗っ取ろうとする大臣に、人間に虐げられ悪さをするようになった悪魔、それから両親を殺され復讐のために力を手に入れた魔女。

当たり前だけれど、悪者にも過去はある。
おとぎ話の悪者だったときも、ちゃんと子供の頃からその生を生き、その生活のなかで悪いことをした。

そして、罰を受ける。
悪いことをしたら罰を受ける。
当たり前だ。

そんなことを繰り返し、何度目かの病弱な"ぼく"は、とある物語に出会った。
それは、今までと何ら変わらない、壮絶な過去から人を恨み悪者になった男を、ヒーローやヒロインがやっつける話。
この悪者はどんな罰を受けるんだろう、とワクワクしながら最後まで読み進めた。
しかし、その物語の悪者は死ななかった。


「確かに彼は悪いことをした。でも、それは彼だけのせいじゃない。彼をこうしてしまったのは、紛れもなく私たち。彼を悪だと言うのなら、悪を生んだ私たちもまた悪。だから、互いに手を取り合って、一からやり直そう。」


そういってヒーローは悪者の手を取り、悪者は許されたことに感激し改心してめでたしめでたし。
どこかスッキリとしないまま、その物語を最後に"ぼく"は死に、そして、その最後に読んだ物語の夢を生きることになった。

"ぼく"が読んだ物語の通り悪者、つまり"ぼく"は許されたのだ。
だけど、やっぱり納得がいかない。
どんな悪者にも過去はあるのに、まるで、今までの悪者たちを、"ぼく"の夢を、"ぼく"の生を、"ぼく"を、否定されたような気がした。
だから、"ぼく"ははじめて物語に逆らった。
だって、どう頑張っても改心なんて出来なかったのだ。

"ぼく"は、物語が終わる前に自ら命を断った。

気付くと、また病弱な"わたし"として生まれていた。
夢が一度きりだけだったのははじめてで、何だかとても不安になり、"わたし"は"ぼく"が読んだ物語をもう一度読み直すことにした。

あぁ、やっぱりこの方がしっくりくる。
あんな言葉で、あれだけのことをしでかした悪者が改心なんてするはずない。
経験したからわかる。

その物語の悪者は、最後に自ら命を断っていた。

それからというもの、"わたし"や"ぼく"は悪者が死なない話をたくさん読んだ。
どれもこれも陳腐に感じたけれど、仕方がない。
"わたし"や"ぼく"が、この物語たちをあるべき姿へ戻してあげなければならないのだから。


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