眠り姫は目覚めを希望しない【改題】

里瀬ふゆ

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都営バスで劇場へ

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 まことしやかに語られる噂は本当だろうか?
 自分に関わることなのに、まったくもって寝耳に水だ。

 実際私は眠りこけているわけだけど、意識はこうして人並み以上に動き回れているのだから、この話が本当ならば、お城のどこかですでに耳に入っていてもおかしくない。

 それに、誰かが私を助けにくると決まった日には、お母様が私の頬にそっと手を当てて言うのだ。

「マリアンヌ、今度こそやっと本物の勇者さまがいらっしゃるわ」

 お母様が私の寝室へやってきて、色々なお話をしてくださる時間は毎日大体決まっている。
 だから私は、その時間帯には必ず、ベッドに寝ている自分の体へ戻ることにしている。

 相槌一つ打つことができず申し訳ないけれど、私はお母様の愛情に満ちた声を聞くのが好きだし、何年も寝たきりの娘に一途に語りかけるお母様の言葉を、一言一句逃さず受け取りたいと思っているからだ。
 だからきっと聞き逃したはずはない。

 ということは、「シスペランコ歌劇団の花形役者が眠り姫に謁見をする」という話はまだ正式に決定したものではないのだろう。
 役者本人が本気でそう言っているのか、周りが勝手に言っているのかは分からないけど、とにかく噂が本当になってしまうことだけは阻止しなくちゃいけない。

 そこで私は、早速シスペランコ歌劇団の花形役者に会いに行くことにした。
 幸いまだお昼で、お母様が寝室に来る時間の「門限」までにはまだ余裕があるし、ここから劇場はそう遠くない。
 
 すっかり使いなれた都営バスを利用する。
 肉体を伴っていた頃には、身分が枷(かせ)となって乗ることができなかった公共の乗り物にも、今は誰に見咎められることもなく乗り放題だ。
 自由って素晴らしい!

 ちなみに、意識だけ自由に動き回れるというと、いかにも空でも飛べそうだけど、残念ながらいまだ鳥のように飛ぶことも、霧のようにさっと消えることもできない。
 移動手段は徒歩か、出発するバスや列車に勝手に乗り込むかだ。

 ここまで出てくるにしても、お城の寝室を抜け出て、何部屋も通り抜けては何段も階段を下り、大広間を通り抜けて城門をくぐって、以下省略だけど、まあ普通に時間を要しているってことだ。


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