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劇を観るならハッピーエンドがいい
しおりを挟むグレヴィアデンテ劇場へ着いた。
シスペランコ歌劇団が上演しているのは、古代神話を現代風に脚色して書かれた、男女の愛憎劇だ。
古代国エンジエヌドの若き王が、道に外れた恋に落ち、人生を転落していくという、暗くて救いのないストーリーだ。
それを世のご婦人方は、悲恋極まりないだの真実の愛だのといって感涙し、口々に役者たちの演技を賞賛するのだ。
私は彼女たちの話を盗み聞き、観に行きたくない劇だなあという感想を抱いていた。
だってねえ。作り話くらいは、ハッピーエンドが見たいじゃないの。
七年も寝たきりで、悲劇のヒロインを地でいっている私だ。劇を観るなら、楽しいものがいいに決まっている。
そう思っていたのは、どうやら間違いだった。
例の花形役者、エリオット・アーチボルドを見つけるために、上演の最中であった劇を観た私は、あっという間に彼らが演じる世界に引きこまれてしまったからだ。
夢中になって、目を皿のようにして観た。
勝手に途中入場したため、劇はもう終盤に差し掛かっていたけど、大体のあらすじは聞いて知っていたし、ストーリーより何より、目の前で動く役者からひたすら目が離せなかったのだ。
トーマス王役のエリオット・アーチボルドは、すぐに分かった。
なるほど、ご婦人方が熱狂的に騒ぐはずだと納得した。
背が高く、肩幅が広く、腰は引き締まり、手足がすらっとしている。精悍な美青年だ。
その整った顔を惜しげもなく醜く歪め、惨めたらしく悲恋を嘆き、己を呪い、神への報復を絶叫したところで、舞台の幕は落ちた。
エリオットの狂気的な演技の余韻に、場内は波を打ったように静まり返った。
その次の瞬間、湧き上がったのは拍手の嵐だ。
拍手と賞賛の声。観客全員が立ち上がり、カーテンコールが続く。鳴り止まない拍手に応えて、もう一度幕が上がり、役者たちが顔を見せてお辞儀をするというものだ。
私はお行儀悪く、途中入場の上に立ちっぱなしで観劇していたため、改めて立つ必要はなかった。
しかし、つい拍手をしてしまって、改めて悲しく思った。私は手のひらを打ち鳴らすことができない。
いくら思い切り叩いても、音は出ないのだ。痛くも何ともない。
話す声は誰にも届かず、手を鳴らすことさえできない私が、どうやってあのエリオットに伝えればいいのだろう。
眠り姫に関わるのは、よしたほうが身のためですよ、と。
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