眠り姫は目覚めを希望しない【改題】

里瀬ふゆ

文字の大きさ
5 / 15

十二人目は王子さまでした

しおりを挟む
「はぁ? なに言ってるの」

 彼女は眉間に寄せたしわを深め、私に言った。
 
 やった、聞こえてる! 私いま、会話してる!! 七年ぶりに、人と話してる!

「あの、どうも初めまして! わたくしはグレヴィス国の王女で、マリアンヌと言いますの」

「はぁ!? なにあんた、頭おかしいんじゃないの。この国の王女さまはねえ、もう何年も眠ってらっしゃるのよ。変な冗談言うと、しょっ引かれるわよ。この国の王様、すぐ処刑しちゃうって有名じゃない。コニクア国の王子でさえ処刑しちゃうんだからね」

 会話が成立している嬉しさが、しゅっと萎んだ。笑顔が凍りつく。
 この国の王様、というのは私のお父様に他ならない。悪い評判は遠くの外国にまで届いているようだ。
 それもそのはず。この人の言うことは事実だからだ。

 三年前。コニクア国の第二王子が、私を目覚めるさせることに挑戦して、失敗し、お父様に処刑されたのだ。
 十二人目の被害者だ。
 それまでにすでに十一人が亡くなっていたのだ。王子の親族は当然、王子のチャレンジに強く反対したし、お父様側も王子の申し出を受けることに難色を示したと聞く。
 もし王子が私を目覚めさせることができなかった場合、処刑しなくてはならないからだ。

 それまでにも、偉い大臣や天才学者、高名な騎士や易者を死刑に処してきたのだから、外国の王子だからといって特別扱いするわけにはいかない。
 お父様ははっきりそう言い渡したそうだ。

 しかし王子は引き下がらなかった。
 誰にいくら説得されても考えを改めず、ついに激怒した家族に勘当され、王族から追放された。
 そうして、王子ではなくなった彼は、「これで万一、私が処刑されても、コニクア国とグレヴィス国の関係に亀裂が生じることもないでしょう」と微笑んだそうだ。

 相も変わらず眠り続けていた私は、その話をお母様から聞いた。

「今度こそ、本当の勇者さまがいらっしゃるわ。コニクア国、第二王子であられるアルフレッドさまよ。あなたより四つ年上の、とても美しい王子様よ。そうよ、どうして今まで気付かなかったのかしら。姫を救えるのは、異国の王子さまだと昔からそう決まっているの」

 そうだったのか! と、眠りながらも意識のある私は、目からうろこが落ちる思いだった。
 お母様はこうも言った。

「アルフレッドさまは、きっとあなたの運命のお相手よ」

 私はまだ見ぬ王子様に思い巡らせた。
 私の運命のお相手だというアルフレッドさまは、どんなお方だろう。
 噂では、金髪蒼眼の美青年で、颯爽とした春風のような方だと聞く。
 きっと彼こそが、魔女の悪しき魔法から私を解き放ち、共に生きる喜びを与えてくれるのだ。

 待ち焦がれていた王子様は、途中で怖気づくこともなく、お父様との約束どおりやって来た。
 そして私に愛を囁き、そっと唇を重ねた。
 
 初めてのキスという、私にとっては大きな衝撃であり、大事件だったのだが、それに対しての驚きも喜びも怒りも、何一つ表現することは叶わなかった。
 そう、「王子様のキス」をもってしても、私は目覚めなかったのだ。

 お父様との約束どおり、アルフレッド王子は死刑に処された。
 それは前もって何度も通告していたことであり、王子は王族を追放された身であったため、我が国とコニクア国との間で戦争が勃発することはなかったが、やはり大きなしこりは残ってしまった。
 コニクアの王も国民も、きっと我が国を――私を、憎んでいるだろう。

 アルフレッド王子は、とてもいい人だったから。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...